日本野生動物医学会誌
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12 巻 , 1 号
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特集
  • 佐々木 基樹
    2007 年 12 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    動物の遺体は,さまざまな経路によって帯広畜産大学解剖学教室に集められ,そして研究や教育に用いられている。野生動物の遺体の収集は,A:死因不明の野生下死亡個体,B:交通事故個体,C:狩猟,有害鳥獣駆除,学術調査捕獲,混獲といった捕獲個体,そして,D:動物園や水族館から提供して頂く死亡飼育動物,が対象となる。これら野生動物の遺体から得られたデータや遺体から作製された標本は,野生動物医学の充実と多様な知識をもった獣医師育成のためにも獣医学教育に積極的に取り入れる必要性があると考える。また,動物遺体が社会教育,学校教育,そして研究へと幅広い用途において利用され,さらに,これら遺体が教育機関や研究機関の間で相互依存的に有用活用されていくことが望まれる。
  • 遠藤 秀紀
    2007 年 12 巻 1 号 p. 15-17
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    日本の獣医解剖学は形態を扱う科学としては機能していない。獣医学に属する形態学は,科学哲学におけるナチュラルヒストリーとは関連の無い細胞生物学・分子生物学から研究成果を集めているため,標本収蔵に関心をもつことはなくなっている。ここで,遺体科学の新しいコンセプトを提唱する必要があろう。遺体科学の営みは,遺体や標本の収集,解剖,恒久的収蔵からなり,獣医学の外の領域で,ナチュラルヒストリーにおける三次元デジタル形態学を強力に推し進めている。遺体科学の新しい理念は,野生動物医学の領域に実り多い研究成果をもたらし続けることだろう。
  • 柴田 康行, 堀口 敏宏, 田中 敦, 高澤 嘉一, 植弘 崇嗣, 廣田 正史, 吉兼 光葉
    2007 年 12 巻 1 号 p. 19-26
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    人間生活を守り野生生物の保護を行う目的で,人間活動に伴う環境の汚染状況を把握するため,生物濃縮を利用した様々な環境モニタリングが行われている。その際集めた生物試料を低温下で長期安定保存しておけば,採取当時は気づかなかった,あるいは当時の分析技術では測定できなかった化学物質や暴露指標の過去に遡った測定を実施でき,環境モニタリングの守備範囲を格段に拡げることができるものと期待される。本稿では,この環境試料長期保存事業(環境スペシメンバンク)の国内外の動向,ならびに国立環境研究所における経験とそれを発展させた現在の環境試料タイムカプセル化事業について,概要を説明する。
  • 松原 和衛, 西村 貴志, 出口 善隆, 山内 貴義, 青木 美樹子, 青井 俊樹, 辻本 恒徳, 平野 紀夫, 岡田 幸助
    2007 年 12 巻 1 号 p. 27-34
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,ニホンカモシカの個体群管理方法の開発と現状の把握である。岩手大学農学部附属寒冷フィールド教育研究センター滝沢演習林は,盛岡市郊外の孤立した森林である。1980年代には,8〜27頭のニホンカモシカが生息していたが,現在,新駅の建設などによって森林の周辺環境が変化している。したがって,ニホンカモシカの遺伝的背景と生息環境もまた変化していると思われる。本研究では,滝沢演習林に生息しているニホンカモシカの野生動物医学(血液型,DNA個体識別,寄生虫)と生態(生息頭数,食性,縄張りと行動)について研究した。その結果7頭を確認し,そのうちの1頭の捕獲に成功した。その1頭は,2歳まで母親と10haの縄張りで生活し,その後,母親の縄張りから2km離れたところで自分の縄張りを獲得した。盛岡市近郊に生息しているニホンカモシカの血清タンパク多型,特に血清アルブミンは2つの多型,およびトランスフェリンには6つの多型が観察された。糞から回収したDNAはPCRで増幅され,200〜300bpの範囲に,雌で1つのバンド(アメロゲニン遺伝子XX)と雄で3つのバンド(アメロゲニン遺伝子XY)が確認された。結局,この方法を使用した糞からの雌雄鑑別法の確率は95%であった。この方法は,ため糞を使用する雌雄鑑別法に効果的であることが示唆された。また,これらのニホンカモシカには多くの寄生虫が観察された。野生動物医学研究は,多くの研究者の協力によって続けなければならない。
