日本血栓止血学会誌
Online ISSN : 1880-8808
Print ISSN : 0915-7441
ISSN-L : 0915-7441
最新号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
Editorial
特集:『播種性⾎管内凝固(DIC)診療ガイドライン2024』の背景と今後
  • 岡本 好司
    原稿種別: 特集:『播種性⾎管内凝固(DIC)診療ガイドライン2024』の背景と今後
    2025 年36 巻5 号 p. 600-602
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/15
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    日本血栓止血学会から,播種性血管内凝固(DIC)診療ガイドライン2024を発刊した.世界をリードする本学会のSSC委員会DIC部会員を中心とした作成委員により,エビデンスとエキスパートコンセンサスを交えて作成された,現時点で基礎疾患別に記載される世界初のガイドラインとなった.造血器腫瘍,固形がん,敗血症,外傷,急性膵炎・肝不全,血管異常,産科,その他の8つの基礎疾患別の構成となった.質の高いエビデンスが存在していない臨床疑問に対しては,エキスパートのコンセンサスを基に記載を行なった.診療ガイドラインは作成して終わりでなく,普及に力を注ぎ,さらにガイドライン発刊にて診療現場にどのような影響をもたらしたかを調査していかなければならない.また,作成過程で明らかとなったエビデンスが不足している臨床課題については,DIC部会員を中心とした多施設研究などを行い,エビデンスの創生もガイドライン作成者として重要な役割である.

  • 河野 徳明, 池添 隆之
    原稿種別: 特集:『播種性⾎管内凝固(DIC)診療ガイドライン2024』の背景と今後
    2025 年36 巻5 号 p. 603-617
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/15
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    造血器腫瘍,特に急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia: APL)に伴う播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC)は,著明な線溶亢進をきたし,重篤な出血性合併症を引き起こす.出血関連死の軽減のため,早期のDIC診断と適切な治療を行うことが重要である.今回,系統的文献レビューに基づいた造血器腫瘍に伴うDICの診療guideline(GL)2024が発出され,DIC診断及び治療アルゴリズムが示された.DIC診断は,日本血栓止血学会(JSTH)DIC診断基準(2017年版)又は旧厚生省DIC診断基準(1983年版)の使用を推奨している.DICの治療は,まず基礎疾患の治療が重要で,必要に応じた輸血療法も必須である.抗線溶療法に関して,トラネキサム酸の投与は,全トランス型レチノイン酸(all-trans retinoic acid: ATRA)治療中のAPL患者には推奨されない(強い推奨:GRADE 1C).一方,抗凝固療法に関して,トロンボモジュリン製剤の投与は弱く推奨される(弱い推奨:GRADE 2B)のに対し,ヘパリンやセリンプロテアーゼ阻害薬などの投与は推奨されない(弱い推奨:GRADE 2C).臨床現場で,本診療GLが,造血器腫瘍に伴うDICの診断・治療における最適な方策を見出す一助となる事を願う.

  • 関 義信
    原稿種別: 特集:『播種性⾎管内凝固(DIC)診療ガイドライン2024』の背景と今後
    2025 年36 巻5 号 p. 618-623
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/15
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    固形がんに伴う播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC)は一般的に凝固活性による血小板減少と骨髄での産生が長時間均衡しているいわゆる慢性DICの臨床形式を示す.がん腫の全身播種では時に急速進行性の臨床形式を示しその病態は様々である.またがん関連血栓症(cancer associated thrombosis: CAT)の1つでもあり,しばしば病的血栓を併発する.DICの早期かつ適切な診断・治療が担がん患者の生命予後やquality of life(QOL)の向上に必須である.

    固形がんに伴うDICは日本血栓止血学会DIC診療ガイドライン2024での1つの章でもあり,今現在分かっている望ましい診断・治療が提示された.固形がんに伴うDICと一括りに分類されているが,基礎疾患となるがん種,特に病理学的分類,病期,DICの程度(慢性か急速進行性か),患者の生命予後など実に千差万別である.状況別に如何なる治療を選択していくべきか今後明らかにしていくべき課題の1つと考える.

  • 十時 崇彰, 山川 一馬
    原稿種別: 特集:『播種性⾎管内凝固(DIC)診療ガイドライン2024』の背景と今後
    2025 年36 巻5 号 p. 624-629
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/15
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    2024年に改訂された日本血栓止血学会の「DIC診療ガイドライン」は,敗血症に伴う播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC)の診療に大きな転換をもたらした.診断においては,単一の基準に固執せず,早期診断から予後予測まで,臨床状況に応じて急性期DIC診断基準やISTH overt DIC基準などを使い分ける戦略を推奨している.治療における最大の要点は,アンチトロンビン(AT)製剤とリコンビナントトロンボモジュリン(rTM)製剤の投与をいずれも「強く推奨」したことである.これらの薬剤は,単なる抗凝固作用だけでなく,その抗炎症作用や血管内皮保護作用といった多面的な効果により,炎症と凝固の悪循環を断ち切ることが期待される.今後は,これらの治療薬の有効性をより高い確実性で検証する大規模な臨床試験の実施が重要な課題となる.

