日本血栓止血学会誌
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33 巻, 4 号
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Editorial
特集:TTPの基礎と臨床
  • 松井 太衛
    原稿種別: 特集:TTPの基礎と臨床
    2022 年 33 巻 4 号 p. 386-393
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/31
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    von Willebrand因子(VWF)はマルチドメインからなるサブユニットが多数連結した紐状の分子であり止血血栓の形成に関与する.VWFは血管内皮細胞と骨髄巨核球で特異的に合成され,転写調節領域とそれに結合する転写調節因子が明らかにされている.VWFマルチマーは内皮細胞のWeibel-Palade body(WPB)にコンパクトにパッキングされるほか,構成性及び調節性に分泌される.VWFマルチマーのパッキング過程や,分泌後の紐状構造への展開にはpH環境による立体構造変化が関与している.WPBの成熟やエキソサイトーシス過程にはG-タンパク質やキナーゼ,細胞骨格,モータータンパク質,膜融合に必須のSNAREタンパク質群とその制御タンパク質,Ca2+などが関与している.VWFは巧妙に設計された抗出血分子であり,常に全身の血管で合成,貯蔵,分泌され,動的に入れ替わっている.

  • 秋山 正志
    原稿種別: 特集:TTPの基礎と臨床
    2022 年 33 巻 4 号 p. 394-398
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/31
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    ADAMTS13はvon Willebrand factor(VWF)を特異的に切断するメタロプロテアーゼである.ADAMTS13のVWF切断活性は自身のコンフォメーション変化をともなうアロステリックな機構により調節されている.遊離状態のADAMTS13は,スペーサー(S)ドメインにC末端の2つのCUBドメインが結合し,ヘアピン様の閉じたコンフォメーションとなって活性が抑制されている.ADAMTS13のCUBドメインを含むC末端側領域がVWFのC末端側のD4~CK領域に結合すると,CUBドメインはSドメインから外れ,ADAMTS13は開いたコンフォメーションとなる.この時,ADAMTS13のN末端側領域は,ずり応力で伸びたVWF A2ドメインに結合し,VWFを切断する.ADAMTS13のコンフォメーション状態が血栓性血小板減少性紫斑病の発症や病態と関連していることも明らかになった.

  • 久保 政之, 松本 雅則
    原稿種別: 特集:TTPの基礎と臨床
    2022 年 33 巻 4 号 p. 399-407
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/31
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    血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP)は,ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)活性の低下によって全身の微小血管に血小板血栓を形成し,虚血性に臓器障害を生じる致死的な疾患である.その症状は多彩であるが,診断においては血小板減少と溶血性貧血が特に重要であり,この2徴候を認めた場合にはADAMTS13活性を測定し,10%未満に低下している場合にTTPと診断する.TTPは無治療の場合には極めて予後不良な疾患であるため,ADAMTS13の検査結果が判明する前に血漿交換を開始しなければならない場合があり,その判断にはPLASMICスコアやFrenchスコアといったADAMTS13活性を予測するツールの有用性が示されている.近年では,病態解析の進歩に伴って,新規治療薬の開発や臨床への導入が進められており,TTPを適切に診断し,治療へと速やかにつなげていくことが求められている.

  • 日笠 聡
    原稿種別: 特集:TTPの基礎と臨床
    2022 年 33 巻 4 号 p. 408-413
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/31
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    先天性血栓性血小板減少性紫斑病(先天性thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)は,von Willebrand因子の切断酵素であるA disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs 13(ADAMTS13)の先天的欠乏により,血小板減少,溶血性貧血,腎障害,動揺性精神系精神症状などの症状を発症する疾患である.先天性TTPの治療は,FFPによるADAMTS13の補充療法である.後天性TTPとは異なり血漿交換療法は不要で,FFPの輸注のみで十分症状が改善する.症状の出現を予防するために,非発作時にもFFPの定期輸注が必要な症例から,症状出現時のみにFFP輸注が必要な症例まで,有効なFFPの投与方法は症例によって異なる.FFPの定期輸注は,我が国の診療ガイドでは5~10 mL/kgを2~3週毎に輸注するとされている.現在遺伝子組み替えADAMTS13製剤の開発が進められており,これが承認されれば先天性TTPの治療は大きく変化すると考えられる.

