スポーツ社会学研究
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原著論文
  • 実業団ソフトボール選手のキャリアプロセスに着目して
    栗原 志帆, 高尾 将幸
    2026 年34 巻1 号 p. 55-71
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/30
    ジャーナル フリー
     本稿は、高校卒業後すぐにアスリートとして企業に就職するという、日本人女性アスリートに特有のキャリア形成のあり方を踏まえ、実業団スポーツとして定着しているソフトボール選手を事例に、高卒女性アスリートのキャリアプロセスの実態ならびに諸課題を探索的に明らかにすることを目的とした研究である。
     まず、対象者のキャリアプロセスを「修正Role Exit Model」を援用して分析した。その結果、自主的な引退であっても、セカンドキャリアに向けた準備がほとんど行われず、引退後に初めて自らのキャリアを模索し始めるという道筋を辿ることが明らかになった。この知見は、先行研究が示したキャリアプロセスのモデルに新たなプロセスを付け加えるものである。
     次に、そのプロセスに至る背景や、セカンドキャリア形成における具体的な課題について、事例-コード・マトリックスを用いて探索的に分析した。その結果、【閉鎖的な組織風土】の影響により、競技生活が〈今は競技に集中〉すべき時期であると定義され、この状況の定義に従った行動をとらざるを得なくなることから、引退後に向けた準備が行われていない実態が明らかになった。この引退後の準備不足は、【受動的な転機への対処】を余儀なくさせ、さらに【引退後のキャリア形成に対する認識】に影響を及ぼすという移行過程が見出された。とりわけ、高卒の女性アスリートは、転機に対処するための資源が乏しく、競技の世界では有利と認識されていた高卒の学歴も、引退後の労働市場では不利に転じる。この学歴に対する劣等感や資源不足が、セカンドキャリア形成における大きな障壁として認識されていた。
     これらの結果は、高卒女性アスリートに応じたキャリア教育や支援の充実に加え、組織文化の見直しを含む構造的な改善の必要性を示唆している。
     今後の課題としては、他競技における実態の把握や、雇用側のマネジメント意識を含めた包括的な検討が求められる。
  • 弓道の「射法八節」に着目して
    塩崎 世佳
    2026 年34 巻1 号 p. 73-87
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/30
    ジャーナル フリー
     本稿は、「型」に基づくその実践のあり方との関わりに注目しながら、障害者が武道の実践を通じて経験する困難とはいかなるものであるのかを検討したものである。
     障害者の身体実践については、障害者スポーツに関して多くの蓄積が存在する。こうした研究は既存の実践形式を問題なく変えられることを前提に、障害者の身体条件に合わせてルールを調整することで、彼らの実践上の困難を解消することやその身体的な差異に対する価値付けを転換させることができると論じてきた。だが、障害者の武道について検討する上で、以上の枠組みを当てはめるには限界がある。なぜなら武道には、身体的な規範や理想的な身体イメージとして共有された「型」があり、既存の形式を改変することはその価値との対立を招きうるためである。障害者にとっても、自らの身体実践と武道に根付いた規範や価値観との間にコンフリクトが生じうる。
     本稿が取り上げる弓道も、弓を射るための作法や順序について定められた「射法八節」という型に基づく武道であり、障害のある実践者もまた非障害者とともに、既存の型に沿って実践を行っている。本稿では、障害のある弓道実践者に対する半構造化インタビューから得られた語りをもとに、彼らが価値基準として共有された型に照らして、自らの弓道実践をどのように価値付けていたのかに注目しながら、彼らが弓道に根付いた規範や価値観に対していかなる困難を経験していたのかについて検討した。
     その結果として、第一に、障害のある実践者たちは、自らの弓道実践が射法八節を通じて共有された理想的な姿とは異なってしまうことに対する難しさを経験していた。その上で第二に、障害のある実践者は共有された既存の型に基づき自らの実践を行う中で、その作法を一つの価値基準として内在化した上で、自身の弓道実践をその理想的な姿とは異なるものとして否定的・低次的に価値付けていたことが明らかになった。
研究ノート
  • 髙橋 周
    2026 年34 巻1 号 p. 89-97
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/30
    [早期公開] 公開日: 2025/12/08
    ジャーナル フリー
     日本の学校運動部活動において、「恋愛禁止」ルールが設けられることがある。こうした「恋愛禁止」に関する研究はあまりされてこなかったが、数少ない先行研究において、勝利至上主義やヒエラルキーに基づく指導の中で、特に男性指導者から女性選手に対する恋愛禁止の実態が指摘されてきた。
     人権侵害の疑いもある中高運動部活動における恋愛禁止の実態を明らかにするため、アンケート調査とインタビュー調査を行った。アンケート調査は、関西の大規模私立Z 大学の体育会に所属する学生と体育スポーツ系と福祉系が混在する学部の在学生、計500 名を対象に行った。恋愛禁止を課せられた回答者の性別・競技種目、所属していた部活動の競技レベル、指導者の性別に着目した。その結果、中学校運動部活動においては、女性選手と体育館競技の運動部活動参加者が、また、中高運動部活動のいずれにおいても、競技成績が高い選手や武道系運動部活動の所属選手ほど、恋愛禁止が課されることが確認された。さらに女性指導者―女性選手間において恋愛禁止の割合が高いことも明らかとなった。インタビュー調査は計2 名に対して行い、恋愛禁止の実態、指導者からの指導内容、恋愛禁止が課されるようになったコンテクストなどを尋ねた。その結果、勝利至上主義、部活動への一意専心を求める指導、望まない妊娠防止などの理由が語られた。
     以上を踏まえ、「恋愛禁止」は、スポーツ内のセクシュアリティの管理、チームらしさという感覚、そして教師の持つ青少年観、セクシュアリティ観などの多層的な文脈により、正当化されてきたルールだとわかった。男性指導者から女性選手への恋愛禁止に加え、女性指導者から女性選手への恋愛禁止の存在も確認された。また、「恋愛禁止」という規範は部活動固有のものではなく、学校文化全体に根差した構造的な問題である可能性が示唆された。
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