日本野生動物医学会誌
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11 巻 , 1 号
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特集
  • 福井 大祐
    2006 年 11 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2006年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    地球上の美しい生物を次世代のこどもたちに引き継ぐため,早急に生息地の保全と回復を進めなければならない。同時に,動物園水族館は,国際的な協働の下,希少野生動物の生息域外保全および生物多様性保全への長期的な貢献を目指して活動しなければならない。遺伝的多様性を保持した飼育個体群の維持のため,人工繁殖技術の確立と生殖子などの細胞保存は重要な課題である。北海道内の5つの動物園と北海道大学は,アムールトラとヒグマの人工繁殖を目指した共同研究を進めてきた。「環境試料タイムカプセル化事業」の一環として,絶滅危倶種の組織採取を行い,国立環境研究所で細胞培養および凍結保存が行われている。動物園で飼育する鳥類の初期発生卵から始原生殖細胞(PGCs)を採取し,凍結保存も行っている。さらに,PGCsの異種間移植を用いて生殖巣キメラ個体を作出し,将来的に希少鳥類の増殖に応用し得る発生工学的手法の研究も進めている。人工繁殖や細胞保存は,それのみで野生動物の保全に結びつくものではない。これらの活動を社会に広く「伝える」ことを通して,野生動物の現状を知る機会を与えることも重要である。本稿では,希少野生動物の種の保存を目的とした人工繁殖および細胞保存に関する研究について紹介するとともに,動物園水族館が野生動物と地球の健康を守るためにできることを論じる。
  • 齊藤 慶輔, 渡辺 有希子
    2006 年 11 巻 1 号 p. 11-17
    発行日: 2006年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    猛禽類は送配電柱を止まり木として頻繁に利用するため,感電事故は世界中で大きな問題となっており,日本でも近年頻発している。北海道でも普通種に加え,オオワシ,オジロワシ,クマタカ,シマフクロウなどの希少種においても感電事故が多発している。筆者らは過去に発生した感電事故に関して,被害鳥や送配電設備,発生現場の分析を行い,これを元に各事例の原因と傾向を検証した。さらに得られた情報を活用し,環境省や電力事業者とともに感電事故の防止に有効な対策を検討しながら順次これを実行している。2005年,「オジロワシおよびオオワシ保護増殖事業計画」が告示されたことにより,本種の存続にとって脅威となる様々な要因の軽減や除去が求められるようになったが,感電事故も早急に対処すべき大きな問題のひとつとなっている。獣医師を含む研究者,電力事業者,行政が互いの専門分野を尊重し,協力をしながらその防止活動に取り組むことが,本問題の早期解決のためには最も重要である。
原著
  • 福井 大祐, 坂東 元, 山口 雅紀, 落合 謙爾, 芝原 友幸, 門田 耕一
    2006 年 11 巻 1 号 p. 19-24
    発行日: 2006年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    5歳を超える年齢の雌のナミハリネズミ2頭において,エストロジェンレセプター陽性の乳腺癌を手術により治療することに成功したが,その後,別種の悪性腫瘍が発生した。症例1では,乳腺の腫瘍組織は腺腔の形成を特徴とし,篩状癌の様相を呈していた。腫瘍組織の大部分には多数の筋上皮細胞が残存しており,α平滑筋アクチンとサイトケラチンが陽性であった。術後9か月で前腕部に紡錘形細胞の増殖を特徴とした腫瘍ができ,紡錘形の腫瘍細胞が平滑筋アクチンで陽性に染まりデスミンで染まらなかったことから,筋線維芽細胞肉腫と診断した。症例2の乳腺癌は面疱癌の形態学的特徴を示し,癌胞巣の中心部に壊死物質があり,平滑筋アクチン陽性の筋上皮細胞は残存していなかった。約13か月後にこのハリネズミは死亡したが,剖検時に腎細胞癌をみつけ,免疫染色と電子顕微鏡による観察に基づいて近位尿細管由来だと判断した。
  • 楠 比呂志, 奥田 和男, 上田 かおる, 大江 智子, 林 輝昭, 伊藤 修, 川上 茂久, 齋藤 恵理子, 福岡 敏夫, 長谷 隆司, ...
