野生のホンドタヌキおよびツキノワグマから分離したブドウ球菌の薬剤感受性および分子疫学的調査することによって環境評価を行った。2003年3月から2004年9月までに集められたホンドタヌキ26頭(野生21頭,動物園5頭)およびツキノワグマ35頭(野生21頭,クマ牧場10頭,動物園4頭)からブドウ球菌を分離した。材料の採取部位は,剖検を行った個体では口腔,鼻腔,耳垢および肛門とし,それ以外では糞便および耳垢,あるいは糞便のみとした。1)分離したブドウ球菌は,ホンドタヌキからはS. delphiniとS. xylosusが,ツキノワグマからはS. shleiferiが有意に多く分離された(p<0.05)。2)ブドウ球菌174株について7種類の抗菌剤で耐性を調べ,両動物ともに動物園動物は野生動物よりも有意に耐性菌保有率が高かった(p<0.05)。これらの野生動物間では,薬剤耐性保有率に有意差はなかった。3)ツキノワグマおよびホンドタヌキから多く分離されたS. aureus 16菌株およびS. sciuri 21菌株について,制限酵素SmaIを用いてパルスフィールド電気泳動法によりDNAバンドパターンを調べた結果,動物種による特有のバンドパターンは検出されなかった。近い地域に生息していたツキノワグマ2頭から同じバンドパターンを示したS. aureusが分離された。これらは同じ薬剤耐性パターンを示した。したがって,薬剤耐性ブドウ球菌はヒトの社会から野生動物へ伝播していることと野生動物間で伝播した可能性も示唆された。
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