日本輸血細胞治療学会誌
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56 巻, 1 号
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原著
  • 伊藤 晋, 山本 茂一, 林 司, 加藤 誠司, 日裏 久英, 松本 雅則, 藤村 吉博
    2010 年 56 巻 1 号 p. 27-35
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    ADAMTS13は,止血因子であるフォンビレブランド因子(VWF)のA2ドメイン内のTyr1605-Met1606間のペプチド結合を特異的に切断する酵素である.この切断により新たに生じるペプチドのC末端Tyr1605を特異的に認識するモノクローナル抗体を用いて,基質の切断生成物をELISA法で直接測定する原理に基づいたADAMTS13活性測定法のキット化を行い,そのキットの基本的な性能を評価した.
    本キットの最小検出感度は,健常人のADAMTS13活性100%に対して,0.4%と高感度であった.また,調製したプレート内のウエル間の均一性(変動係数(CV)=3.3%)は良好で,濃度の違う検体での同時再現性(CV=1.1~4.7%)及び日差再現性(CV=2.6~7.5%)も良好であった.希釈試験では,原点に回帰する良好な直線性が得られた.またヘモグロビンやビリルビン等の共存物質の影響は,検討した濃度範囲では認められなかった.反応はEDTAで完全に阻害された.
    臨床検体及び健常人検体を本キットで測定したときのADAMTS13活性は,健常人プール血漿100%に対し先天性のADAMTS13活性欠損症であるUpshaw-Schulman症候群(USS)で0.5%以下~2.7%,USS保因者群で7.7~85.3%,血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)群で0.5%以下~58.1%,健常人で54.7~134.4%と測定され,TTPの診断に必要な判別能を有しており,SDS-agaroseゲル電気泳動法との相関は相関係数(r)=0.931と良好であった.本キットは優れた性能と操作性を有していることから,TTPの診断や血小板輸血時の適否判断などにおいて有用であると考えられた.
  • 山本 晃士, 西脇 公俊, 加藤 千秋, 花井 慶子, 菊地 良介, 柴山 修司, 梛野 正人, 木内 哲也, 上田 裕一, 高松 純樹
    2010 年 56 巻 1 号 p. 36-42
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    <背景・目的>手術関連死亡の最大原因は術中の大量出血であるが,その背景には外科的手技による止血が不可能な希釈性凝固障害という病態が存在する.したがって術中の大量出血を未然に防ぐには止血のための輸血治療が必要であり,その治療指針の確立が急務である.<方法・結果>術中の大量出血・大量輸血症例を後方視的に調査した結果,その60%強を胸部大動脈瘤手術,肝臓移植術,肝臓癌・肝門部癌切除術が占めていた.術中大量出血の背景にある止血不全の主要因は,出血量の増加にともなう凝固因子(特にフィブリノゲン)の喪失,枯渇であると考えられた.そこで上記症例の手術中に起こった低フィブリノゲン血症に対し,クリオプレシピテートおよびフィブリノゲン濃縮製剤の投与を行ったところ,速やかなフィブリノゲン値の上昇と止血の改善,および術中出血量・輸血量の顕著な減少(平均で30~40%減)を認めた.<結論>術中の出血量増加時には,フィブリノゲン値を確認した上で速やかにフィブリノゲン濃縮製剤を投与することが,大量出血・大量輸血を未然に防ぎ,手術患者の予後改善に大きく貢献するとともに,血液製剤の使用削減・有効利用につながると考えられた.
症例
  • 菊地 正美, 小野 智, 菅原 亜紀子, 安田 広康, Nollet Kenneth E., 大戸 斉
    2010 年 56 巻 1 号 p. 43-47
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    PCR-Luminex法とPCR-SBT法(sequence based typing)でHLA-Bの結果が不一致となった症例を経験し,そのアリルの遺伝子配列からHLA-Bの新規アリル(HLA-B*4002new)であることがわかった.
