日本輸血細胞治療学会誌
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66 巻, 4 号
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原著
  • 小林 美佳, 岸野 光司, 秋山 友子, 進藤 聖子, 大槻 郁子, 菅野 直子, 藤原 慎一郎, 山本 千裕, 室井 一男
    2020 年 66 巻 4 号 p. 613-618
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/09/18
    ジャーナル フリー

    生後4カ月未満児のABO血液型検査は,母由来の移行抗体や抗A抗Bの産生が不十分であることから,オモテ検査のみの判定でよいと厚生労働省の「輸血療法の実施に関する指針」に明記されている.しかし,生後4カ月以降のウラ検査については,明確にされていない.今回,当院でABO血液型検査を実施した2010年1月から2017年4月までの約7年間における3歳未満の乳幼児,延べ1,068例のABO血液型検査について解析した.生後1カ月未満児と生後1カ月以上4カ月未満児のABO血液型オモテ検査とウラ検査の一致率(一致率)を比較すると有意差は認められなかった(P=0.638).さらに生後4カ月以上1歳未満の乳児を2カ月毎に一致率を比較検討した.その結果,月齢を重ねるに従い一致率も上昇した.また生後4カ月未満児の一致率(56.6%)と生後4カ月以上1歳未満児の一致率(76.5%)の比較では,有意差(P<0.001)が認められた.さらに,生後1歳以上では約90%の一致率が認められ,以上の結果より乳幼児のオモテ・ウラ検査を用いたABO血液型を確定する時期は,生後1歳以上が適切と考えられる.

  • 牧野 茂義, 菅野 仁, 岡本 好雄, 北澤 淳一, 山本 晃士, 安村 敏, 米村 雄士, 横濱 章彦, 松下 正
    2020 年 66 巻 4 号 p. 619-628
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/09/18
    ジャーナル フリー

    輸血医療に関する血液製剤使用実態調査は,国の委託事業として10年以上にわたって実施されてきた.調査開始当時のわが国の輸血医療の課題は,輸血管理体制の整備とアルブミン製剤および新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma:FFP)の使用量削減であった.輸血管理料をはじめとする国の施策や日本輸血・細胞治療学会(学会)の認定制度によって輸血管理体制の整備は進み,それに伴って血液製剤の廃棄率も減少してきた.適正使用に関しては,輸血適正使用基準にアルブミンとFFP使用量を組み入れたことや,学会が科学的根拠に基づく血液製剤の使用ガイドラインを発表したことで,アルブミン製剤およびFFP使用量に関しては急速に減少し,今では国際的にも平均的な使用量になった.今回の調査結果の解析から,わが国の安全で適正な輸血医療の実施は明らかに進んでいると考えられる.一方で近年急速に増加してきた免疫グロブリン製剤の使用実態の評価と各血液製剤の診療科別や輸血実施場所別の使用量の把握が新たな課題である.

  • 百瀬 暖佳, 加藤 孝宣, 浜口 功
    2020 年 66 巻 4 号 p. 629-633
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/09/18
    ジャーナル フリー

    B型肝炎はB型肝炎ウイルス(HBV)感染によって引き起こされる感染症である.日本では,HBVキャリアからの出生児にB型肝炎ワクチンを接種することで母子感染の防止が図られてきたが,2016年よりB型肝炎ワクチンは定期接種に位置付けられている.ワクチン接種後に抗HBs抗体価が10mIU/ml以上に上昇した場合,HBVに対する感染防御抗体を獲得したとされる.抗HBs抗体価を測定する体外診断用医薬品は,各メーカーから様々なキットが販売されているが,キット間で測定値に差異が生じていることが問題となっていた.2008年に標準物質の1つである抗HBs抗体国内標準品を用いたキットの性能評価が実施された.その結果,キットによって測定値に3倍以上の差が生じている可能性が示され,キットの改良が行われた.また,新たなキットの市場導入もあったことから,2008年から現在までの抗HBs抗体キットの動向を調査するため,2種類の標準物質を用いて再評価を行った.その結果,測定値のキット間差は最大で2.1倍程度まで軽減しており,キット間差の軽減(標準化)が進んだものと考えられた.