  • 早川 峰司
    原稿種別: 特集:『播種性⾎管内凝固(DIC)診療ガイドライン2024』の背景と今後
    2025 年36 巻5 号 p. 630-635
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/15
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    重症外傷における受傷早期の凝固障害は予後不良と関連するが,DIC合併例を対象とした介入研究は皆無である.そのような背景の中作成された,2024年版DIC診療ガイドライン内の重症外傷に伴うDICの診断と治療について解説する.CRASH-2試験などで有効性が示されているトラネキサム酸は,外傷症例全体での早期投与が推奨されているため,「受傷直後にDICを発症している,もしくは発症が予測される外傷患者に対し,検査結果を待つことなく,速やかにトラネキサム酸を投与することを弱く推奨する」とした.過去の多施設共同研究のデータを用いた解析では,DICを含む特定の凝固線溶異常を示す症例でトラネキサム酸の死亡抑制効果が示唆された.また,新鮮凍結血漿やフィブリノゲン濃縮製剤などの凝固因子製剤に関しては,早期の投与を推奨した.ただし,フィブリノゲン低値やPT延長とDICは必ずしも一致せず,今後の研究でDICの有無による治療効果の具体的な検証が望まれる.

  • ~DICガイドライン作成を振り返って~
    田村 利尚, 真弓 俊彦, 茂野 綾美, 中村 謙介, 丹保 亜希仁, 望月 勝徳, 仲村 佳彦, 石倉 宏恭
    原稿種別: 特集:『播種性⾎管内凝固(DIC)診療ガイドライン2024』の背景と今後
    2025 年36 巻5 号 p. 636-640
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/15
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    今回,基礎疾患を急性膵炎とする播種性血管内凝固(症候群)(DIC)の診療ガイドラインを作成した.作成に当たり,まず文献の検索,抽出,採択を実施したが,この領域には病態・診断・治療に関する質の高いエビデンスが乏しく,明確なClinical Questionの設定や推奨の提示には至らなかった.そこで,エビデンスレベルは低いながらも興味深い報告や論文にまで範囲を広げて検討を行ったが,やや古い文献や記載が不十分な報告も含まれた点が課題であった.今回の結果を踏まえ,この領域ではまず,DICに関連した項目を含む急性膵炎のレジストリー研究や,日本における敗血症のレジストリー研究から膵炎症例を抽出したpost hoc解析,大規模リアルワールドデータ(RWD)を用いた研究が求められる.勿論,ランダム化比較試験(RCT)の構築が理想だが,実施には倫理的・費用的課題も多く,現時点ではRWDを活用した解析が現実的と考えられる.今後の質の高い臨床研究の蓄積が望まれる.

  • ―DICガイドライン作成を振り返って―
    矢田 憲孝, 西尾 健治, 川副 友, 髙谷 悠大, 石倉 宏恭
    原稿種別: 特集:『播種性⾎管内凝固(DIC)診療ガイドライン2024』の背景と今後
    2025 年36 巻5 号 p. 641-644
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/15
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    今回,我々は急性肝不全(acute liver failure: ALF)に起因する播種性血管内凝固(症候群)(DIC)の診療ガイドラインの作成を担当した.作業開始時より,当該領域には質の高い研究報告が乏しいことが予想されていたため,文献検索を広く網羅的に行い,現状の把握に努めた.その結果,病態・診断・治療に関して明確な推奨を導き出せるような高品質な報告は存在せず,予想通り困難な作業となった.ALFは多様な病因や病態を有し,DIC様の凝固障害を伴うものとそうでないものが混在しており,「ALFに伴う凝固障害」と「ALFに起因するDIC」の区別が難しく,DICの診断基準も曖昧である点が課題として浮上した.既存の報告の多くは本邦からであり,診断には日本救急医学会の急性期DIC診断基準が多く用いられていた.本作業を通じて,ウイルス性肝炎由来のALFではDICの合併が少ない可能性など,新たな知見も得られた.本ガイドラインが今後のエビデンス構築の一助となることを期待する.

