日本輸血細胞治療学会誌
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57 巻, 3 号
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原著
  • 清水 勝, 竹中 道子, 山本 定光, 池田 久實, 柴田 弘俊, 前田 義章, 比留間 潔
    2011 年 57 巻 3 号 p. 131-138
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    [背景]少子高齢化社会では赤血球製剤(RCC)の需要増加が見込まれる一方,献血者の減少が危惧される.現状の献血者の平均献血回数が年2回未満であることから,1回の採血赤血球量を増量し,現行の採血基準内(全血相当量1,200ml)で年2回採血が安全に実施できるかの検討は有意義と考える.
    [対象・方法]承諾を得た58kg以上の男性供血者18人から,赤血球成分採血(RCa)により3単位RCC(全血600ml相当の赤血球)を6カ月間隔で2回採血し,採血中・後の副作用および採血前と6カ月後まで血算,血清鉄,血清フェリチン(s-Ft),エリスロポエチンを検査した.RCaには,1回目(1-RCa)はヘモネティクス社CCS,2回目(2-RCa)は改良ボウルを組み込んだ同社のMultiを使用した.
    [成績]1-,2-RCaとも問題になる副作用はなく,Hb値は採血直後に11g/dl以上,3カ月後には採血前値に回復した.s-Ftは各採血前値に比し1-RCa 6カ月後61.8±20.2%,2-RCa 6カ月後77.0±29.5%の回復に留まったものの,経過中12ng/ml以下になった6例においてもHb値は回復した.2-RCa採血直後のRCCの遊離Hbは20.1±10.8mg/dlであった.
    [結論]3単位RCCを6カ月間隔で2回採血することは安全に実施できると考える.なお,s-Ftの動向は今後の検討課題と思われる.
  • 湯沢 美紀, 長村(井上) 登紀子, 石下 郁夫, 尾上 和夫, 田村 友樹, 高橋 敦子, 幸道 秀樹, 山口 暁, 東條 有信
    2011 年 57 巻 3 号 p. 139-145
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    近年,臍帯血は造血幹細胞のみならず組織幹細胞ソースとしても注目されている.臨床使用の臍帯血処理方法であるHES遠心分離法による有核細胞の分離について,海外のガイドラインにおいては採取から細胞処理までの時間は48時間以内,室温での保管および搬送がよいとされている.一方,組織幹細胞用の細胞処理として多くの論文で採用されているフィコール法による単核球の分離についての検討報告はない.本研究では,臍帯血採取後の経過時間や温度条件が,フィコール法による単核球分離に及ぼす影響について検討した.その結果,採取から細胞処理開始までの経過時間(採取後経過時間)によって有核細胞,CD34陽性細胞の回収率に有意差は認めないものの,採取後経過時間が長いほど有意に単核球回収率および細胞生存率の低下を認めた.特に,フィコール処理後の単核球層の好中球混入率は,採取後の時間経過に伴い有意に増加した.さらに,臍帯血の保管温度の検討において,採取後30時間でのフィコール処理後単核球層の好中球混入率は,比較的低温で保管した場合のほうが室温保管に比べ有意に低かった.今回の検討において,経過時間や温度等の保管条件が,臍帯血単核球処理後の細胞組成に影響を及ぼすことが分かり,採取後の臍帯血管理状態の重要性が再確認された.
  • 坂田 秀勝, 松林 圭二, 武田 尋美, 岸本 信一, 伊原 弘美, 佐藤 進一郎, 加藤 俊明, 田所 憲治, 池田 久實
    2011 年 57 巻 3 号 p. 146-152
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    【背景】日赤では,輸血用血液や血漿分画製剤原料へのヒトパルボウイルスB19(B19V)の混入を防止するため,化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescence enzyme immunoassay:CLEIA)によるB19V抗原スクリーニング検査を実施している.近年,B19Vは3種の遺伝子型に分類されたため,米国食品医薬品局(FDA)は,血漿分画製剤製造工程中の検査として,すべての遺伝子型が検出可能な核酸増幅検査を導入するよう勧告した.しかし,本邦で流行しているB19Vの遺伝子型や,CLEIA法がB19Vの遺伝子型すべてを検出可能かは不明である.【対象と方法】既報を改変したB19Vユニバーサルreal-time PCR法(U-PCR法)およびCLEIA法で,3種類のB19V遺伝子型を含むWHOパネルを測定し,それぞれの検出感度を評価した.また,過去13年間の北海道内献血者から検出されたB19V陽性検体96例を用いて,U-PCR法による検出および遺伝子型を調査した.【成績】U-PCR法およびCLEIA法のいずれの方法でも,3種類のB19Vが検出可能であった.U-PCR法の検出感度は1型,2型および3型に対して,それぞれ13.6,9.4および14.6IU/ml以上であった.またCLEIA法の検出感度はいずれの遺伝子型についても約6.3 log10IU/ml以上と推測された.B19V陽性96例全例がU-PCR法で陽性となり,遺伝子型はすべて1型であった.【結論】CLEIA法は3種類のB19Vすべてを検出可能であった.また過去13年間に道内で検出されたB19Vは1型だけであった.
