日本輸血細胞治療学会誌
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64 巻, 3 号
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Picture in Transfusion Medicine & Cell Therapy
総説
  • 永井 正
    2018 年 64 巻 3 号 p. 479-483
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/07/13
    ジャーナル フリー

    サイトメガロウイルス(CMV)は,新生児期を含む乳児期あるいは幼小児期に感染することが多いが,無症状あるいは軽度の症状で終息することが多い.しかしながら,超低出生体重児が新生児期に感染すると,重篤な臨床所見を認める場合が珍しくなく,致死的な転帰をたどることもある.超低出生体重児におけるCMVの感染経路は,既感染の母親からの母乳感染,輸血感染さらに水平感染が想定されているが,輸血を受けるケースが多いため実臨床ではしばしば輸血感染が疑われる.しかしながら,CMV-DNA陽性献血ドナーからの血液製剤が一定の確率で存在しているにも関わらず,現時点では輸血感染と確定された国内症例はない.国内では白血球除去が全面導入されている点からも,輸血感染のリスクは極めて低いと思われるが,さらにCMV抗体陰性血の使用が超低出生体重児に対して勧奨されている.一方,日赤では国内のCMV輸血感染症疑い症例について感染経路の検討を進めており,現時点では,ほとんどが母乳感染と結論づけられている.海外からも母乳が主たる感染経路であるとする報告が相次いでおり,今後は母乳感染の防止対策の確立も重要な課題となる.

原著
  • 阿南 昌弘, 大木 浩子, 今井 厚子, 野呂 光恵, 森 絵理子, 植松 正将, 田坂 大象, 山本 晃士
    2018 年 64 巻 3 号 p. 484-489
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/07/13
    ジャーナル フリー

    当院では新鮮凍結血漿(以下,FFP)の管理を適切に行うため,2015年10月より輸血部門でのFFP解凍を開始した.運用を開始する前後の期間において,FFPの依頼および輸血単位数を後方視的に調査した.FFP解凍には専用の解凍装置を使用し,約25分で1~4本のFFP-480を解凍した.運用開始前の9カ月間(前期)では,FFP依頼量は14,121単位,輸血量は7,149単位であった.運用開始後の9カ月間(後期)では,FFP依頼量は9,399単位で33.4%の減少,輸血量は5,522単位で22.8%の減少と,いずれも前期と比較して有意な減少を認めた.またFFP依頼量に対する輸血量の割合(輸血実施率)は,前期が50.6%,後期が58.8%と後期で有意な増加を認めた.一方,FFP依頼時にプロトロンビン時間が30%未満であった症例数の割合は,前期が10.6%,後期が18.2%と後期の方が有意に高く,適正使用率の向上を認めた.以上より,輸血部門でのFFP解凍・供給により臨床スタッフの負担軽減が図られただけでなく,臨床病態や凝固検査値に応じた適切な量のFFPが依頼,輸血されるようになったと考えられた.

  • 小池 敏靖, 渕崎 晶弘, 一杉 芽美, 小野寺 秀一, 金子 祐次, 岩間 輝, 平山 順一, 柴 雅之, 宮島 晴子, 林 宜亨, 有澤 ...
    2018 年 64 巻 3 号 p. 490-495
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/07/13
    ジャーナル フリー

    今般,安定的な血小板製剤(PC)の確保を目的とし,成分採血装置Trima Accelに,一人の献血者から2本分の10単位PCを一度に採血できるプログラムが搭載された.この採血方法では従来の方法と異なり,一つのポリ塩化ビニル製採血バッグ(PVCバッグ)に通常の2倍量の血小板原料が入る.さらに,その状態で採血当日または翌日まで保管後,2分割する必要がある.本検討では,採血翌日に分割した分割対象血小板原料血液由来10単位PC(分割PC)の品質を解析した.

    採血後4日目までのTrima Accel由来の分割PCとCCS採血由来の非分割PCの品質を比較した結果,補体であるC5a濃度とpHは分割PCにおいて有意に高値であったが,正常範囲内であった.また,その他の血小板機能等に差はなかった.そのため,分割PCの品質は,従来の非分割のPCと同等であることが明らかになった.

  • 伊藤 みゆき, 小川 篤子, 峯元 睦子, 大河内 直子, 永井 正, 中島 一格, 高梨 美乃子
    2018 年 64 巻 3 号 p. 496-501
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/07/13
    ジャーナル フリー

    本邦では1997年に非血縁者間臍帯血移植が実施されてから臍帯血移植数は年々増加し,移植医療における臍帯血の重要性は増している.日本赤十字社関東甲信越さい帯血バンクは臍帯血を凍結保存するため0.8%dextranを含む8%DMSOを使用している.移植時に臍帯血は洗浄しないためDMSOも患者に輸注されるが,DMSOには毒性があるため濃度は低いほうが望ましい.多糖のdextranは輸注時のアナフィラキシーショックの報告もある.

