(i)CO
2-O
2およびCO
2-N
2混合ガスにより18-8ステンレス鋼をガス被包アーク溶接する場合,送給ガスの酸化力が減少するにつれ,すなわちCO
2-O
2の酸素混合率が減少し,100%CO
2となり,さらにCO
2-N
2のN
2混合率が増大し,100%N
2になるにつれ,溶着鋼中のマンガン,珪素含量は一様に増大するが,モリブデンおよびニッケル含量はほとんど変化なく,クロム含量はCO
2-O
2系でCO
270%以上ではほとんど変化しない.
(ii)炭素含量は炭酸ガスのみあるいは炭酸ガスに若干の窒素を混合した場合が最も多く,炭酸ガスに酸素を混合送給する場合は減少の傾向にある.
(iii)100%N
2よりもさらに還元性にしたN
2-H
2送給ガスの場合は,マンガン,珪素およびモリブデン含量は一様に増加し,クロム含量は変化なく,ニッケル含量は概して減少の傾向を示した.
(iv)CO
2-O
2系では100%O
2でも溶着金属に著しい気孔の発生は認められなかった.
(v)CO
2N
2系では窒素混合率60~80%から著しい気孔が発生した.
(vi)N
2H
2系ではH2の混合により,X線的には100%N
2の場合より気孔が減少したが,30~40%H
2で再び激しい気孔の発生が認められた.顕微鏡検査の結果では,窒素に3.6%以上の水素を混合送給した場合に微細な空隙が溶着金属に存在することが確かめられた.
(vii)このような顕微鏡的空隙はアルゴンおよびアルゴン+10%O
2の場合にも認められた.とくにアルゴンのみの場合はX線的に認められた気孔の発生も著しかった,このことはアルゴン自身が気孔の原因になりうることを示すものと思われる,
(viii)種々の腐食試験の結果,炭酸ガスに30%程度まで酸素あるいは窒素を混合して得られた溶着鋼の耐食性は,母材および送給ガスとしてアルゴンあるいはアルゴン+10%O
2を使用してアーク溶接した溶着金属のそれと同程度か,それより優れていた.
(ix)N
2-H
2系による溶着金属の耐食性はアルゴンあるいはアルゴン+10%O2送給ガスによる場合に比べ著しく劣った.
(x)炭酸ガスのみを送給する場合に比べ,炭酸ガスに適量の酸素を混合送給して得られた溶着鋼の耐食性はやや優れ,溶着鋼の鏡検結果によると地に散在する非金属介在物も少なく清浄であった.
(xi)純アルゴン,純炭酸ガス,炭酸ガス+28%酸素および炭酸ガス+30%N
2それぞれの送給ガスの下で得られた304型の厚さ7.5mmのステンレス鋼板突合溶接部の引張試験結果は,純アルゴンによる場合以外はすべて母材部で破断し,満足な結果を示した.純アルゴンの場合は融合部から母材にかけて破断した.これは純アルゴンによる場合の溶込形状が不適当で融合不良部を生じたためと思われる.
(xii)全溶着金属の引張試験結果は,強さはすべての場合に母材以上の値を示したが,伸びおよび絞りが母材に比べ低かった.伸びはCO
2-O
2,CO
2,A,CO
2-N
2の順であった.多層盛溶接においては,送給ガスの混合率をなお検討する必要があるものと思われる.
(xiii)304型電極鋼線による304型母材の多層盛全溶着金属の腐食試験結果は,単層盛全溶着金属の場合に反し,いずれの場合も母材に比べ耐食性はかなり劣化を示した.このような場合は316型電極鋼線の使用が望ましい,
(xiv)粒界腐食および粒界腐食曲げ試験結果は,送給ガスによる溶接法の差はほとんど認められず,最初のパス側の熱影響部すなわちweld decay zoneに著しい粒界腐食の進行と曲げ試験では割れを認めた.
(xv)この粒界腐食割れは,600℃の焼鈍では敏感になり,むしろ増加し,950℃では著しく減少し,1050℃の溶体化処理を行なえば完全に防止できる,
(xvi)CO
2-N
2系送給ガスを採用する場合,その窒素混合率が増大するにつれ,溶着鋼の窒素含量はほぼ直線的に増加し,溶着鋼のフェライト量は減少する.
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