症例
  • 嶋田 里子, 安田 広康, 佐藤 須磨子, 加藤 博, 橋本 志奈子, 小宮 ひろみ, 則竹 保治, 伊藤 正一, 菊地 正輝, 佐々木 佳 ...
    2011 年 57 巻 3 号 p. 153-159
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    背景:抗Dを保有していないD陰性妊婦に対しては,児由来のD陽性赤血球による同種免疫感作を防止するため,妊娠期間中あるいは分娩時に抗Dヒト免疫グロブリン(RhIG)の投与が推奨されている.しかし,weak Dと判定された妊婦へのRhIG投与については判断が分かれるところである.
    症例および結果:妊娠34週目の初妊婦で,Rh(D)血液型検査で直後判定は陰性,間接抗グロブリン試験(IAT)で陽性の結果からweak Dと判定した.妊婦にはRhIGの投与は行わず経過観察した.児(第1子)はRh(D)陽性であったが,周産期および出産後も抗D産生は認められなかった.母親のRHD遺伝子解析をしたところgDNAイントロン4のスプライシング受容部位にA>Gの変異があり,転写産物にはイントロン4に由来する87bpの塩基挿入を認めた.
    結論:RhIGを投与せず経過観察したweak D初産婦を経験した.児はRh(D)陽性であったが,母親には抗D産生を認めなかった.母親のRHD遺伝子にはこれまでに報告のないIVS4-2A>Gの変異があり,weak Dはスプライシング異常によりRhDタンパクに29個のアミノ酸が挿入したことによって生じたものと考えられた.
  • 橘川 寿子, 川畑 絹代, 安田 広康, 高崎 美苗, 菊地 正美, 菅原 亜紀子, 斎藤 俊一, 奥津 美穂, 小野 智, 菅野 隆浩, ...
    2011 年 57 巻 3 号 p. 160-163
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    Jra抗原は高頻度抗原のひとつで,日本人のJra抗原陰性頻度はおよそ0.06%である1)2).ランダムドナー由来の赤血球濃厚液の輸血を受けた,抗Jraを保有していないJra抗原陰性患者の症例を経験した.
    患者は50歳代男性でA型RhD陽性,悪性リンパ腫治療のため入院となった.献血の際にJra抗原陰性であると指摘されていた.不規則抗体が陰性であることを確認し,ランダムドナー由来の赤血球濃厚液(8ドナー,14単位)を輸血した.その後,輸血した全ての製剤がJra抗原陽性であることが判明した.
    輸血後,不規則抗体は検出されなかった.Jra抗原陰性者の輸血では,抗Jraを保有していなければ当該抗原陰性赤血球を選択する必要はなく,Jra抗原陰性赤血球の適応について,情報を提供しうるものと思われる.
報告
  • 寺内 純一, 八木 和世, 大谷 慎一, 伊藤 明, 稲葉 頌一, 小林 信昌, 加藤 俊一, 神奈川県合同輸血療法委員会
    2011 年 57 巻 3 号 p. 164-168
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    平成20年に神奈川県内で輸血が実施された病院は420施設であったが,約70%の輸血は300床以上の72施設で実施されていた.これらの施設には臨床または衛生検査技師(以下検査技師)が98.0%(49/50施設)配置されていた.病床数19床以下の小規模診療施設(診療所)における輸血療法は量的には1.8%と少なかったが,実施施設数は33.6%(141/420施設)と多かったことから,19床以下の施設の輸血検査状況を把握するためにアンケート調査を実施した.