    本研究では,dextranに代わり単糖のglucoseをDMSOに混合した新しい凍害保護液5% DMSO-1.5% glucose(5D1.5G)と8% DMSO-1.5% glucose(8D1.5G)について,現行の8% DMSO-0.8% dextran(8D0.8D)との比較検討を行った.5D1.5GはCD34+細胞回収率,CD34+生細胞率において8D0.8Dに比べ有意に高かった.また,有核細胞回収率,CD34陽性細胞数回収率において5D1.5Gが8D1.5Gより有意に高かった.これらの結果から,5D1.5Gは8D0.8Dに変わりうる凍害保護剤と考える.

  • 松岡 佐保子, 水澤 左衛子, 落合 雅樹, 草川 茂, 百瀬 暖佳, 池辺 詠美, 宮川 恵子, 五反田 裕子, 長谷川 隆, 富樫 謙一 ...
    2018 年 64 巻 3 号 p. 502-509
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/07/13
    ジャーナル フリー

    厚生労働省の血漿分画製剤の安全性確保対策の小委員会では,国内で使用されている輸血用血液製剤と血漿分画製剤の原料となる血漿に対するウイルス核酸増幅検査(NAT)の精度管理等に使用する国内標準品を1999年より作製し,国立感染症研究所が交付している.HCV,HBV及びHIVの第1次NAT国内標準品は,当時のWHO国際共同研究に準じエンドポイント法によって国際標準品に対する相対力価が定められた.2014年にNATガイドラインの改正と輸血用血液スクリーニングへの個別NAT導入に伴うNAT感度の改正が行われ,より厳格な精度管理に合わせ,NAT国内標準品の再評価の必要性が高まった.そこで,NAT国内標準品の力価を多施設共同研究にて再評価した.最新の高精度のリアルタイムPCR定量法で測定した結果,第1次HBV-DNA国内標準品1,060,000IU/ml,第1次HIV-RNA国内標準品75,000IU/ml,第1次HCV-RNA国内標準品260,000IU/mlに力価が改正された.信頼性の高い国際単位に校正された国内標準品を活用することで,NATの精度管理や試験法の改良の進展が期待される.

  • 舛田 博貴, 笹田 景子, 福吉 葉子, 大隈 雅紀, 内場 光浩, 井上 明威, 野坂 生郷, 奥野 豊, 松岡 雅雄, 松井 啓隆, 米 ...
    2018 年 64 巻 3 号 p. 510-515
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/07/13
    ジャーナル フリー

    末梢血幹細胞動員には,一般に顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte colony-stimulating factor:G-CSF)製剤を用いるが,時に自家末梢血幹細胞採取において動員不良例を認めることがある.しかし,幹細胞動員を増加する薬剤の使用が可能となったことをうけ,今後の使用に向けて,投与に適切な患者選択を行うことを目的に,ハーベスト前日の末梢血Hematopoietic progenitor cell(HPC)数を用いた,動員不良例予測が可能か検討を行った.対象は,G-CSF製剤単剤か,化学療法とG-CSF製剤の併用で動員後,ハーベスト前日にHPC数を測定した34例である.ハーベスト前日のHPC数で,0~5,6~10,11~20,21~/μlに分類すると,動員不良による移植断念例はそれぞれ,25%,14%,0%,0%であった.また,1回の動員で十分量の幹細胞を得られなかった症例の多くは,前日HPC数が20/μl以下に存在していたことから,20/μl以下の場合,動員不良の可能性があり,特に10/μl以下の場合は重度の採取困難例を含むものと考えられる.

  • 宮﨑 研一, 村山 和子, 富田 守, 成高 和稔, 田中 里波, 田中 由美子, 松本 文乃, 内藤 章, 三原 利仁
    2018 年 64 巻 3 号 p. 516-524
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/07/13
    ジャーナル フリー

    日本輸血・細胞治療学会よりクリオプレシピテート院内調製ガイドラインが発表され標準化が期待されるが,調製方法の違いによるフィブリノゲン回収率について詳細な記録は過去の文献にもあまり見られない.

    本研究の目的は,品質向上の為のクリオプレシピテート製剤の調製方法の最適条件を求めることである.

    方法は,解凍回数(1回,2回),解凍時間(18時間,24時間),遠心条件(低回転,高回転),2回法の場合の再解凍時の状態(完全凍結,未完全凍結)について比較検討を行った.また調製直後の凍結温度(-30℃,-80℃)の違いによるフィブリノゲン回収率の比較検討を行った.

    結果は,解凍回数では2回の方が約16%高く,解凍時間は18時間の方が約6%高かった.遠心条件の違いに有意差は認めなかった.再解凍時に不完全凍結状態では約20%低下した.調製後の凍結を-30℃で行うと,フィブリノゲン濃度は調製時よりも36%低下した.

    クリオプレシピテート製剤の回収率向上の為には,解凍回数2回,約18時間での解凍,再解凍時には完全凍結状態であり,調製直後は出来る限り低温にて急速凍結を行うことであった.

