日本輸血細胞治療学会誌
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最新号
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原著
  • 宮園 卓宜, 古川 良尚, 宮下 幸一郎, 大木 浩, 時村 洋, 大塚 眞紀, 竹原 哲彦
    2025 年 71 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    鹿児島県離島の中核病院である鹿児島県立大島病院(大島病院)において,悪天候で日本赤十字社輸血用血液製剤(日赤血)の入手困難が予測される場合や,脳死下臓器提供時など一時的に在庫血を増やす必要がある場合を想定し,臨時の血液の返品再出庫(BR;Blood Rotation)を施行した.鹿児島県赤十字血液センター(血液センター)から血液搬送装置(ATR;Active Transport Refrigerator)を用い,O型あるいはA型赤血球製剤を搬送し,未使用製剤を鹿児島県本土の複数医療機関で使用する臨時BRを行い,その有効性と課題を抽出した.

    悪天候時の臨時BRは費用対効果に優れるも,定期的BRよりも必要時に血液がそこにあるという安心感は低下した.一方,脳死下臓器提供時BRは安心・安全な血液を有効に使用するうえで有用であった.臨時BR時における血液センターの人的負担,調整の在り方についての課題が明らかになった.

  • ―間欠的空気圧迫法の実践とその効果―
    髙木 尚江, 藤井 敬子, 益田 八千代, 岡田 亜由美, 池内 一廣, 北村 亘, 藤井 伸治
    2025 年 71 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    アフェレーシスは長時間の身体可動域制限を伴う侵襲的な医療行為である.さらに,クエン酸中毒や迷走神経反射などの有害事象を伴うことがあり,患者および健常人ドナーにおける身体的,および精神的負担が大きい.我々は,アフェレーシス中のそれらの負担を軽減することを目的として,間欠的空気圧迫法(intermittent pneumatic compression)を導入した.本研究においては,IPC機器の及ぼす影響を後方視的に検討した.結果として,バイタルサインの変動や症状の観察からIPC機器使用の安全性が確認でき,長時間の可動域制限や身体症状を有する場合でも,主観的によい感覚や苦痛緩和の感覚が得られていた.将来的に細胞療法がさらに増加することが予想されるため,高品質の細胞を採取するだけではなく,アフェレーシスの快適性の追求が望まれる.

Open Forum
活動報告
  • ―院内輸血療法委員会の設置,組織と活動状況―
    樋口 敬和, 塚原 晃, 坂口 武司, 岡本 直子, 山本 晃士, 新妻 太一朗, 松田 充俊, 石田 明
    2025 年 71 巻 1 号 p. 22-29
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    埼玉県合同輸血療法委員会は,血液製剤の供給実績のある埼玉県内437医療施設を対象に,院内輸血療法委員会の設置,活動内容などに関するアンケート調査を行った.155施設から回答が得られ(回答率35.4%),96施設(500床以上 15施設,300~499床 21施設,100~299床 35施設,1~99床 23施設,無床 2施設)で委員会が設置されていた.病床数が少ない施設ほど委員会が頻回に開催され,開催時間が短く,委員の出席率が高い傾向にあった.44委員会が輸血の適応を検討し,68委員会が適正使用を推進するための検討をしていたが,開催時間が短い委員会ほどこれらについて検討していない傾向がみられた.52委員会がフィードバックをしており,36委員会が改善状況を確認していた.血液製剤使用状況は93委員会で毎回報告されていた.65委員会がすべてのインシデントを把握しており,68委員会がインシデント防止対策を協議していた.副作用は74委員会が把握していた.20委員会が輸血マニュアルの遵守状況を監査していた.21委員会が他施設の委員会と情報交換していた.今回の結果に基づいた働きかけと,さらに詳細かつ具体的な内容の調査を計画している.

  • 藤野 恵子, 山口 恭子, 蒲原 香苗, 榎本 麻里, 大森 名起, 藤原 萌, 堀田 多恵子, 平安山 知子, 國﨑 祐哉
    2025 年 71 巻 1 号 p. 30-36
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    血小板製剤は,採血から検査,製造,各血液センターへの分配を経て供給可能となるのに約1日半かかるとされており,前日午前中までの“予約”が推奨されている.しかしながら献血者からの採血を考えた場合,前日午前中の予約では採血計画への反映には間に合わず,採血済の血小板の分配調整に反映することしかできない.

    当院では2020年4月より,次週1週間の血小板製剤使用量予測を福岡県赤十字血液センターに情報提供する活動を行っている.“予測”の最大のポイントは,1週間分の予測情報を前週木曜日に提示するという点である.これにより,献血者数が多く見込める週末から需要に合わせた採血調整をすることができ,月曜日からの円滑な製剤供給が可能となる.

    今回の評価により,検査室内で完結する省力化した手順であっても,比較的有用性の高い予測が可能であることが確認できた.今後血小板製剤全品培養による細菌スクリーニングが導入されると,血液センターの出庫日は採血2日目から採血4日目に変更となるため,早くに“予測”を情報提供するメリットはさらに大きくなると期待される.

  • ―院内輸血療法委員会の課題―
    樋口 敬和, 塚原 晃, 坂口 武司, 岡本 直子, 山本 晃士, 新妻 太一朗, 松田 充俊, 石田 明
    2025 年 71 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    血液製剤の供給実績のある埼玉県内医療施設を対象として,院内輸血療法委員会(委員会)の設置状況,構成,活動内容,課題などに関するアンケート調査を行い,回答のあった96施設の委員会が挙げた課題について検討した.委員からの活発な意見・発言がないことが最も多くの委員会の課題で,次いで学会認定スタッフや輸血領域に詳しいスタッフの不在が多く,続いて,適正使用についての議論や対応ができていない,輸血療法に対する要望や困りごとが委員会に上がってこない,技師以外の職種の協力が得にくい,輸血管理料施設基準のために開催している・形骸化していることなどが挙げられた.大規模施設の委員会では輸血療法に対する要望や困りごとが委員会に上がってこないことや委員からの活発な意見・発言がないことを課題として挙げた施設が多く,より小規模な施設ではスタッフの不在に関する課題が多く挙げられていた.委員会の課題に地域による明らかな差異はみられなかった.