  • 椎名 貴彦, 宮澤 誠司, Marwan DRAID, 志水 泰武, 武脇 義
    2007 年 12 巻 1 号 p. 35-39
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    地球環境の温暖化によって,野生動物の繁殖や冬眠行動が大きな影響を受けることは容易に想像できる。しかし,実際に冬眠がどのような環境条件に影響されているのかは不明である。そこで,本研究では,冬眠行動を誘発する環境条件について検討を行った。冬眠する齧歯目として知られているシリアンハムスターをモデルとして用いた。冬眠の誘発にとって,気温の低下と日照時間の短縮は最も重要な要因であると考えられる。そこで,ハムスターを恒暗・低温環境下で飼育したところ,冬眠に入った。一方,これらの条件に加えて,飼料としてヒマワリの種子や高脂肪食を充分に与えたのち,給餌制限を行った場合,自由摂食をさせた個体と比較して,短期間で冬眠状態に入ることが見いだされた。このことは,食物の量と組成も冬眠行動の誘発に深く関連することを示唆するものである。また,これまでの実験結果から,体重の大きい個体ほど冬眠に入りやすいことがわかった。このことは,体内に蓄積された脂肪細胞から分泌されるレプチンなどのホルモンが,冬眠行動と関連する可能性を示唆するものである。これらの結果から,冬眠は,環境温度や日照時間,そして食物といった外部環境の変化と関連することが示唆された。
  • 柳井 徳磨, Mohamed Abdel ABDELRAHMAN, 尾崎 文子, 浅野 玄, 井澗 美希, 溝口 俊夫, 大池 辰也, 酒井 ...
    2007 年 12 巻 1 号 p. 41-49
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    鉛中毒は,依然として,世界中の水鳥類において大きな問題となっている。今回,野外由来のハクチョウ類およびカモ類,さらに動物園で飼育されたペンギンについて臓器内の鉛含有量を測定し,一部については病理組織学的検索を行い,自然環境に及ぼす鉛の影響について考察した。福島および岐阜県で保護されたハクチョウ類合計21例,岐阜県内で捕獲されたカモ類合計100例(岐阜県と共同),動物園で飼育中に鉛中毒が疑われたペンギンの1例について,剖検を行って病理組織学的検索を行い,肝臓および腎臓(カモ類は肝臓のみ)を採取し,原子吸光光度法(標準添加法)を用いて,それぞれ鉛含有量を測定した。ハクチョウ類では,検索した21例中13例(福島および岐阜県由来)で肝臓および腎臓に10,000ng/g以上の鉛含有量がみられ,特に腎臓で高い値(>50,000ng/g)が認められた。カモ類では,検索した100例中3例の肝臓で500ng/gを超える鉛含有量が認められた。そのうち1例には,10,000ng/g以上の高い含有量がみられた。鉛中毒が疑われたペンギンの1例では,肝臓および腎臓で,それぞれ49,800および8,530ng/gの高い鉛含有量が認められた。胃内の金属片を分析したところ,96.3%の鉛含有が認められた。組織学的には,鉛中毒の形態学的特徴とされている腎尿細管上皮における好酸性核内封入体が認められた。以上,野生水鳥では高い鉛含有量を示し鉛中毒が疑われる例が散見されることから,野外では依然として鉛中毒が散発していると推測された。その原因としては,鉛散弾やつり用の鉛の誤飲が考えられた。飼育下のペンギンにおいても鉛中毒の発生する可能性が示された。今後とも自然界における継続的な鉛を含めた有害重金属のモニターが不可欠である。
原著
  • 浅田 正嗣, 手塚 雅文, 石川 創, 大隅 清治, 福井 豊
    2007 年 12 巻 1 号 p. 51-60
