日本血栓止血学会誌
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27 巻, 3 号
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特集 長鎖分子と血栓止血
  • 中澤 文恵
    2016 年 27 巻 3 号 p. 301-307
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/15
    ジャーナル フリー
    要約:血液凝固経路の中で「接触相」はその生理的意義が謎であった.接触相のタンパク質を遺伝的に欠損していても出血傾向を呈さない,生体内で陰性荷電面を供する物質が同定されていないといった理由で,血栓形成には必要だが止血反応には関与しないのではないかと考えられていた.2007 年に血管が傷害を受けた際に細胞外へ放出されるRNA が生体内で陰性荷電物質として機能し,内因系凝固経路を活性化するという概念をわれわれは提唱した.論文が発表されてから約10 年が経過したが,その間に,血小板から放出されるポリリン酸や好中球から放出されるneutrophil extracellular traps (NETs)に含まれるDNA・ヒストンと凝固・炎症の関連を示す多数の研究結果が報告されている.RNA がdamage-associated molecular pattern(DAMPs)として機能する可能性も示唆されている.本稿ではRNA と血液凝固,RNA と炎症・疾患,生体内のRNA/RNase,治療薬としてのRNase の可能性などを紹介したい.
  • 射場 敏明
    2016 年 27 巻 3 号 p. 308-315
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/15
    ジャーナル フリー
    要約:近年,毛細血管内や組織中で生じる微小血栓,あるいは大血管内で生じる動脈・静脈血栓の形成における好中球の関与が注目されるようになっている.好中球は自然免疫の最前線で機能する血球であるが,これが感染防御の一環として凝固活性化を活用していることが明らかになり,この方面の研究に新しい局面が展開した.すなわち,感染に際して好中球はDNA や核タンパク,さらに細胞質内のプロテアーゼ等で構成されるneutrophil extracellular traps(NETs)を放出して病原体の処理をおこない,同時に凝固反応や血小板活性化によって血栓形成を誘導し,感染の進展を防止していることが明らかにされてきた.しかしこのような機構は,反面,播種性血管内凝固症候群(DIC)や血栓症の原因にもなり,必ずしも益となることばかりではない.本稿ではNETs 以外にも,tissue factor やマイクロパーティクル,damage-associated molecular pattern など,好中球が関与する血栓形成に関する最近の知見を紹介する.
  • 堀内 久徳, 松本 雅則, 小亀 浩市
    2016 年 27 巻 3 号 p. 316-321
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/15
    ジャーナル フリー
    要約:生体内において過度の高ずり応力が生じる循環器疾患では,止血機能に重要なフォンウィルブランド因子(VWF)の機能異常が生じ,出血性疾患である後天性フォンウィルブランド症候群(AVWS)が発症する場合がある.重症大動脈弁狭窄症では大半が血液学的にAVWS を合併しているが,肺高血圧等では頻度が不明である.近年機械的補助循環は重症心不全の治療に大きく貢献してきたが,ほとんどの場合高度のAVWS を合併する.これまであまり注目を集めてこなかったが,高ずり応力によるAVWS の臨床的インパクトは非常に大きく,早急に疾患毎に実態を明らかにして,診断法・対応法を構築することが重要である.
  • 水野 敏秀
    2016 年 27 巻 3 号 p. 322-327
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/15
    ジャーナル フリー
    要約:近年,重症心不全患者に対する植込み型補助人工心臓(ventricular assist device, VAD)を用いた治療は,効果的な治療法として広く認識されるようになっている.しかしながら,一方ではVAD 装着患者の増加と共に,術後遠隔期における消化管出血を主訴とする出血性合併症やvon Willebrand (VW)因子高分子量マルチマーの減少が認められる後天性VW 病の報告も増加している.これらは連続流型血液ポンプの使用によるVW 因子の切断効果の活性化が原因であると考えられ,患者の予後やQuality of life の低下に係わる重要な課題となっている.本論文では,新しい治療機器である補助人工心臓の現状と,そのポンプ内の特異的な血流状態が原因として新たに注目されたデバイス関連性(後天性)VW 病について解説する.
  • 小川 覚, 宮田 茂樹
    2016 年 27 巻 3 号 p. 328-338
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/15
    ジャーナル フリー
    要約:フィブリノゲンはフィブリン血栓形成における最終基質として,トロンビンの標的となる重要な糖蛋白である.そのため,大量出血,大量輸血に伴う希釈性凝固障害に対しては,近年,フィブリノゲン補充の重要性が強調されている.後天性出血へのフィブリノゲン濃縮製剤やクリオプレシピテートの応用がひろがりつつある本邦での動向をうけ,その止血効果を再検討する時期にある.諸外国における先行研究の多くがフィブリノゲン濃縮製剤の有効性を支持しているが,十分なエビデンスレベルの構築には至っておらず,有効な患者群の選定やトリガー値の設定は現状において明確でない.トロンビン産生を誘導するタイプの凝固因子濃縮製剤に比較して,フィブリノゲン濃縮製剤は血栓性リスクが低く,比較的に安全性の高い血液製剤である.しかしながら,高度の全般的な凝固因子欠乏状態下では単一の凝固因子補充では不十分であることから,病態に応じて,血漿製剤や複数の凝固因子製剤を適宜に組み合わせる止血対応が求められる.
総説
  • 根木 玲子, 宮田 敏行
    2016 年 27 巻 3 号 p. 339-348
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/15
    ジャーナル フリー
    要約:私達は妊娠と関連して発症した深部静脈血栓症(deep vein thrombosis: DVT)と不育症を示す患者348 人を収集し,全員のアンチトロンビン(AT),プロテインC(PC),プロテインS(PS)の遺伝子をシークエンスすることにより,その遺伝的背景に関する研究を行った.その結果,DVT18 例では5例が遺伝子変異を有し,そのうちの2 例は低頻度の血栓性素因として知られているPS K196E 変異を保有していた.変異を有する5 例は,いずれも妊娠の初期および中期にDVT 発症を認め,後期および産褥期の発症例はなかった.330 人の不育症患者では,6 例にPS K196E 変異を同定し(頻度:1.8%),一般住民で求められていた頻度(1.8%)と有意差はなく,リスクではないと考えた.PS K196E 変異以外のまれなミスセンス変異などは,11 人の不育症(3.3%)に認めた.この頻度は一般住民に認められるよりも高いと考えられ,先天性の凝固制御因子のまれな遺伝子変異は不育症のリスクである可能性を否定できない.しかし,まれな変異は不育症症例のわずか3.3%にしか認められなかったため,不育症の主な原因とはならないと考えた.
原著
  • Koji ITO
    2016 年 27 巻 3 号 p. 349-357
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/15
    ジャーナル フリー
    The effect of water-extractive components solutions (extracts) from heshiko and narezushi, fermented mackerel products, on plasminogen activator inhibitor type-1 (PAI-1) was investigated in rats. Administration of heshiko and narezushi extracts tended to suppress the increase in both PAI-1 activity and total content associated with high-fat diet administration in rats. PAI-1 activity but not total content showed a relation to plasma triglyceride level and a reverse relation to tPA activity before and after administration of heshiko and narezushi extracts. The extracts directly inhibited PAI-1 activity in vitro, and the inhibitory activity was not lost after alimentary enzyme digestion of the extracts. The PAI-1 inhibitory activity of heshiko extract was tended to be stronger than that of narezushi extract. These results suggest that heshiko and narezushi extracts are closely involved in the promotion of fibrinolytic activity via direct PAI-1 inhibition as well as indirect suppression by decreasing the plasma triglyceride level.
凝固・線溶・血小板タンパク質の機能発現機構
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