  • 長井 一浩, 菅河 真紀子, 宮崎 泰司, 河原 和夫
    2020 年 66 巻 4 号 p. 634-642
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/09/18
    ジャーナル フリー

    本研究では,医療機関における災害時等の輸血用血液製剤や血漿分画製剤供給不足への対策の実態を明らかにする事を目的として,全国の災害拠点医療機関を対象として血液製剤の運用ならびに院内輸血療法の危機管理に関する調査を実施した.

    回答は,対象の730施設中373施設から得られた(回答率 51.1%).災害対策マニュアルを整備している356医療機関のうち血液製剤の運用や検査体制に関する事項の整備率は130施設(36.5%)であった.その内,製剤供給に係るリスク分類とこれに基づく院内需要の制御といった手順が確立した医療機関は少数であった.更にこのような対策を整備する主体となり得る院内の担当者(部署)の権限について明確にしている施設は,上記130施設で回答のあった102施設中44施設(43.1%)に留まった.製剤搬送困難時の代替策策定や関連機関との連携体制構築や訓練等の実施はごく少数であった.

    血液製剤供給に係る危機に対して,医療機関における危機管理体制を構築するために,標準的なBusiness Continuity Plan(BCP)の策定および関連医療機関と血液センター,血漿分画製剤供給業者,行政との連携の構築が急務である.

症例報告
  • 山崎 理絵, 上村 知恵, 五十嵐 靖浩, 藤村 亮介, 森 文香, 中山 瞳, 甲田 祐也, 加藤 淳, 森 毅彦, 田野崎 隆二
    2020 年 66 巻 4 号 p. 643-648
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/09/18
    ジャーナル フリー

    同種造血幹細胞移植後Evans症候群発症の前に,患者由来不規則抗体の陽性化を認めた症例を経験したため報告する.【症例】28歳女性,O型Rh(+).慢性骨髄性白血病(急性転化)に対し,HLA一致非血縁ドナー(男性,A型Rh(+))より骨髄移植を施行した.移植後急性移植片対宿主病および器質化肺炎を合併し,ステロイドにより加療し改善した.1カ月に1度不規則抗体スクリーニングを実施していたが,ステロイド減量中の移植後1年の定期外来受診時,はじめて抗Eが陽性となった.その1カ月後に高度の貧血および血小板減少を認め,Evans症候群と診断された.ドナーおよび患者のRh血液型はDCcEeおよびDCCeeであり,発症時に患者由来B細胞の残存を認めた.患者残存Bリンパ球による同種抗体産生をきっかけに,赤血球・血小板に対する自己抗体が産生されたものと考えられた.【結語】同種造血幹細胞移植後に不規則抗体が出現した場合は,同定を速やかに行うとともに,病態変化の可能性を念頭に入れて,注意深く経過を追う必要がある.

  • 小島 奈央, 畑山 祐輝, 仲田 夢人, 濵田 映子, 松本 智子, 野上 智, 福田 哲也, 本倉 徹
    2020 年 66 巻 4 号 p. 649-653
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/09/18
    ジャーナル フリー

    多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)に対する抗CD38抗体医薬であるダラツムマブ(daratumumab:DARA)投与患者では,赤血球上に少量発現しているCD38のため,間接抗グロブリン試験(indirect antiglobulin test:IAT)が偽陽性となり,投与終了から約6カ月後まで続く可能性がある.

    今回,DARA投与後早期にIATが陰性となった症例を経験した.症例1:70歳代女性.MM(IgGκ型).DARA,ボルテゾミブ,デキサメタゾン(DBd)療法開始後よりIAT陽性となったが,3回目投与12日後及び5回目投与8日後にIAT陰性となった.症例2:50歳代女性.MM(IgGκ型).DBd療法開始後よりIAT陽性となった.DARAの治療効果が乏しく,投与は6回目で終了した.最終投与から14日後にIAT陰性となった.

    DARA投与後早期のIAT陰性化はDARAを消費してしまうほど骨髄中の腫瘍細胞が多いことを示唆しており,臨床に有用な情報となる可能性がある.

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