  • 宮川 義隆
    原稿種別: 特集:TTPの基礎と臨床
    2022 年 33 巻 4 号 p. 414-420
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/31
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    後天性血栓性血小板減少性紫斑病(後天性TTP)の治療は,血漿交換が従来の隔日から連日に変更し,抗CD20抗体リツキシマブの適応拡大により再発・難治例の予後が改善した.欧米では,抗フォンビルブランド因子(VWF)抗体カプラシズマブが実用化され,死亡率が低下し,急性期の血栓症の減少と入院期間の短縮に繋がった.本稿ではフランスTMAセンターで行われたトリプル療法(血漿交換,免疫抑制(副腎皮質ステロイド,リツキシマブ),カプラシズマブ)の最新データを最初に紹介する.トリプル療法は従来の治療と比べて,複合エンドポイント(死亡,治療無効)が12.2%から2.2%と改善した.さらに血小板数が正常化するまでの日数と入院期間が短縮した.本稿では国内の薬事承認が近いカプラシズマブの海外試験と,国内外のガイドラインで推奨されている各種治療について解説する.

トピックス 新型コロナウイルス関連シリーズ
トピックス
2022年度日本血栓止血学会 岡本賞 Shosuke Award
  • 浅田 祐士郎
    原稿種別: 2022年度日本血栓止血学会 岡本賞 Shosuke Award
    2022 年 33 巻 4 号 p. 437-447
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/31
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    心筋梗塞や脳梗塞に代表されるアテローム血栓症の多くは,動脈硬化性プラークの破綻による血栓形成によって発症する.筆者らは病理学の立場から,アテローム血栓症の発症機序の解明に取り組んできた.プラーク破綻部の血栓は,健常動脈と異なり,血小板に加えて多量のフィブリンから成る.これはプラーク内のマクロファージや平滑筋細胞が,動脈硬化の進行に伴い組織因子を高発現するためで,プラークの組織性状や破綻の様式(破裂,びらん)によって血小板とフィブリンの度合いが異なることを見出した.これらの所見を踏まえて,ヒトの病態を反映しうるアテローム血栓症の動物モデルを作成した.プラーク内の組織因子は,CRPをはじめ多くの炎症関連因子やプラーク内出血などに起因する酸化ストレスによって誘導される.加えてプラーク内の低酸素環境も組織因子を強く誘導すること,これに対する細胞内代謝変化が血栓形成能と関連することも明らかにした.また組織因子は,VII因子とプロテアーゼ活性化受容体を介して平滑筋細胞の遊走など,凝固反応以外の生理作用も有し,プラーク形成の促進にも寄与することを見出した.血小板の活性化では,進行した動脈硬化巣ではecto-NTPDase/CD39が減少し,CLEC-2の生体内リガンドであるポドプラニンの発現による活性化亢進が認められる.一方,プラーク破綻は無症候性(血栓が小さく非閉塞性)のものが多いことから,破綻部における血栓の増大機序に着目し,血栓の増大には,プラーク自体の血栓形成能と破綻の程度に加えて,血流の状態,内因系凝固反応,VWF/ADAMTS13などが寄与することを示した.またXI因子は,その活性阻害により,出血時間の延長なく血栓の増大を抑制することを見出し,新たな抗血栓薬のターゲットとなることを報告した.

