日本輸血細胞治療学会誌
Online ISSN : 1883-0625
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65 巻, 3 号
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Picture in Transfusion Medicine & Cell Therapy
総説
  • 竹中 克斗
    2019 年 65 巻 3 号 p. 519-524
    発行日: 2019/06/25
    公開日: 2019/07/18
    ジャーナル フリー

    同種造血幹細胞移植後のサイトメガロウイルス(cytomegalovirus;CMV)感染症は,移植後非再発死亡の主な原因の一つであるが,現在では,移植後にCMV感染のモニタリングを行い,CMVの再活性化を認めた時点で,抗CMV薬を開始する先制治療が標準的に行われ,移植後早期のCMV感染症はほぼ抑制されるに至っている.しかし,最近になり,CMV感染症だけではなく,CMV再活性化によっても移植後非再発死亡が増加することが明らかとなり,今後,同種造血幹細胞移植成績のさらなる向上のためには,これまでの先制治療からCMV再活性化そのものの予防が必要である.新薬の登場によって,予防治療が可能となったが,同時に,今後は,予防治療によるCMV再活性化の抑制が,実際に非再発死亡の低下や全生存の改善に結びついていくのか明らかにしていく必要がある.

ガイドライン
原著
  • 上村 正巳, 青木 寿成, 佐藤 美里, 渡部 もも, 大木 直江, 川合 綾野, 増子 正義, 中田 光, 牛木 隆志
    2019 年 65 巻 3 号 p. 562-567
    発行日: 2019/06/25
    公開日: 2019/07/18
    ジャーナル フリー

    生後4カ月未満児は得られる採血量が少ないことから,自動輸血検査装置や試験管法では不規則抗体検査が困難である.このため,当院では検体量が試験管法の約1/4と少量の検体で検査可能なMicro Typing Systemを採用している.

    2007年1月から2016年12月までの10年間においてMicro Typing Systemでは不規則抗体検査依頼のあった生後4カ月未満児554件中,552件(99.6%)で検査可能であった.症例の内訳では55.4%が先天性心疾患の症例であった.また,検査可能であった552件中,不規則抗体が16件(2.9%)で陽性判定であった.そのうちの14件は母親からの移行抗体,1件は移行抗体が疑われた抗E,1件は自然抗体と考えられるIgM型の抗Mであった.さらに実際に358件に赤血球輸血が実施され,その内230件(64.2%)に輸血後の不規則抗体検査が行われたが,輸血後に生後4カ月未満児が不規則抗体を産生した症例は認められなかった.

    ほぼ全例に不規則抗体スクリーニング検査を可能とするMicro Typing Systemは乳児への輸血療法の安全性確保の観点において有用である.

  • 小野寺 秀一, 金子 佑次, 小池 靖敏, 福田 香苗, 阿部 高秋, 平山 順一, 柴 雅之, 五十嵐 滋, 永井 正, 佐竹 正博, 田 ...
    2019 年 65 巻 3 号 p. 568-576
    発行日: 2019/06/25
    公開日: 2019/07/18
    ジャーナル フリー

    Cryoprecipitate(Cryo)は新鮮凍結血漿(FFP)より高濃度にFibrinogen(Fib)を含み,止血障害を改善する効果が高いことで知られる.Cryoは医療機関が自ら調製して使用できるが,大型の冷却遠心機を備えた施設に限定される.本検討では遠心機によらず膜型血漿分離器(分離器)を用いてFFPのFibを濃縮し,生成物(FFPの使用量を変えて2系作製.産物をM1,M2とした.各n=10)を回収して,その凝固因子濃度等の性状を明らかとした.分離器の中空糸外側にFFP(M1作製では458ml,M2作製では878ml)を充填し,これを1,200mlの生食で洗浄した後,中空糸外側に残った成分を生食で回収(M1:51ml,M2:99ml)した.生成物のfib濃度はM1が695mg/dl,M2が953mg/dlで,調製時間はM1で23分,M2で71分であった.M2は同一のFFPから作製されたCryo(Fib濃度:1,128mg/dl)と比べて,2.6倍のFXIII活性(507IU/dl)と4.4倍のFV活性(502IU/dl)を示した.本方法は遠心機や送液ポンプが不要であり,多くの医療機関でFib濃縮物の調製が可能になることが期待できるが,これには更なる研究が必要である.

  • 川元 俊二, 寺島 孝弘, 黒木 則光, 乗富 智明, 前野 博
    2019 年 65 巻 3 号 p. 577-583
    発行日: 2019/06/25
    公開日: 2019/07/18
    ジャーナル フリー

    目的:消化器領域の腫瘍を担うエホバの証人患者へのPatient Blood Management(以下,PBMと略す)の治療戦略に基づいて周術期管理を行った外科的切除患者の治療成績を提示し,エホバの証人の手術に対する指針を提案する.