    この141診療所を対象としたアンケート調査より回答を得た81施設(57.4%)のうち,79.0%(64施設)では検査技師の配置がなされていなかった.検査技師配置のない過半数の施設(40/64施設;62.5%)は輸血検査を外部検査センターに委託していたが,残りの施設(24/64施設;37.5%)は,診療所医師(21/24施設)や看護師(3/24施設)が検査を行っていた.血液型確認はABOオモテ検査のみ実施が16/20施設,実施していないが4/20施設であり,16/20施設では交差適合試験は,のせガラス法または生理食塩液法で行われていた.輸血副作用については調査に含まれなかったため,これらの施設における輸血の安全性については正確には評価できなかったが,検査体制は不十分であることが示唆され,行政や日本輸血・細胞治療学会,臨床衛生検査技師会,外注検査施設,地域の大規模病院,血液センターなどが連携して,より安全な輸血が実施できるよう対策・検討することを提案する.
  • 香西 康司, 濱木 珠恵, 山田 一成, 木暮 勝広, 梶原 耕一, 星 恵子, 鳥海 彩子, 中原 美千代, 五十嵐 朋子, 神白 和正, ...
    2011 年 57 巻 3 号 p. 169-172
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    臍帯血移植は大きな注目を集めており,その優れた成績も発表されている.しかし輸血療法については不明な点が多い.とりわけ前処置を減弱したミニ移植mini-CBTが高齢者を中心に行われているが,血液製剤の需給状況が逼迫している今日,輸血療法についてこれまでの移植conventional CBTと比較した検討が必要である.このために同時期に行った2種の臍帯血移植について比較検討を行った.
    対象は5例の通常の臍帯血移植および6例の前処置を減弱した臍帯血移植である.観察項目は三系統の生着日,GVHD,輸血療法の回数,総単位数,最終輸血日である.その結果,全例が生着し,GVHDは軽度であり,赤血球輸血あるいは血小板輸血の総単位数および最終輸血日について大きな差はなかった.また,一部の例で5単位の血小板製剤を用いた.10単位の血小板製剤を用いた例に比して,輸血回数などに差はなかったが総使用量は大きく減少した.本研究において,臍帯血移植の方法によって輸血量に大差はなく血液製剤の消費量を増大させない可能性が示唆された.さらに症例を増やした研究が必要である.
  • 山本 哲, 山本 定光, 久保 武美, 本間 哲夫, 橋本 浩司, 鈴木 一彦, 池田 久實, 竹内 次雄
    2011 年 57 巻 3 号 p. 173-177
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    北海道函館赤十字血液センター(以下函館センター)の製剤部門は2006年に北海道赤十字血液センター(以下札幌センター)に集約され,管内供給は北海道ブロックの需給コントロールによって管理されることとなった.製剤部門の集約は,在庫量の少ない血小板製剤に影響が現れやすいと考えられたので,同製剤の緊急需要(当日受注)に対する供給実態について,受注から配送に至る経過に焦点をあて回顧的に調査した.当日受注で,在庫分に由来すると思われる配送所要時間が2時間未満の血小板製剤の割合は集約直後の2006年度で減少したものの,在庫見直し後の2009年度は2005年度並みに回復した.在庫分がなく札幌からの需給調整に由来すると思われる所要時間6時間以上の割合は2005年,2006年に比べ,2009年度では半減した.時間外発注で1時間以内に配送した割合も在庫見直し後の2009年度に有意に増加し88.5%に達した.製剤部門の存在は,血小板製剤の緊急需要に対し,一時的な在庫量の増加をもたらすものの安定供給の主要な要因とはならず,適正な在庫管理が最も重要な要因であることがわかった.血小板の緊急需要に対しては,通常の需要量を基礎にして在庫量を設定すること,需要量の変化に応じてそれを見なおすことにより対応が可能であった.供給規模が小さく,在庫管理の難しい地方血液センターでは,血小板製剤の広域の需給調整を活発にすることで経済効率を保ちつつ医療機関の需要に応えるべきと考える.
  • 加藤 栄史, 高本 滋, 小高 千加子, 佐川 公矯, 星 順隆, 藤井 康彦, 米村 雄士, 岩尾 憲明, 田中 朝志, 岡崎 仁, 百瀬 ...
    2011 年 57 巻 3 号 p. 178-183
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    輸血療法は有効かつ必須の治療法であるが,血液製剤は他人の血液を原料とするため,輸血副作用を完全には回避できない.このため,輸血副作用に関する可及的速やかな実態把握とその対策が必要と考えられる.本研究ではオンラインによる副作用報告システムのパイロット研究を開始し,収集したデータを解析,検討した.2007年より7大学病院を対象に本研究を開始し,2009年から小規模(300床以下)の5施設を加えて,輸血量,副作用件数を2カ月間隔で収集した.尚,本研究では2007年1月から3年間の結果を報告する.
