本稿は「ボディビルダーらはジム空間においていかなる世界と対峙しているのか」という問いを起点に、ジム空間で織り成されるボディビルダーらの身体文化について検討した研究である。特に 本稿では、ボディビル・ジムに関する先行研究を参照しつつ、ジム空間で展開される固有の身体性・関係性・集合性の内実、すなわち、①ボディビルダーの行う身体実践やジム空間にて身体が有する意味(身体的位相)、②そのボディビルダーらが織り成す相互作用や関係性(関係的位相)、③そのような相互作用が総体として惹起する集合性(集合的位相)という3 つの位相で織り成される具体的な様相と位相間の関係性に着目しつつ分析を行った。
その結果、ジム空間においてボディビルダーらが、一方では、ウェイトトレーニングという身体実践を介して自身の身体と誠実に向き合い(身体的位相)、また他方では、身体以外のものと向き合うことを禁じる暗黙の禁忌と他の使用者との社交を必要最低限にまで抑える暗黙の規範を遵守する様相が看取された(関係的位相)。そして、このような身体実践と相互作用の一連の体系は、ボディビルダーらの間に暗黙的な一体性を醸成すると同時に、ボディビルダーらにとっての身体(筋肉)を至高の価値を有する聖なるものとして構築し、ジム空間に、身体と向き合うための神聖な教会とでもいうべき独自の世界を招来する様相が明らかになった(集合的位相)。
そして本稿では、以上の分析をヴァカンのボクシング・ジム研究と対照させることによって、ボディビル・ジムで織り成される身体文化に関する考察を行った。そこでは、ボディビル・ジムの身体文化が個人主義的でありつつ共同的であり、共同的でありつつ個人主義的であるという特質、また、身体が空間の中心的な特異点となり、その身体的位相から共感的・身体的なつながりとしての関係的位相や集合的位相が立ち上がるという特質を有していることを考察した。
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