短報
  • 松田 充俊, 岡崎 晃士, 神戸 考裕, 佐藤 博美, 小原 久美, 五十嵐 寛幸, 榎本 隆行, 峰岸 清, 稲葉 頌一
    2018 年 64 巻 3 号 p. 525-528
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/07/13
    ジャーナル フリー

    Jr(a-)型は,まれな血液型の中で最も供給頻度が高い血液型である.我々は北関東約40万人の献血者にJra抗原のスクリーニング検査を行いJr(a-)型の頻度と抗Jra保有率,及び抗体価の分布について検討した.検出したJr(a-)型は男性が献血者238,797中134人,女性が159,263中104人,計238人で検出頻度は0.06%で男女差はなく,他地域との差も認めなかった.また,抗Jraを保有するJr(a-)型は35人(33.7%)で,すべて女性で,妊娠・出産による免疫抗体と考えられた.これらの献血者が保有する不規則抗体は33人(94.3%)が抗Jra単一の抗体であった.抗Jraの抗体価は8倍から512倍まで分布しており最も多いのは256倍の12名であった.35例の抗Jraのうち,IgGサブクラスを分類することができた14例は,すべてIgG1陽性で3例はIgG3弱陽性の共存例であった.

症例報告
  • 蒸野 寿紀, 堀 善和, 渕上 淳也, 弘井 孝幸, 大岩 健洋, 小畑 裕史, 山下 友佑, 細井 裕樹, 村田 祥吾, 井本 翔平, 冨 ...
    2018 年 64 巻 3 号 p. 529-533
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/07/13
    ジャーナル フリー

    [緒言]アナフィラキシーショックは,赤十字血液センターに報告される年間1,500例の非溶血性輸血副作用の20%を占める.洗浄血小板輸血によりアナフィラキシーショックを回避できた症例を経験した.[症例]41歳男性.骨髄異形成症候群に対し,血縁者間末梢血幹細胞移植を行った.抗HLA抗体により,移植後早期に血小板輸血不応となった.移植後19日目,血小板輸血開始15分後に口唇浮腫・呼吸困難・血圧低下を認め,アナフィラキシーショックと診断し,輸血を中止した.出血傾向を伴ったため,翌日もステロイド・抗ヒスタミン薬の前投薬後HLA適合血小板を輸血したが,開始15分後に同様の状態となった.近畿ブロック血液センターの協力により,移植後24日目より洗浄血小板が供給され,アナフィラキシーショックは回避された.輸血前投薬も徐々に中止できた.[考察]洗浄血小板製剤により,アレルギー反応の頻度が減少する.洗浄過程での血小板数減少が懸念されるが,止血効果も十分得られた.2016年9月より洗浄血小板製剤の供給が開始され,アレルギーを来す症例には積極的な適応と考えられた.

  • 深堀 道俊, 山口 真紀, 亀崎 豊実
    2018 年 64 巻 3 号 p. 534-539
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/07/13
    ジャーナル フリー

    骨髄異形成症候群(MDS)と診断され輸血依存状態となっていた59歳の女性が,直接抗グロブリン試験(DAT)陰性の溶血性貧血を併発した.1年後にDATが陽転化した後は輸血効果が得られなくなったが,RhとKidd血液型の因子指定血を選択することで輸血効果は改善した.その4カ月後にDATの凝集力が増強し,再び輸血効果が減弱した.自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と診断し,ステロイド投与により溶血性貧血ならびに輸血効果は改善し,4カ月後には輸血の必要はなくなった.MDS患者において,無効造血にDAT陰性の溶血性貧血を合併した場合には,輸血関連検査の注意深いフォローアップに加えて,DAT陰性AIHAも念頭に置き,高感度の赤血球結合IgG検出法についても積極的に行うと,早期診断と輸血量の軽減につながる可能性がある.

  • 下村(滝本) とも子, 堀池 重夫, 志村 勇司, 知念 良顕, 杉谷(山本) 未央, 古林 勉, 黒田 純也
    2018 年 64 巻 3 号 p. 540-544
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/07/13
    ジャーナル フリー

    凝固因子に対するインヒビター出現に起因する後天性血友病では,診断の遅れが出血症状を重篤にし,結果として必要以上の輸血が行われる可能性がある.今回,我々は抗凝固剤内服中に後天性血友病Aを発症し,紹介受診にいたるまで一定の期間を要した一例を経験した.症例は66歳男性.近医内科で,心房細動に対して10年来ワルファリン,3年前からリバーロキサバンでプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)は1.4~2.4に維持されていた.作業中の筋肉内・皮下出血を繰り返すため,2016年3月にアピキサバン,同年4月に再度ワルファリンへ変更されたが出血傾向が持続するため当院紹介となった.ワルファリン休薬後も出血傾向と活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)延長を認め,血液内科紹介時には血腫増大とともにプレショック状態を呈した.入院時には凝固第VIII因子著減とミキシングテストにより後天性血友病Aの診断に至り,赤血球液輸血とともに免疫抑制療法およびバイパス療法にて軽快を得た.高齢化社会を迎えて抗凝固療法の必要性が高まる中,後天性血友病を発症した際には凝固検査修飾に伴う診断の遅れに注意が必要である.

活動報告
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