    輸血副作用の発生率はバッグ当り1.50%であり,我が国の輸血副作用発生頻度を反映していると考えられた.また,血小板製剤(PC)の副作用発生率が4.34%と他の2製剤に比して約6倍の高頻度であり,一因として頻回輸血に伴う同種抗体の産生など免疫学的機序が関与することが推察された.一方,各施設における診療疾患の相違により副作用発生頻度に差異が認められた.
    本研究で構築したシステムは,輸血副作用の現状を正確に把握するために有用であり,広く普及させることで,よりよいヘモビジランスの構築に貢献できると考えられる.
  • 田野崎 隆二, 室井 一男, 長村 登紀子, 石田 明, 水田 秀一, 前川 平, 伊藤 経夫, 岸野 光司, 上村 知恵, 高橋 恒夫, ...
    2011 年 57 巻 3 号 p. 184-187
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    既に治療法として確立している造血幹細胞移植に用いる細胞処理のガイドラインを,日本輸血・細胞治療学会と日本造血細胞移植学会との共同指針として今回初めて策定した.欧米のFACT-JACIE基準を参考にする一方で,移植施設が小規模で分散し移植に係るコメディカルの少ないわが国の状況を踏まえて,多くの施設が受容し得る内容とした.ただし,必ずしも現在の大半の施設が満たす基準ではなく「目指すべき基準(理想的な基準)」の内容も含めた.構成は,1目的,2対象,3細胞の採取,4責任者と作業者,5設備・機器,6細胞処理(プロセシング),7払い出し,8保存と解凍,9検体保存,10投与,11廃棄,12雑則からなり,教育的観点から「付」として代表的な細胞処理法に関して,解説,標準作業手順書(SOP)サンプル,記録シートサンプル,結果シートサンプルなどを設けた.今後この指針が多くの場面で運用されるように努めるとともに,現場に即した指針となるように改訂を重ねていく必要がある.また,将来的に欧米の最新の指針と同等の基準となり,また輸血・細胞処理部門認定や有害事象の監視体制を構築するのに活用されることが期待される.
論文記事
  • 田中 成憲, 林 智也, 谷 慶彦, 平山 文也
    2011 年 57 巻 3 号 p. 188-196
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    [背景]最近の研究によると,保存中に血小板から遊離する生理活性物質が輸血副作用に関与していると報告されている.洗浄血小板や人工保存液置換血小板(約30%の血漿を含む)は輸血副作用を減少させると報告されているが,洗浄血小板は調製操作が煩雑であり,人工保存液置換血小板では完全に輸血副作用を防ぐことはできない.
    [目的]今回,4種類のセルロース・ビーズを用いて,保存中に血小板から遊離・蓄積する生理活性物質であるsoluble CD40 ligand(sCD40L),regulated upon activation,normal T-cell expressed,and secreted(RANTES)及びtransforming growth factor-β1(TGF-β1)の吸着除去について検討した.
    [方法]濃厚血小板製剤(PC)を10日間保存し,保存期間中の上記生理活性物質の蓄積濃度をELISA法により測定した.次に,10日間保存したPC由来の血漿及び5日間保存したPCを用いて,4種類の吸着ビーズでの吸着処理(3時間)後の上記生理活性物質の濃度をELISA法にて測定した.更に,2日間または5日間保存したPCを用いて,吸着処理後のPCの品質について評価した.
    [結果]上記3種類の生理活性物質の血漿中の濃度は,保存とともに増加した.4種類のセルロース・ビーズの中で,A:硫酸エステルを有するビーズ,及びB:リン酸エステルを有するビーズはsCD40L及びRANTESを効率的に除去し,TGF-β1を部分的に除去した.
    このA,Bのビーズで処理することによる血小板活性化はほとんど認められなかったが,血小板濃度は処理後に一部低値を示した.
    [結論]今回の検討により,セルロースビーズA及びBは,保存中に蓄積した3種類の生理活性物質を効率的に除去できることが示された.今後は,この方法が輸血副作用の防止に有効であるかどうか確認するために,更なるin vitro及びin vivoの実験が必要である.
編集者への手紙
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