日本輸血細胞治療学会誌
Online ISSN : 1883-0625
Print ISSN : 1881-3011
ISSN-L : 1881-3011
58 巻, 5 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
総説
  • 浜口 功
    2012 年 58 巻 5 号 p. 699-703
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/12
    ジャーナル フリー
    2006年に米国でRNaseLに遺伝子異常を持つ前立腺がん患者の前立腺組織より発見された新規ヒトレトロウイルスXenotropic murine leukemia virus-related virus(XMRV)は,2009年には原因不明の疾患である慢性疲労症候群(CFS)に関与するという可能性が同じ米国より報告され,大きな社会的関心を呼んだ.またこの報告では健常人での血液細胞および血漿中からもウイルスが検出されており,輸血による感染が危惧される事態となった.このような中,XMRVの検査法の確立と国内のXMRV感染状況の確認が急がれた.国内のCFS患者,前立腺癌患者においてXMRV感染の可能性を検索したが全例陰性であった.さらに,国内感染状況を把握することを目的に,血清学的検査法および,既に公表されているNAT法を用いて献血ドナーのXMRV NATスクリーニングを行った.血清学検査およびNATスクリーニングの結果はすべて陰性であった.これらの解析結果より,国内においては,XMRV流行は起こっていないことが確認された.
症例
  • 道野 淳子, 中出 祥代, 佐竹 伊津子, 西野 主眞, 安村 敏, 芳村 直樹, 野村 恵子, 金兼 弘和
    2012 年 58 巻 5 号 p. 704-709
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/12
    ジャーナル フリー
    重症複合免疫不全症(severe combined immunodeficiency:SCID)の根治療法として同種造血幹細胞移植は欠かせない.今回,当院で経験したSCIDの2例(X連鎖SCIDおよびアデノシンデアミナーゼ欠損症)について,前者は前処置なしで,後者は弱い前処置後にHLA適合同胞からのマイナーミスマッチ同種骨髄移植(bone marrow transplantation:BMT)を行い,BMT後の赤血球抗原検査および白血球のマイクロサテライト(MS)多型を用いたキメリズム検査を経時的に行った.2例ともBMT後の免疫機能が改善されたという点では,本来の目的を達成することができた.移植後の経時的変化を追ったところ,症例1(X連鎖SCID)は,2年半後の現在も赤血球はレシピエント型のままであり,白血球は,T細胞以外の他の細胞は混合キメラの状態であった.症例2(アデノシンデアミナーゼ欠損症)は,1年後の現在,赤血球,白血球はほぼドナー型となった.症例1については,今後も経過観察を行っていく必要がある.
報告
  • 石井 規子, 大友 直樹, 金光 靖, 平岡 朝子, 伊藤 道博, 能登谷 武, 国分寺 晃, 友田 豊, 山田 尚友, 押田 眞知子
    2012 年 58 巻 5 号 p. 710-715
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/12
    ジャーナル フリー
    全国大学病院輸血部会議技師研究会は,不規則抗体カードの普及のために,カードのフォーマット案の提示を平成21年度の活動目標とした.第一段階として技師研究会参加の80施設を対象にアンケート調査を実施した.主な内容は不規則抗体カード発行の有無,記載内容,および導入に対する意識とした.57施設から回答が得られ(回収率71.3%),19施設(33.3%)で不規則抗体カードを作成,発行していた.記載内容と記載率は患者氏名(漢字のみ42%,漢字カナ併記32%,カナのみ26%),ID番号58%,生年月日74%,ABO/Rh(D)血液型79%であった.対象抗体は17施設(89%)が臨床的意義のある抗体と回答した.第二段階として不規則抗体カードのフォーマット案について議論し,記載内容を「患者情報(氏名,ID番号,生年月日,血液型),抗体名,検査日または発行日,問合せ先」とした.また「カード内容の誤記入と書き換えの防止,およびカードの携帯と提示の強調」を作成上の留意点とした.また,不規則抗体カード発行の目的は,「抗体消失時の遅発性溶血性副作用の防止」であり,輸血施設において,カード情報による検査の省略はすべきではないことを確認した.
  • 吉田 斉, 國井 華子, 寺田 亨, 二部 琴美, 鎌田 博子, 阿部 真, 面川 進
    2012 年 58 巻 5 号 p. 716-719
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/12
    ジャーナル フリー
    秋田県赤十字血液センターでは,2009年5月から県下医療機関輸血療法委員会への積極的な参加活動を開始した.参加にあたり,依頼文書を血液センターから医療機関施設長及び輸血療法委員会委員長宛てで発送すると共に,血液センター学術担当職員を窓口に,輸血療法委員会委員長,輸血部門担当者へ参加依頼を行った.
    輸血療法委員会への参加の実績は2009年6月から2011年3月までで,県内18施設,延べ87回で参加時の血液センターからの情報提供内容としては,2009年の指針の改定について10回,血液製剤の細菌汚染について14回,血液センター業務集約について23回などであった.参加の後,別途に自己血輸血や輸血の実際についての講習会開催に至った事例もあった.
    血液センターの輸血療法委員会への積極的参加は,血液センターからの輸血関連情報の提供,意見交換など医療機関との連携をさらに密にするためにも重要と思われる.
  • 佐川 公矯, 児玉 建, 高田 昇, 紀野 修一, 和野 雅治, 上條 亜紀, 丹生 恵子
    2012 年 58 巻 5 号 p. 720-725
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/12
    ジャーナル フリー
    医育機関における輸血医学教育は,大学ごとに講義枠,講義時間,および内容が異なる.2001年には,医学教育における教育プログラム委員会によって,医学教育モデル・コア・カリキュラムが公表された.この中で「輸血と移植」というテーマで医学生が習得すべき輸血医学教育の内容が提示されたが,多くの教育担当の医師および臨床検査技師は,この教育内容をより充実させる必要があると考えている.
    今回,日本輸血・細胞治療学会輸血教育検討小委員会は,医育機関における輸血医学教育の標準化を目的として,委員の所属する7大学で実施されている講義および実習を検討し,医学生に教育すべき輸血医学教育標準カリキュラムを作成し,提言した.このカリキュラムは系統講義5コマ,実習3コマで構成した.また,系統講義枠5コマを確保できない医育機関のために,3コマのミニマムカリキュラムを提示した.教育方法は,系統講義に加えて,チュートリアル教育,Problem-based learning,ロールプレー,血液センター見学などの導入を検討すべきである.各医育機関にはこの「提言」を参考にして,各医療機関の実情に応じたカリキュラムの作成が望まれる.そして,最終的には,血液法を遵守し,輸血療法の指針を理解し実践できる,医師の育成が望まれる.
feedback
Top