    2006 年 11 巻 1 号 p. 25-30
    発行日: 2006年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    国内の3施設で飼育されていた18頭の成熟雄チーターから,経直腸電気射精法で採取した31サンプルの精液の性状を分析した。なお18頭中13頭は,繁殖歴がなかった。18頭の雄の精液の性状は,精液量が0.91±0.11ml,精液pHが8.1±0.1,総精子数が32.6±5.4百万,生存精子率が84.9±1.9%,精子運動指数が53.7±3.8,形態異常精子率が66.1±3.4%,正常先体精子率が68.5±5.1%で,これらの値は,他のチーターにおける報告値の範囲内であった。繁殖歴がある雄とない雄の精液を比較したところ,先体正常精子率以外のパラメーターについては,両者間で有意な差はみられず,繁殖歴がない雄の正常先体精子率(59.8%)も致命的なほど低くはなかった。以上の結果から,飼育下の雄チーターにおける低受胎の主因が,精液性状の低さである可能性は少ないと考えられた。
  • 熊沢 秀雄, 與名 理昇, 平井 真弓, 長谷川 英男
    2006 年 11 巻 1 号 p. 31-34
    発行日: 2006年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    和歌山県太地沖で捕獲され高知市の水族館で飼育されていたバンドウイルカTursiops truncatusが気管支肺炎で死亡し,剖検したところ肺虫Stenurus ovatus (Linstow, 1910) (線虫綱:変円虫上科:シューダルス科)の成虫が多数,細気管支内腔に見られた。病態の進行には肺虫感染と細菌叢の相乗的な関与が疑われた。
  • 石橋 治, 阿波根 彩子, 中村 正治, 盛根 信也, 平良 勝也, 小倉 剛, 仲地 学, 川島 由次, 仲田 正
    2006 年 11 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 2006年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    沖縄島北部において捕獲されたジャワマングース(Herpestes javanicus)133頭およびクマネズミ(Rattus rattus)54頭のレプトスピラ(Leptospira spp.)の保有調査を実施した。その結果,ジャワマングースにおけるレプトスピラの分離率は30.1%であり,クマネズミでは20.4%であった。ジャワマングースから分離したレプトスピラは,抗血清を用いた凝集試験およびflaB遺伝子配列に基づく種の同定により,33株がLeptospira sp.血清群Hebdomadis,内14株はL. interrogans,5株がL. sp.血清型Javanicaおよび2株がL. interrogans血清群Autumnalisと推定された。これまでにも沖縄島のジャワマングースから血清型HebdomadisとAutumnalisは分離されているが,血清型Javanicaを分離したのは今回が初めてである。クマネズミから分離されたレプトスピラは,11株すべてがLeptospira sp.血清型Javanica,内1株がLeptospira borgpetersenii血清型Javanicaと推定された。沖縄島北部のヒトにおける抗体調査では,血清群Hebdomadisに対する抗体の保有率が高く,また,近年この地域から血清型Hebdomadisに感染した事例が報告されている。これらのことから,沖縄島北部において,ジャワマングースがヒトへのレプトスピラの感染環の一端をになっていることが示唆され,クマネズミはマングースへのレプトスピラ媒介動物であることが推察された。
  • 安永 千秋, 豊坂 加奈, 辻本 恒徳, 斎藤 靖史, 大澤 健司, 三宅 陽一
    2006 年 11 巻 1 号 p. 43-48