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    超微細構造の観察を行うことによって,卵母細胞の凍結保存や体外培養のための重要な知見が得られる。本研究では,透過型電子顕微鏡を使用して,クロミンククジラ卵母細胞の体外成熟の培養前後において,凍結前および凍結・融解後の超微細構造を観察した。成熟前の卵母細胞では,卵細胞質と卵丘細胞突起問に,また卵細胞質内のミトコンドリアや滑面小胞体を含む細胞内小器官の間に緊密な接着部が存在していた。ミトコンドリアや脂肪滴のような卵細胞質内小器官は細胞質の辺縁で塊状に分布していたが,小胞は細胞質の中心部に位置していた。体外成熟後の新鮮卵母細胞では,細胞質内小器官は細胞質内全体に分布し,ミトコンドリアの形態に変化が見られた。凍結・融解後の卵母細胞では,卵細胞質の変性が観察され,凍結・融解過程において卵細胞質の微細構造に大きな障害が生じたことが伺われた。
  • 岡野 司, 中村 幸子, 小松 武志, 村瀬 哲磨, 淺野 玄, 坪田 敏男
    2007 年 12 巻 1 号 p. 61-70
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    ニホンツキノワグマ(以下,ツキノワグマ)は交尾排卵動物であると推測されているので,人工授精および胚移植を行うには,排卵誘起が必要とされる。本研究の目的は,ツキノワグマにおいて,ウマおよびヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(eCGおよびhCG)を用いて,排卵を誘起する方法を確立することである。9頭の飼育下雌ツキノワグマを3頭ずつ,3グループ(A,BおよびC)に分け,交尾期の間,雄と隔離して飼育した。グループAの雌には,交尾期にhCG(50IU/kg)を筋肉内投与した。しかしながら,交尾期後にプロジェステロン値の上昇は認められず,これらの雌は排卵しなかつたと考えられた。グループBの雌には,交尾期にeCG(1,000IU/頭)およびその約80時間後にhCG(35IU/kg)を筋肉内投与した。この3頭のうち2頭の雌において,摘出した卵巣の観察により,比較的小型の黄体がhCG投与の約1か月後に認められ,これらの雌は排卵したと推測された。排卵が認められなかつた残りの1頭は,その年に出産したために排卵が誘起できなかったと推測された。対照群であるグループCの雌には,化学的処置は行わなかつた。8月下旬における卵巣の観察において,黄休は認められず,これらの雌は排卵しなかったと考えられた。結論として,ツキノワグマにおいて,hCGの単独投与では,排卵を誘起することはできず,eCGとhCGの併用投与により,排卵の誘起が可能であることが示唆された。
症例報告
  • 小川 明宏, 芝原 友幸, 市川 心一, 大橋 傳, 佐藤 重紀, 村上 覚史, 久保 正法
    2007 年 12 巻 1 号 p. 71-76
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    2003年7月に千葉県の動物園において,7歳2カ月齢の雄のトナカイが,数日間軟便を呈した後に急死した。剖検時,肝臓は暗褐色を呈していた。病理組織学的に,肝実質中に変性した好中球の浸潤を伴う小壊死巣が散見され,大量のヘモジデリンを含有するKupffer細胞が多数認められた。肝細胞の細胞質には多数の銅染色陽性顆粒と空胞が認められた。銅の含有量は,肝臓266.6ppm,腎臓21.7ppm,血液197.8μg/dlであり,健康なトナカイおよび羊に比べ明らかに高い値であった。これらの結果より本症例をトナカイの銅中毒と診断した。
  • Mi Htay Htay Yu, 山口 剛士, 宮野 典夫, 清水 博文, 村井 厚子, 柳井 徳磨, 柵木 利昭, 大屋 賢司, 福士 秀 ...
    2007 年 12 巻 1 号 p. 77-80
    発行日: 2007年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    市立大町山岳博物館で1985年に原因不明で死亡し,2005年まで冷凍保存されていた飼育ニホンライチョウ1羽の死亡原因を検索した。嘴の蝋膜に結節状病変を認め,禽痘ウイルス(APV)感染が疑われた。蝋膜病変部組織,肺および肝臓からPCRによりAPV特異的4b core遺伝子が検出された。増幅産物の塩基配列は,鶏痘ウイルス(FWPV)と100%一致した。FWPV病原株に特異的な細網内皮症ウイルスの配列も検出され,このライチョウがFWPV病原株の感染により死亡したことが推察された。
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