本講座ではこれまで固体中の熱物性について, 主としてフォノンモデルに基づいた解説を行ってきた. フォノンは固体中の原子の波動的な運動であり, 隣接する原子の運動は規則的な相関をもっている. そこでは個々の原子の位置よりも, 振動数や音速といった波を特徴づける物理量が重要な意味をもっていた. これに対して気体中の原子や分子は自由に運動しており, 衝突の際にのみ, 運動量やエネルギーの交換を行うので, 隣の原子との運動の相関は殆どない. また固体中を原子が拡散する際も個々の原子の動きが問題となる. また, 液体中の原子の運動は, ある意味で気体と固体の中間的なものである. 今回は視点を個々の原子の運動に移して, 種々の問題を述べる.
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