    発行日: 2006年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    鳥類は外観による雌雄判別が困難な場合が多いため,繁殖計画を進める上で雌雄判別法の確立が必要である。そこで,鳥の異なる組織からのDNA抽出の可否を明らかにするとともに,様々な鳥種におけるPCR条件を確立する目的で,動物園鳥類および野生鳥類計8目12科45種218個体を対象に雌雄判別を試みた。血液,羽柄,羽軸,綿羽,胸筋,腐敗臓器,皮膚あるいは痂皮からDNA抽出を試みた結果,血液,胸筋,腐敗臓器および痂皮からは100%,羽柄からは98%の試料においてDNA抽出が可能であった。さらに,7種類のプライマーセットを用いてPCR法を行った結果,雌雄両方の性が既知である個体が得られた8目12科31種181個体中,175個体で雌雄判別が可能であった。一方,雌雄両方の性が既知である個体が得られなかった5目7科14種37個体中,7種10個体についてはPCR法で雌雄片方のバンド(性特異遺伝子増幅産物)のみが確認されたために雌雄判別には至らなかったものの,別の7種27個体については同種内において雌雄両方のバンドが確認されたために雌雄が推定された。以上の結果から,血液の他,羽柄からも高い確率でDNAの抽出が可能であり,種ごとにPCR条件を検討することで多くの種で性特異的な泳動パターンが検出できたことから,PCR法を用いた雌雄判別は飼育個体や野生個体を含む多くの異なる鳥種に適用できる方法であることが示された。
  • 楠田 哲士, 長神 大忠, 西角 知也, 中川 大輔, 瀧田 豊治, 栗田 大資, 上道 幸史, 深井 正輝, 久保田 浩, 上田 かおる, ...
    2006 年 11 巻 1 号 p. 49-56
    発行日: 2006年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    雌雄アダックス(Addax nasomaculatus)の繁殖状態を非侵襲的にモニタリングするために,糞中の性ステロイドホルモン含量の測定を行い,それらの有効性を調べた。アダックスの雌3頭および雄1頭から糞と血液を採取し,雌のプロジェステロン(P_4)と雄のテストステロン(T)をエンザイムイムノアッセイ法により定量した。糞中P_4含量は,非妊娠期と妊娠期ともに血中P_4濃度と極めて類似した変動傾向を示し,両P_4値間に有意な正の相関(r=0.77, p<0.01)が認められた。しかし,雄の糞中T含量の動態は,血中T濃度の動態を反映していなかった。雄の雌に対する追尾,求愛およびマウントの一連の繁殖行動は,雌のP_4値が基底値の周辺時期に観察された。発情周期は,P_4の動態から平均28.4±0.4日間(n=5)であった。妊娠中の血中および糞中のP_4値は交尾後緩やかに上昇し続けた。糞中P_4含量は分娩約1週間前に最高値を示した後,急激に減少し,分娩3〜5日後には基底値となった。分娩後,雌1個体ではP_4値の動態から約2週間後に発情周期が回帰したが,別の1個体では分娩後約3か月間P_4値は基底値を維持し,その後の雄との同居直後に発情が回帰し受胎した。本研究により,アダックスの発情周期や卵巣活動の評価および妊娠診断や妊娠中のモニタリングに,糞中P_4含量の測定が有効であることが示された。
症例報告
  • 小川 秀治, 三浦 匡哉, 高橋 広志, 芝原 友幸, 門田 耕一
    2006 年 11 巻 1 号 p. 57-60
    発行日: 2006年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    25歳を超える年齢のハイイロペリカンに腺癌を認めた。大きな腫瘍が左側頭部に存在し,それにより硬膜,頭骨,皮下組織は置換され,左大脳半球は圧迫されていた。腫瘍病巣は脾臓,肺,肝臓にもみられた。組織学的に腫瘍細胞は腺管構造または充実性の胞巣構造をつくり,細胞学的には悪性にみえた。腫瘍細胞において,卵胞刺激ホルモン,黄体形成ホルモン,甲状腺刺激ホルモン,副腎皮質刺激ホルモン,αメラニン細胞刺激ホルモン,成長ホルモンの存在を免疫組織化学的に証明した。本症例は下垂体原発の腺癌と思われるが,逸所性の下垂体腫瘍の可能性を完全に否定することはできない。
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