    当初,患者のHLA-Bアリルの1つはPCR-Luminex法でHLA-B*4006と判定したが,PCR-SBT法を用いた骨髄バンクからの報告はHLA-B*4002関連アリルの塩基が置換したアリルであることが示唆された.そこで,患者HLA-Bの塩基配列を調べ,HLA-B*400201と比較した結果,exon 3領域にある塩基369がC→Tに置換していることが判明した.また,母親由来のHLA-B*4002newは患者の妹にも遺伝されていることが,家系調査の結果から明らかとなった.
    本研究によって明らかになったHLA-B*4002関連アリルは,変異部位を含む99番目コドンがTATであったため,アミノ酸はHLA-B*400201のTACと同様にチロシンに翻訳され(同義置換),HLA-B*400201と同一のHLA-A*2601-B*4002new-DRB1*0901とハプロタイプを形成していた.また,日本人においては,HLA-B*4002関連アリルのうち,HLA-B*400201がほとんどを占めていることから,今回見出されたアリルはHLA-B*400201から点突然変異によって形成されたものと推測される.抗原分子としては,HLA-B*4002アリルによってコードされるHLA-B61抗原と血清学的に同等な特異性を示すと考えられる.
報告
  • 竹山 佳織, 辻 博之, 永峰 知子, 中村 恵子, 玉井 普, 松本 雅則, 藤村 吉博, 谷 慶彦, 柴田 弘俊
    2010 年 56 巻 1 号 p. 48-51
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    Upshaw-Schulman症候群(USS)は,von Willebrand因子切断酵素(ADAMTS13)の遺伝子変異により,ADAMTS13活性が著減して発症する先天性血栓性血小板減少性紫斑病である.典型的な症例では新生児期から重症黄疸を呈し,しばしば交換輸血を要する.また,血小板減少症や細血管障害性溶血性貧血などを繰り返し,新鮮凍結血漿(FFP)投与が必要となる.多くの症例では,ADAMTS13を補充する目的で2~3週間ごとに新鮮凍結血漿の定期投与を続けている.このため,感染症やアレルギーなどの副作用を生じる場合がある.この問題を解決するため,シングルドナー由来の小分けFFP投与を行った.過去にランダムドナー由来のFFPで2度蕁麻疹を発症したUSS症例において,小分けFFPを22カ月にわたり使用することで,治療継続が可能となった症例を経験した.
  • 大友 直樹, 土屋 有紀, 大石 裕紀子, 相川 佳子, 梶原 道子
    2010 年 56 巻 1 号 p. 52-56
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    コンピュータクロスマッチを採用する場合,輸血用血液製剤の血液型確認検査は必須である.多くの施設でコンピュータによる輸血管理システムが導入されているが,製剤の血液型検査結果はシステムに反映されていない.また検査手技も用手法が主流であり,検査過誤の可能性もある.我々は,赤血球製剤の血液型確認検査の自動化と,製剤データベースへの検査結果登録をシステム化することにより,「輸血療法の実施に関する指針」の示す,コンピュータクロスマッチの条件を満たす輸血管理システムの構築を行い,人為的な誤りの排除と,手順の合理化・省力化を実現した.コンピュータクロスマッチの適応は,臨床的に問題となる抗体が過去に検出されていないという情報を基に決定しているが,自施設での情報のみに依存している現状がある.施設間情報共有のため最小限の機能的要件を含めた「輸血情報管理指針」の作成が望まれる.
  • 玉井 佳子, 北澤 淳一, 田中 一人, 兎内 謙始, 小舘 昭示, 村上 知教, 棟方 千里, 立花 直樹
    2010 年 56 巻 1 号 p. 57-61
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    【背景】医療関係者は,輸血医療・業務に習熟している必要があるが,看護師の輸血業務に関しては論議されることが少なかった.安全な輸血医療提供のために,看護師責務は重大である.
    【目的】看護師の輸血医療への関与の現状把握のため,輸血業務に対する意識・知識,疑問・要望を調査した.
    【対象・方法】青森県地区拠点7病院のうちI&A認証施設の青森県立中央病院,黒石市国民健康保険黒石病院と,弘前大学医学部附属病院の看護師182名を対象に文書によるアンケート調査を施行した.