    対象と方法:1996年7月から2017年6月の間で消化器外科領域(消化管,肝胆膵,腹膜・後腹膜)の腫瘍を担うエホバの証人に対し切除手術を企図した217例を対象とし,周術期管理方法と手術成績を後方視的に検討した.

    結果:疾患臓器は食道4例,胃51例,結腸直腸74例,肝臓37例,胆道16例,膵臓25例と他臓器10例を含んだ.受診時貧血41例(平均Hb値8.7g/dl)に対し増血療法後,貧血の有意な改善を認め(術前値10.9g/dl),全例に予定術式を施行した.術中自己血輸血施行率は48%で,高難度肝胆膵外科手術の多くで,希釈式と回収式自己血輸血の併施を適応した.術後,鉄剤静注と適宜アルブミン製剤を投与し全身管理した.術後合併症は3.1%で,縫合不全や膵液漏に対し,ドレナージの徹底によって重篤化を防止した.

    結語:PBMに基づく無輸血手術および周術期治療は,貧血症例や高侵襲手術を要するエホバの証人患者の外科治療を可能にし,予後向上に貢献できた.

短報
  • 小山内 崇将, 金子 なつき, 田中 一人, 久米田 麻衣, 阿島 光, 内田 亮, 大和 美都, 北山 眞任, 廣田 和美, 福田 幾夫, ...
    2019 年 65 巻 3 号 p. 584-586
    発行日: 2019/06/25
    公開日: 2019/07/18
    ジャーナル フリー

    【はじめに】大量出血時の凝固障害による後天性低フィブリノゲン血症に対し,院内調製クリオプレシピテート(以下クリオ)の使用が広がっている.クリオは止血効果に優れるが,作製時に生じるクリオ上清血漿(以下乏クリオ)は廃棄される施設が多い.当院ではクリオ使用患者に対し,病態に応じて乏クリオの使用を推奨している.【対象】2016年4月~2018年6月にクリオを供給した全111例でクリオと乏クリオの使用状況を検討した.【結果】111例に対し262袋のクリオが供給され,105例に223袋(袋当たり実施率85.1%)が使用された.内訳は人工心肺使用手術77例(使用75例):160/174袋(実施率92.0%),人工心肺未使用手術19例(使用15例):32/49袋(同65.3%),手術以外緊急15例(使用15例):31/39袋(同79.5%)であった.乏クリオも使用されたのは,それぞれ147/174袋(併用率91.9%),15/32袋(同46.9%),14/31袋(同45.2%)であった.【考察】6例では乏クリオを使用せず等張アルブミンを使用していた.診療科との連携を深め,乏クリオの有効利用を推奨していく.

  • 大木 浩子, 今井 厚子, 野呂 光恵, 植松 正将, 阿南 昌弘, 山本 晃士, 田坂 大象
    2019 年 65 巻 3 号 p. 587-589
    発行日: 2019/06/25
    公開日: 2019/07/18
    ジャーナル フリー

    CD34陽性細胞数の測定において,従来行われてきたデュアルプラットフォーム法(DP法)からシングルプラットフォーム法(SP法)への移行に伴い,両法の比較検討を行った.末梢血幹細胞採取(PBSCH)患者18症例68検体のうち,末梢血検体48検体におけるCD34陽性細胞数の相関係数は0.997,PBSC検体20検体におけるCD34陽性細胞数の相関係数は0.985と良好であり,DP法とSP法で有意差は認められなかった.SP法はフローサイトメトリーだけで測定できるため検査の精度が高く,測定時間もSP法約40分,DP法約2時間とSP法の方が短時間である.以上のことから,SP法はPBSCH時の採取時期,採取量の決定に際して,より有用であると考えられた.

症例報告
  • 松田 安史, 坂井 晴香, 増永 志穂, 海老田 ゆみえ, 小林 洋子, 大岩 加奈, 大藏 美幸, 鈴木 孝二, 大嶋 勇成, 浦崎 芳正 ...
    2019 年 65 巻 3 号 p. 590-594
    発行日: 2019/06/25
    公開日: 2019/07/18
    ジャーナル フリー

    【緒言】輸血用血液製剤は他の薬剤との混合により物理的あるいは化学的変化が生じ,溶血や凝固が起こることがあるため原則的に単独の輸液ルートを用いて投与することが望ましい.しかし実際の臨床上は輸液ルートを複数確保することが困難な場合も多い.【症例】1歳児,乳児期に診断された固形腫瘍に対して新鮮凍結血漿-LR「日赤」(FFP)1単位を毎時20mlにて投与後,輸液ルート内にひも状の構造物が認められた.プラスミンによる分解試験を行うと構造物が消失しフィブリンと判断された.【考察】FFPはCaと反応することでフィブリンを析出する.当該患者ではメインの輸液にCaを含む酢酸リンゲル液が使われており,FFP投与時に生理食塩水による事前の輸液ルート内のリンゲル液の洗い出しが不十分であったことが考えられた.また小児であり流速も遅く輸液ルート内でFFPが停滞したこともフィブリン析出に影響した可能性があると考えられた.【結語】生理食塩水による輸液ルート内の輸液成分の洗い出しをしっかり行い,輸血との混合がない様にすることが重要と改めて認識された.

