諸文献によれば,鋼材の含砒量が著しく大とならぬ限り,衝合抵抗熔接,縫合熔接及びフラッシュバット熔接は可能であるが鍛接は含砒量比較的少い場合,既に不可能又は困難となることが知られる.
著者等は之等文献を見て,此原因が含砒鋼の加熱に際して生ずる酸化皮膜と關係あるのではないかと考えた.そこで此見解を確める爲,簡單なる鍛接試驗及び酸化試驗を行い,次の結果を得た.
a) 低炭素鋼に就ても,Cr-Mo鋼に就ても,含砒量が増すと高温加熱に際し酸化膜の生ずる傾向が大であり鍛接は困難となる.即ち鋼中の砒素は鋼の酸化膜生成を促進し,その膜は鍛接を防げるのである。
b) 低炭素鋼に就ては,0.38%As以下の含砒鋼は硼砂を用いて,鍛接可能のようである.Cr-Mo鋼に就ては,本報の調査範圍では,0.52%As以上の含砒鋼は鍛接困難であつたが,更に含砒量の低い鋼に就ては材料無く實驗を行うことが出來なかつたので,鍛接し得る鋼の含砒量の上限界は明でない.
又,著者等は之等の事實に就て,簡單なる考察を試みた.即 ,既に本研究第2報に於て述べた如く,鋼中に砒素が多くなると地質たるフェライト粒が砒素を固溶する濃度大となり,又砒素の偏析によつて特に濃度大なるフェライト粒群が生ずる.從つて,かかる含砒量大なるフェライト夫れ自身は硬く且高温に於ける粘着性が無砒フェライトの夫れに比し減少するであろうことも容易に考えられる所である.
然し乍ら,「特殊の熔劑を用い鍛接を行えば,含砒中炭素鋼と雖も良好なる鍛接部を與える」とのCameron及びWaterhouseの報告と,本調査結果とを思い合わす時は,生成酸化膜が鍛接を妨げる重大なる因子であることが理解せられる.
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