論文記事
  • 黒澤 修兵, 原口 京子, 本間 柚乃香, 河合 芙由子, 石和田 萌笑, 飯村 稜子, 渡邉 玲, 石橋 小百合, 佐久間 香枝, 成島 ...
    2025 年 71 巻 1 号 p. 44-52
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    緒言:以前より当院では末梢血幹細胞採取(PBSCH)前後で末梢血CD34細胞数を測定しており,両方のサンプルをPBSCH後に同時に測定していた.2021年以降,ドナー負担軽減や業務効率化を目的として,直前の末梢血CD34細胞数をPBSCH中に測定し,結果に基づいて血液処理量を調整するようになった.本研究では同方法の採用前後で細胞治療業務への影響を検証した.

    方法:当院で血縁者間PBSCHを実施したドナーを対象とし,採取日数が1日間(1-day harvest cohort)と2日間(2-day harvest cohort)の症例に分けて解析した.PBSCH前の末梢血CD34陽性細胞数をPBSCH終了後に測定した群(2021年8月以前)をPrevious sub-cohort,PBSCH中に測定した群(2021年8月以降)をCurrent sub-cohortと定義した.主要評価項目は処理時間とCD34陽性細胞輸注率とした.

    結果:1-day harvest cohortでは,Current sub-cohort(88例)はPrevious sub-cohort(124例)に比べて平均処理時間が短く(Previous:180分[SD,27.8]vs. Current:151分[SD,45.1];P < 0.01),平均CD34陽性細胞輸注率が高かった(Previous:78.1%[SD,25.7]vs. Current:87.6%[SD,21.1];P < 0.01).採取物が全量使用されず凍結処理を要した症例に関しては,Current sub-cohortがPrevious sub-cohortより有意に少なかった(Current:25.0%[22例]vs. Previous:39.5%[49例];P = 0.038).

    結論:PBSCH前の末梢血CD34陽性細胞数を指標に血液処理量を調整することで,ドナー負担軽減や業務効率化につながる可能性が示唆された.

  • 保井 一太, 小川 優子, 斉野 織恵, 赤松 理恵, 渕崎 晶弘, 入江 與利子, 鍋谷 まこと, 田中 光信, 瀧原 義宏, 田口 明彦 ...
    2025 年 71 巻 1 号 p. 53-65
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    幹細胞を用いた再生治療は,幹細胞の増殖能や分化能に影響されると考えられているが,この再生効果の分子的・細胞的メカニズムは十分に解明されていない.我々は最近,脳梗塞モデルマウスにおいて,造血幹・前駆細胞治療後にギャップジャンクションを介した小分子代謝物が血管内皮細胞へ速やかに移動することを見出している.そこで,造血能が完全に消失する15Gy以上のX線を照射した臍帯血細胞において,臍帯血細胞が有する組織修復能が維持されるかを調べた.本研究では,X線照射した臍帯血から調製した単核球をXR細胞とした.XR細胞では造血能は消失していたが,組織修復能は維持されており,XR細胞を投与した脳梗塞モデルマウスの脳機能は回復した.また,XR細胞投与後10分間でXR細胞からエネルギー源として供給される低分子代謝産物によって損傷した脳血管内皮細胞や血管周囲アストロサイトが修復され,梗塞部位の血流回復とそれに続く神経新生という治療メカニズムが考えられる.XR細胞は,細胞の自律的な再生作用を介するのではなく,新神経血管新生を誘発することによって,組織修復能力を発揮する可能性がある.

  • 渕崎 晶弘, 保井 一太, 林 智也, 田中 光信, 小山田 千秋, 大西(和田) 朋子, 細川 和也, 藤村 吉博, 下垣 一成, 平山 ...
    2025 年 71 巻 1 号 p. 66-73
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    【背景と目的】血栓形成能解析システム(Total Thrombus-formation Analysis System:T-TAS)は,再構成血液サンプルを用いることで血小板製剤の止血への寄与を定量的に解析することが可能である.しかしながら,血小板数が少ない検体には不向きである.我々はチャンバーの深さが浅い血液希釈(haemodilution:HD)チップを導入することで,低血小板検体への適応と高せん断応力条件(1,500s-1)による止血能評価システムの開発を試みた.

    【材料と方法】血液サンプルは,赤血球製剤,標準ヒト血漿,血小板製剤を混合して調製され,最終血小板数は50×103lとした.凝集試験にはコラーゲン,アデノシン二リン酸(ADP),リストセチンを凝集惹起剤として用いた.血小板製剤(N = 10)の2日目,4日目,9日目にサンプルを評価した.

    【結果】HDチップにより,血小板数50×103lの全サンプルの止血能を安定的に解析することができた.止血能はADP凝集(10kPaまでの時間[T10]:r=-0.53,30分間曲線下面積:r=0.40)および保存期間(T10:r=0.44)と相関していた.

    【結論】HDチップ搭載T-TASは,高せん断応力条件で低血小板検体の止血能を安定的に解析することが可能である.このアプローチは血小板製剤の止血能解析において,実験動物を用いたin-vivo止血試験への橋渡しとなることが期待される.

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