  • 山田 真也, 朝倉 英策
    原稿種別: 特集:『播種性⾎管内凝固(DIC)診療ガイドライン2024』の背景と今後
    2025 年36 巻5 号 p. 645-652
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/15
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    本稿では,「播種性血管内凝固(DIC)診療ガイドライン2024」のうち,「血管異常症」の内容について解説する.血管異常症を,大動脈瘤・解離,血管奇形,血管炎症候群の総称とし,各個別の疾患を血管関連疾患と呼称することを定義づけた.ガイドライン内では,DICをきたす血管関連疾患の種類,DICに対する治療介入の是非とタイミング,治療選択肢とその選択方法の3点をバックグラウンドクエスチョンとして記述した.この領域はまとまった症例数の報告が少なく,エキスパートオピニオンとしての位置づけとなっている.今後明らかにすべき課題として,DICと関連した血管関連疾患の疫学,症状や検査値の特徴をさらに明確にする必要がある.また,周術期や慢性期のDICに対する治療介入の意義については非介入群との比較試験も望まれる.血管関連疾患に伴うDICの合併は十分に認知されていないのが現状であり,本ガイドラインの発行を通して今後さらなる啓発活動を行う必要がある.

  • 川﨑 薫
    原稿種別: 特集:『播種性⾎管内凝固(DIC)診療ガイドライン2024』の背景と今後
    2025 年36 巻5 号 p. 653-657
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/15
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    産科DICは急激に発症し,迅速な診断と治療が母体救命に不可欠な病態である.診断は,長らく産科DICスコアが使用されてきたが,2022年に暫定版産科DIC診断基準として改定され,2024年に改訂版産科DIC診断基準として発表された.この改訂により,産科DICは大量出血を呈する線溶亢進型DICを主たる対象とすることが明確化された.治療では,胎児・胎盤の娩出や止血処置など原疾患への対処と並行して,フィブリノゲン濃縮製剤や新鮮凍結血漿(FFP)を用いた補充療法,トラネキサム酸による抗線溶療法,アンチトロンビン製剤やトロンボモジュリン製剤による抗凝固療法などが行われる.さらに,止血困難な重症例では活性型第VII因子製剤の使用も検討される.これらの治療戦略は,病態の進行を抑制し,母体の救命を図るうえで重要な役割を果たしている.

  • 内場 光浩, 松本 剛史
    原稿種別: 特集:『播種性⾎管内凝固(DIC)診療ガイドライン2024』の背景と今後
    2025 年36 巻5 号 p. 658-663
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/15
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    播種性血管内凝固症候群(DIC)は様々な疾患に合併する病態であり,基礎疾患ごとに分類している診療ガイドラインに当てはまらない疾患群においてもDICを合併し得る.また,原疾患が不明の状態で,凝固異常が先に認知される場合も多い.著しい凝固活性化が共通している病態であるが,その凝固活性化の機序や凝固反応の抑制状態は疾患や病態によって異なる.凝固活性化の機序が不明な病態も多い.また臨床症状や検査所見も様々である.DICが予後に与える影響についても不明な点も多く,疾患ごとの診療エビデンスはないことが多い.希少疾患も多いこともあり,このため診断および治療に関するレベルの高いガイドライン等はほとんどない.疾患ごとの一律の対応は難しく,患者ごとに,疾患背景や病態の理解の上で,個別に対応することが必要となる.

トピックス 新しい医療モダリティシリーズ
症例報告
  • 久保田 純弥, 天羽 健太郎, 室﨑 瑛理奈, 大山 恵美子, 夏田 明子, 長谷川 大輔
    原稿種別: 症例報告
    2025 年36 巻5 号 p. 672-678
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/15
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    関節症状のない重症血友病小児2例にリハビリテーション治療による評価と介入を行ったので報告する.症例1:重症血友病Aの7歳男児.1歳時から標準型血液製剤の定期補充療法を開始し,5歳時に半減期延長型製剤に変更した.自覚症状はないが,7歳時の画像所見で関節症性変化を認めた.血友病関節健康スコア(HJHS)5点,バランス機能低下と跛行を認めた.運動指導を開始して1ヶ月後のHJHSが1点となり,バランス機能と跛行の改善を認めた.症例2:重症血友病Aの8歳男児.2歳時から標準型血液製剤の定期補充療法を開始した.自覚症状及び画像所見の異常はなかったが,HJHSは16点で,跛行があり,ジャンプ動作は拙劣であった.運動指導を開始して2ヶ月後のHJHSは4点で,運動機能も改善した.血友病患者では自覚症状がなくても運動機能低下を認める例があり,早期のリハビリテーション治療が有効である可能性がある.

私達の最新論文
研究四方山話
研究室Now
ジャーナルクラブ
feedback
Top