    【結果・考察】輸血開始推奨速度(1ml/分)の正答率は61%であった.異型不適合輸血に関しては,16%の看護師がRh(-)患者にRh(+)赤血球を輸血しても良いと回答した.また,Major mismatchのABO不適合赤血球輸血の正答率は31%であった.
    今回の調査で,輸血業務に習熟していると予想された3施設の看護師でも,輸血に関する理解度は満足いくものでなく,看護師は疑問がありながらも日常輸血業務を行っていた.より安全な輸血医療提供には,看護師の輸血に関する知識の啓発・意識の改革も重要であると思われた.
  • 高梨 美乃子, 大場 亜紀, 小川 篤子, 伊藤 みゆき, 川旗 優子, 中島 一格
    2010 年 56 巻 1 号 p. 62-67
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    移植のための臍帯血バンクにおける臍帯血調製作業では通常ヒドロキシオキシスターチ(HES)を用いて赤血球を沈降させ,臍帯血容量を減少させている.分離調製手技の習得には長時間を要し,臍帯血の自動分離機器を導入できれば,手順の標準化および品質管理にも寄与すると期待される.我々は用手法であるHES沈降法とAutoXpressTM system(AXP)によるHESを用いない方法とを比較した.臍帯血を2等分して同等のものを2袋準備し,24ペアをそれぞれの方法で調製して,総有核細胞数(TNC),単核細胞数(MNC),CD34+細胞数,コロニー形成細胞数(CFU)を計測した.AXP群でのTNC,MNCおよびCD34+細胞数,CFUの回収率は,それぞれ88.4%,97.3%,93.4%,101.2%であり,これはHES沈降法での回収率よりも有意に高かった.AXPによる分離調製の時間は有意にHES沈降法にかかる時間よりも短かった.一方,HES沈降法では有意に赤血球除去率が高かった.臍帯血凍結融解後のTNC,CD34+細胞数,およびCFUの回収率は両群に差がなかった.AXPを用いて,臍帯血バンクでの自動化および調製手順の単純化を進める事が可能である.
論文記事
  • 村松 裕子, 木村 晋也, 一戸 辰夫, 芦原 英司, 石川 隆之, 前川 平, 内山 卓
    2010 年 56 巻 1 号 p. 68-71
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    造血幹細胞移植における血縁ドナー候補者は,非血縁ドナーと比較して,提供に対する社会的・心理的圧力にさらされやすいことが指摘されており,そのコーディネート過程における倫理性と安全性の確保は重要な課題である.今回われわれは,レシピエントの診療に直接関与しない複数の医師による,1)リスクを踏まえた上での提供意思の確認,2)共通の問診表・健康診断手順に基づく客観的な医学的適格性評価システムを骨格とする「血縁造血幹細胞ドナーのための専門外来」を開設し,2003年4月から2007年3月まで,70名のドナー候補者の適格性判定を行った.問診により「不適格」と判断された2名を除く68名で提供への同意が取得され,初回健康診断後の適格性判定結果は43名(63%)が「適格」,21名(33%)が「保留」,4名(6%)が「不適格」であった.「保留」の理由は,17件が血液あるいは尿の検査値異常,3件が心疾患の疑い,1件は神経疾患の疑いであり,追加の健康診断あるいは医学的介入後に20例が「適格」と判定された.また「不適格」であった4名のうち3例は幹細胞ソースを末梢血から骨髄に変更して再度健康診断を行った結果,「適格」と判定された.これら計66名の適格者のうち実際の提供に至った54名においては,現在まで重篤な有害事象は経験されていない.ドナー専門外来の設置が,造血幹細胞提供時のドナーの安全性確保にどの程度寄与し得るかに関しては今後さらなる検討が必要であるが,提供への意思表示過程で受けやすい血縁者間特有の心理的圧力を軽減可能とする点に関しては十分に意義を有するものと考えられた.また,特に小児ドナーに対しては,両親以外の権利保護者の立会いなど特別な配慮が必要と思われる.
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