  • 岡田 義昭, 山田 攻, 鈴木 雅之, 内野 富美子, 山 麻衣子, 加藤 由佳, 本田 優未, 池淵 研二
    2019 年 65 巻 3 号 p. 595-599
    発行日: 2019/06/25
    公開日: 2019/07/18
    ジャーナル フリー

    汎血球凝集反応(Polyagglutination:以下PA)とは,細菌の酵素や血液疾患等により通常の赤血球では潜在化している抗原が露出し,そのために成人血液中に存在するIgM型自然抗体と凝集を起こす現象である.症例は,60歳代の女性.自動車事故による腹部打撲で入院中であったが,入院4日目に外傷性小腸穿孔による腹膜炎の診断で小腸切除術を受けた.術後に敗血症によるDIC(Disseminated Intravascular Coagulation)となった.血小板輸血後に急速に貧血が増悪し,赤血球輸血のために交差適合試験を行なったところ,主試験では凝集は認められなかったが,副試験において自己血漿以外の全ての血漿に対してW+~4+の凝集反応が認められた.抗T,及びレクチンとの反応からT抗原によるPAと判断した.PAは入院5日目に最も強く,敗血症の改善と共に凝集は弱くなった.本症例の貧血と直接ビリルビンの高値は,PA改善後も続いたことから原因を検索したところ巨大な血腫が発見され,PAによる溶血よりも血腫への出血が原因と推定された.敗血症では血球にPAが生じていることがあり,血漿を含む血液製剤の使用によって溶血が生じる可能性があるので注意を要する.

  • 細川 美香, 柏木 浩和, 中山 小太郎純友, 櫻木 美基子, 中尾 まゆみ, 森川 珠世, 清川 知子, 青地 寛, 永峰 啓丞, 柴山 ...
    2019 年 65 巻 3 号 p. 600-605
    発行日: 2019/06/25
    公開日: 2019/07/18
    ジャーナル フリー

    ダラツムマブはCD38を認識するIgG1κモノクローナル抗体であり,再発/難治性の多発性骨髄腫患者の治療薬として需要が増加しているが,間接抗グロブリン試験における輸血検査干渉に関しては,ダラツムマブ投与中止後も6カ月間程度持続する可能性がある.今回我々は,汎反応性の不規則抗体を検出し精査を進めるも,当院でのダラツムマブ投与歴が無いため時間を要したが,他院での詳細な病歴入手と大阪法(0.01mol/l DTT)によりダラツムマブの輸血検査への干渉であることを確認できた症例を報告する.

    患者は60歳,日本人女性の多発性骨髄腫症例で,他院での治療歴があり同種骨髄移植目的で当院転院となった.入院時の不規則抗体スクリーニングは陽性で汎反応性であり,患者情報を確認したが,当院でのダラツムマブ投与歴はなかった.さらに患者情報の収集に努めると,他院にて約半年間ダラツムマブが投与されており,投与中止から約3カ月経過していることが判明した.筆者らが開発した大阪法で検討した結果,高頻度抗原に対する抗体と考えられた抗体はダラツムマブによる輸血検査への干渉であることを確認出来た.大阪法は簡便で,ダラツムマブの干渉の解消法として有用であると考えられた.

  • 岡山 ゆかり, 橋本 誠, 貝原 由美, 生見 景子, 森 雅彦, 秋篠 達也, 北本 妙子, 糟谷 敬子, 乾 由美子, 岡村 篤夫
    2019 年 65 巻 3 号 p. 606-610
    発行日: 2019/06/25
    公開日: 2019/07/18
    ジャーナル フリー

    同種抗原となるヒト血小板抗原-15(Human platelet antigen-15:HPA-15)は血小板膜表面のCD109上に発現しており,これに対する血小板抗体は血小板輸血不応(Platelet transfusion refractoriness:PTR)や新生児血小板減少症(Neonatal alloimmune thrombocytopenia:NAIT)の原因となり得る.しかし,本邦で広く用いられている抽出抗原を用いたMixed passive hemagglutination法(MPHA法)では,HPA-15抗体を検出することは難しく,HLA抗体を有する患者では更に解析が困難である.

    この度我々は,急性骨髄性白血病に対する治療中にPTRとなった患者血清中に,HLA抗体と共に,Monoclonal antibody-specific immobilization of platelet antigens法(MAIPA法)によりHPA-15a抗体が検出された症例を経験した.

    患者はランダム血小板では輸血効果を認めなかったが,HLA適合・HPA不適合血小板輸血では,HLA適合・HPA適合血小板輸血と同等の輸血効果が認められた.本例ではHPA不適合血小板でも輸血効果が認められたが,PTRに対するHPA-15a抗体の臨床的意義をより明確にするためには,さらなる症例の蓄積が必要である.

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