日本輸血細胞治療学会誌
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67 巻, 6 号
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総説
  • 中原 衣里菜, 谷ヶ﨑 博, 菅野 仁
    2021 年 67 巻 6 号 p. 541-548
    発行日: 2021/12/24
    公開日: 2022/01/07
    ジャーナル フリー

    発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)は,二相性自己抗体(Donath-Landsteiner抗体:DL抗体)により血管内溶血をきたす自己免疫性溶血性貧血(AIHA)である.これまでにPCHの症例をまとめた総説は乏しく,今回2000年以降の本邦でのPCH報告例に自験例を加えた73例(成人例19例,小児例54例)について臨床像を総括した.既報通り冬季に発症し,先行感染が認められることが多かった.かつては梅毒に続発する例が多くみられたが,2000年以降は非梅毒性の報告のみであった.多くの例は保温で改善傾向となったが,Hb 5.0g/dlを下回る場合に輸血が行われることが多く,重症例ではステロイドを使用した例もみられた.PCHは進行が早いため,早期に診断し,寒冷暴露を避けることが重要である.寒冷暴露で誘発される溶血性貧血として,寒冷凝集素症(CAD)との鑑別を要する.PCHの診断に必要なDL試験は委託可能な外部検査機関がなく,疑った場合には保温に努め,院内輸血/検査部門で施行を検討する.経過は通常一過性であり,DL抗体陰性化を確認後には安全に寒冷暴露制限を解除できるものと考えられた.

  • ―どのような患者にどのように対応するか―
    三原 圭一朗, 石井 智徳, 花本 仁, 藤 重夫, 松丸 昌幸
    2021 年 67 巻 6 号 p. 549-558
    発行日: 2021/12/24
    公開日: 2022/01/07
    ジャーナル フリー

    二次性低ガンマグロブリン血症(低IgG血症)は様々な原因により引き起こされるが,これに伴い感染症のリスクが上昇することが知られており,低IgG血症の治療である免疫グロブリン補充療法(immunoglobulin replacement therapy;IgRT)を考慮することは重要である.本邦では静注用ヒト免疫グロブリン(intravenous immunoglobulin;IVIG)と皮下注用ヒト免疫グロブリン(subcutaneous immunoglobulin;SCIG)が薬事承認されている.

    二次性低IgG血症治療にIgRTを用いた,複数の無作為化比較試験(RCT)によってIgRTの有効性は示されているが,これらの多くは20年以上前に実施されたものであり,近年の治療環境下における有効性や安全性に関する情報は不足している.

    本論文では,これまでに実施されたIgRTに関するRCTおよびB細胞標的治療などによる低IgG血症のプロファイルや危険因子等を紹介し,近年の治療環境下におけるIgRTの様々な問題点,その最新の考え方および今後の課題を詳説したい.

  • 山本 晃士
    2021 年 67 巻 6 号 p. 559-566
    発行日: 2021/12/24
    公開日: 2022/01/07
    ジャーナル フリー

    危機的大量出血時には希釈性凝固障害が進行するが,その本態は「高度な低フィブリノゲン血症」であることがわかってきた.特に産科出血や外傷性出血では,早期から発症する100~150mg/dl未満の低フィブリノゲン血症が患者の予後を左右する要因となっている.これらの患者では大量出血によりフィブリノゲンの喪失が進むだけでなく,著明な線溶亢進によってフィブリン/フィブリノゲンの分解が起こっている.高度な低フィブリノゲン血症は血小板凝集も低下させるため,大量出血患者の止血能を改善させる治療のターゲットは「低フィブリノゲン血症」であると言える.

    高度な低フィブリノゲン血症に陥って止血困難なウージングが遷延している状況では,集中的な濃縮フィブリノゲンの迅速補充がもっとも重要な止血治療となる.クリオもしくはフィブリノゲン製剤の使用で3gほどの濃縮フィブリノゲンを投与することにより,フィブリノゲン値を200~250mg/dl以上まで上げれば止血が可能になると期待される.新鮮凍結血漿の大量投与では高度な低フィブリノゲン血症からの脱却は不可能であり,出血が遷延するばかりか重篤な肺水腫を招くことになる.

  • 川真田 伸
    2021 年 67 巻 6 号 p. 567-572
    発行日: 2021/12/24
    公開日: 2022/01/07
    ジャーナル フリー

    現在,再生医療等の安全性の確保等に関する法律(安全確保法)の下,治療の再生医療等提供計画が4,319件登録されており,細胞加工施設は3,048件が届け出られている.殆どがクリニック併設の簡便な小規模細胞加工施設で特定細胞加工物の加工を行っているとみられ,特定細胞加工物の有効性,安全性の確保に一層の確実性が必要となっている.特定細胞加工物の製造においては,構造設備の要件を満たすことが重要なファーストステップであり,運用例の蓄積とともに理解が進んでいる.一方,品質の管理体制は実質的に実施機関の努力義務となっており,有効性と安全性の担保のボトルネックになっている.全ての医療機関にGCTP並みの運用を求めることはできないが,次の4点を検討することで,さらなる有効運用に期待できる.1.生体組織の採取,加工,患者への投与の過程でのリスク定量化と低減策の策定,2.QMS文書の構築と運用の検証,3.(病院のCPCの場合)診療実施者とCPCの施設責任者そして病院長の間責任の区分の明確化,そして,4.新たに有効な治療が開発された場合の,再生医療等製品としての薬事開発への導出の検討,である.