2022年度日本血栓止血学会 岡本賞 Utako Award
  • 根木 玲子
    原稿種別: 2022年度日本血栓止血学会 岡本賞 Utako Award
    2022 年 33 巻 4 号 p. 448-456
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/31
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    妊娠と関連して発症した静脈血栓塞栓症は,今なお妊産婦死亡に占める頻度は高い.この誘因の一つに遺伝性血栓性素因が挙げられる.私達は遺伝性血栓性素因と妊娠合併症の関連を検討するため,妊娠関連の深部静脈血栓症(deep vein thrombosis: DVT)患者と不育症患者の遺伝的背景に関する研究を発表した.全員のアンチトロンビン,プロテインC,プロテインSの遺伝子のエクソン配列をサンガー法で決定した結果,低頻度の血栓性素因で知られるプロテインS p.Lys196Glu(PS p.K196E)は妊娠関連DVTのリスク因子と考えられた.一方,不育症患者でもPS p.K196Eを同定したものの,一般住民の頻度1.8%と有意差はなくリスクではないと考えた.また妊娠中の抗凝固療法については未分画ヘパリン(unfractionated heparin: UFH)投与が基本だが,その管理には苦慮する.モニタリング指標として用いられる活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time: APTT)では,妊娠中の凝固因子の増加によりコントロールが難しくなる.私達は,どの凝固因子がAPTT短縮に最も影響を及ぼすのかを検討するため添加実験を実施した.また当院産婦人科部ではUFHによる妊娠中の抗凝固療法のプロトコールを独自に作成し,APTT比の治療目標設定値を通常より抑えた1.5~2.0倍としている.本プロトコールを凝固因子量の増加による影響を受けない抗Xa活性で検証した.その結果,概ね治療域内にあり,大量出血や血栓性イベントは認めなかった.このことから控えめな抗凝固療法が許容されると考えられた.

2022年度日本血栓止血学会 学術奨励賞
  • 芥田 敬吾
    原稿種別: 2022年度日本血栓止血学会 学術奨励賞
    2022 年 33 巻 4 号 p. 457-465
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/31
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    遺伝性巨大血小板性血小板減少症の原因遺伝子としてインテグリンαIIbβ3(GPIIb/IIIa)の活性化変異が複数報告されており,本邦ではαIIb(R995W)が最も多く認められる.本研究において,我々はαIIb(R995W)に相当するαIIb(R990W)ノックイン(KI)マウスを作成した.αIIb(R990W) KIマウスは巨大血小板性血小板減少症を呈し,血小板産生障害を認めた.KIマウスにおいてproplatelet形成の障害を認め,血小板産生障害の主因がproplatelet形成の障害にあることを示した.また,ホモマウス血小板のαIIbβ3発現が著明に減少し,出血時間の延長,血小板凝集の欠如といった血小板無力症様の重度の血小板機能障害を示すことを明らかにした.本稿では,αIIbβ3活性化変異が血小板産生,血小板形態および血小板機能に及ぼす影響について概説する.

  • 大竹 志門
    原稿種別: 2022年度日本血栓止血学会 学術奨励賞
    2022 年 33 巻 4 号 p. 466-473
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/31
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    私たちは蛇毒ロドサイチンの受容体として,血小板活性化受容体C-type lectin-like receptor 2(CLEC-2)を同定した.さらに,その生体内リガンドがPDPNであり,それらの相互作用が様々な病態生理学的役割を持つことを報告してきた.これらの検討にあたり作製した巨核球・血小板特異的CLEC-2ノックアウトマウスが思いがけず貧血を呈したことから,巨核球・血小板が別の系統の造血環境に影響を及ぼしている可能性について検討を行った.その結果,骨髄細動脈周囲に存在し,細網線維芽細胞に似た表面抗原発現をもつPDPN発現間質細胞が,CLEC-2の刺激によりIGF-1を産生,このIGF-1が赤芽球のアポトーシスを抑制することでその造血を正に制御していることが判明した.このように,系統の決定した造血細胞が,別の系統の造血を制御するという機序はこれまでにないユニークな機構であり,本稿ではこの詳細について考察を交えて解説する.

第16回日本血栓止血学会学術標準化委員会(Scientific Standardization Committee: SSC) 2022シンポジウムプログラム
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