日本血栓止血学会誌
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26 巻, 5 号
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特集 血栓止血分野へのゲノム解析・ゲノム編集技術の応用
  • 矢田 弘史, 野上 恵嗣
    2015 年 26 巻 5 号 p. 513-517
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    ジャーナル フリー
    要約:出血性疾患は,凝固因子の異常をはじめ,血小板や血管における病変,自己免疫疾患を含む全身性疾患などさまざまな原因で引き起こされる病態であり,適切な診断に基づく治療が求められる.凝血学的検査がその診断に広く用いられるが,責任遺伝子の解析により同定される遺伝子変異は,より詳細な病型や,保因者であること,さらには止血凝固メカニズムについての様々な情報をわれわれに提供する.遺伝子解析により分子生物学的特性を明らかにすることは,遺伝子・細胞治療や遺伝子編集などの次世代の出血性疾患治療実現において必須である.また,ヒトゲノム計画により,ヒトの遺伝子がほとんど明らかにされ,ダイレクトシーケンスから次世代シーケンスへと技術が進歩を遂げた今日において,探索的な遺伝子解析による新たな病態の解明が期待される.
  • 森下 英理子
    2015 年 26 巻 5 号 p. 518-523
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    ジャーナル フリー
    要約:先天性血栓性素因としては,凝固阻止因子アンチトロンビン(AT)・プロテインC(PC)・プロテインS(PS)の欠乏症,活性化プロテインC 抵抗性(凝固第V 因子異常症),アンチロンビン抵抗性(プロトロンビン異常症)などがあり,静脈血栓塞栓症の重要な危険因子となる.これらの疾患は若年時より繰り返して血栓症を発症するため,正確に診断し再発予防に努めたり,家系調査による保因者の血栓予防を行うことが大切である.遺伝子解析は,確定診断や病態学的メカニズムの解明に重要な役割を果たしている.今後解析技術の進歩により,さらに変異同定率が向上すること(とくにPS 欠乏症)を期待したい.
  • 稲葉 浩
    2015 年 26 巻 5 号 p. 524-533
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    ジャーナル フリー
    要約:次世代シークエンス解析は,その圧倒的な塩基配列解読能力によって遺伝学や分子生物学の研究を一変させた.この技術は医学の分野にも多様な応用が可能であり,単一遺伝子に起因する遺伝性疾患の解析はもとより,がんや多因子疾患など,その発症や病態に遺伝子が関与する各種疾患を解析する目的で臨床医学にも応用され始めた.次世代シークエンスの有する“網羅的解析を迅速かつ低コストで行うことができる”という特長は,診断のためのツールとしても極めて有用である.本稿では次世代シークエンス解析について,自験例を交えて概説する.
  • 大森 司
    2015 年 26 巻 5 号 p. 534-540
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    ジャーナル フリー
    要約:近年のゲノム編集技術はDNA に二本鎖DNA 切断(double-strand break; DSB)を引き起こす手法と,生体が保持するDSB の修復機構に基づいている.標的と成る遺伝子座にDSB を引き起こす手法にはジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN),TAL エンドヌクレアーゼ(TALEN),CRISPR/Cas9 がある.DSB が生じると,修復過程である非相同組換えによってフレームシフトを生じ,標的遺伝子の発現が異常となる.一方,DSB の両側DNA に相同性をもつ遺伝子配列が存在した場合,一定の確立で相同組換えによる遺伝子修復が生じる.DSB の手法は,とくに第3 世代にあたるCRISPR/Cas9 に著しい進歩が認められており,Cas9 のオルソログ,改変型Cas9,また相同組換えの効率を上昇する手法が次々と報告されている.血栓止血領域においても,本技術を応用した次世代遺伝子治療の開発が期待される.
  • 岩本 禎彦
    2015 年 26 巻 5 号 p. 541-548
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    ジャーナル フリー
    要約:最近の遺伝子解析技術の爆発的進化は,臨床医学における遺伝子診断を,ますます身近なものにすると期待されている.遺伝子診断の中でも生殖細胞系列の遺伝子診断は,①将来の発症予見性,②生涯変化しないこと,③非発症保因者を診断できること,④血縁者,人種,地域共同体に共有されている可能性があること,という,他の医療情報にはない特徴を持つために,最も倫理的な配慮が必要である.とりわけ保因者診断,発症前診断,出生前診断には,遺伝カウンセリングが必須である.また,次世代シークエンサーを用いて全ゲノムやエクソーム解析を行った場合には,本当に診断したかった症候に関連した遺伝子異常だけではなく,予期せぬ遺伝子に配列異常が見出された場合にどう伝えるべきかが問題になっている.遺伝性疾患の根本的治療として,従来,ウイルスベクターを用いた治療が行われているが,受精卵や胚を治療の対象とすることは禁じられている.最近,中国で受精卵のゲノム編集が実施されたことが発表され,物議を醸している.ヒトの生殖細胞のゲノム編集についての議論を,日本でも開始するべきと考える.その際,人類遺伝学を正しく理解しておくことが重要なことである.
  • 篠澤 圭子
    2015 年 26 巻 5 号 p. 549-556
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/19
    ジャーナル フリー
    要約:血友病は,X 染色体の第VIII 因子または第IX 因子の遺伝子変異を病因とする出血性疾患である.X連鎖劣性遺伝形式をとり,通常,患者は男性である.保因者とは,2 本のX 染色体(対立遺伝子)のうち1 本に病因遺伝子変異をもつ女性と定義する.保因者は通常は無症候性であるが,保因者全体の約1/3 に過多月経,鼻出血,術後出血や産後出血などの出血症状がある.確定保因者は,家系から保因者であることを確定できるが,推定保因者が真の保因者であるかを確定するためには保因者診断の検査が必要である.保因者診断は,血液凝固検査と遺伝学的検査により行う.血液凝固検査は保険診療であるが,凝固因子活性は多くの影響因子により変動し,保因者判定は難しい.一方,遺伝子解析による保因者診断は,専門施設の研究で実施しているもので多くの課題はあるが,患者と保因者診断希望者の病因遺伝子変異を直接同定することから確定診断となり,臨床的意義が高い.
凝固・線溶・血小板タンパク質の機能発現機構
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