ガイドライン
原著
  • 松山 宣樹, 坂元 宏隆, 勝田 通子, 小野 明子, 石井 博之, 市原 孝浩, 東 史啓, 平山 文也, 瀧原 義宏, 高梨 美乃子, ...
    2021 年 67 巻 6 号 p. 589-596
    発行日: 2021/12/24
    公開日: 2022/01/07
    ジャーナル フリー

    コロニー形成試験(CFU試験)は,移植後の造血回復能を予測できる臍帯血品質試験法として用いられているが,コロニーの種類と数を顕微鏡下にて目視で判定することから主観的要素を完全に排除することが難しく,判定者ごとに結果の不揃いが生じやすい.これを解決するために,CFU試験における自動コロニー判定システム(STEMvisionTM)の有用性について30例の臍帯血を対象に検討した.まず,樹脂製擬似コロニーを埋め込んだ精度管理用プレートでシステムの安定的稼働を確認した.同システムでの自動判定と技術職員2名による目視判定の結果を比較したところ,3者のうちのいずれの2者間の比較でも総コロニー数における極めて強い相関(rs>0.92,p<1.0×10-39)とCFU-GM数における強い相関(rs>0.79,p<1.6×10-20)をそれぞれ認めた.STEMvisionTMによるCFU判定結果は,目視判定法の結果と同程度であった.以上の結果より,自動コロニー判定システムは精度管理が可能であり,CFU試験の標準化に向けて導入の検討に値すると考えられる.

短報
  • 大塚 真哉, 池本 純子, 吉原 享子, 辻本 真央, 山口 楓歌, 原田 由紀, 杉山 寛貴, 小野本 仁美, 村田 理恵, 奥田 典子, ...
    2021 年 67 巻 6 号 p. 597-600
    発行日: 2021/12/24
    公開日: 2022/01/07
    ジャーナル フリー

    抗CD38モノクローナル抗体薬(ダラツムマブ,イサツキシマブ)投与患者検体を用いた不規則抗体スクリーニングでは,赤血球試薬表面上にもCD38抗原が発現していることから汎反応性に偽陽性を呈する.

    全自動輸血検査装置IH-1000(BIO-RAD社)を用いてダラツムマブ投与患者検体の不規則抗体スクリーニングと直接抗グロブリン試験を実施した後,測定当日の他検体の検査では偽陽性反応は出現しなかったが,翌日の不規則抗体スクリーニングにおいて複数の偽陽性反応が出現した.再現性を検証したところ,同様の反応が得られた.

    原因としては,サンプルプローブを介したキャリーオーバーにより装置内の赤血球試薬に患者検体中のダラツムマブが混入したと考えられるが,発生する条件等についてはさらなる検討が必要である.ダラツムマブ皮下注製剤では静注製剤と異なり投与量が固定量であることから,低体重患者における血中濃度上昇から本事象が起こりやすくなった可能性も考えられる.他の全自動検査装置でも同様の事象が発生する可能性は否定できず,抗CD38抗体薬治療中の患者検体を全自動輸血検査装置で検査する場合には注意が必要である.

症例報告
  • 前垣 雅哉, 足立 康二, 河村 浩二, 田澤 千明, 西尾 崇矢, 濵田 のぞみ, 原 健太朗, 鈴木 さやか, 細田 譲, 但馬 史人, ...
    2021 年 67 巻 6 号 p. 601-606
    発行日: 2021/12/24
    公開日: 2022/01/07
    ジャーナル フリー

    症例は71歳男性.後腹膜リンパ節腫脹による水腎症にて発症.濾胞性リンパ腫(FL)と診断.経過中びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に形質転換し,化学療法中前胸部に巨大腫瘤残存し化学療法不応となったため,同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)目的に当院へ紹介.前胸部腫瘤に対し放射線治療にて寛解後に,フルダラビン,アルケラン,全身放射線照射(TBI)の強度減弱前処置にタクロリムス,ミコフェノール酸モフェチルによる移植片対宿主病(GVHD)予防による臍帯血移植(CBT)を施行.Day16に好中球生着したが,LDHは著明に上昇し,day23に骨髄は混合キメラの状態,c-MYCBCL2の転座のあるリンパ腫細胞が出現し再発と診断.そのためDay26に免疫抑制剤中止したところ,LDHは徐々に低下し,GVHDの発症なくDay55には骨髄は完全キメラの状態に至り,再寛解となった.移植後早期再発に対して免疫抑制剤の中止による移植片対リンパ腫(GVL)効果が誘導されたと考えられた.今後allo-HSCT後のリンパ腫の早期再発に対する治療のためのGVLの効果的な誘導方法を検討すべきと考えられる.

活動報告
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