日本野生動物医学会誌
Online ISSN : 2185-744X
Print ISSN : 1342-6133
ISSN-L : 1342-6133
15 巻 , 1 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
特集論文
特集
  • 石川 創
    2010 年 15 巻 1 号 p. 1-3
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    動物福祉とは何かを一言で定義することは難しい。しかし,一般的には「人間が動物を所有や利用するにとを認めたうえで,その動物が受ける痛みや苦しみを最小限にすること」と解釈することができる。にの定義においては,動物を殺すことは否定しておらず,「殺す場合には可能な限り苦痛のない殺し方をするにと」と考える。動物福祉と類似するが異なる考え方として「動物の権利(Animal rights)」があるが,ここでは「すべての動物は平等であり(ヒトと)同等の生存権を持つ」と考え,適用の範囲は人や団体によってさまざまであるものの,基本的には動物を殺したり食べたりすることを認めていない。動物福祉の対象は産業動物(家畜),実験動物,伴侶動物および野生動物に大別される。動物福祉の指針としては,主に産業動物を対象にした「5つの自由」および実験動物を対象とした「3つのR」が知られているが,その概念は伴侶動物(ペット)や,人が関与し得る限りにおいて野生動物に対しても適用可能である。野生動物の動物福祉に関して,本学会では,「野生動物および動物園動物を対象とする研究活動(収集,飼育,実験を含む)において,対象動物のQOLを確保するための基本原則を定め,さらに自然保護,動物の福祉および適正利用を目指す。」と定め,研究対象とする動物のQOL(Quality of life)の確保に重点を置いている。
  • 淺野 玄
    2010 年 15 巻 1 号 p. 5-8
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    安楽死とは,苦痛がない,または苦痛が最小限の死である。わが国では動物愛護管理法で動物の人道的な殺処分に関する規定がなされているが,対象は家庭動物,展示動物,産業動物(畜産動物),実験動物などの人の飼養に関わる動物であり,野生動物の殺処分について定める法律は整備されていない。しかし,現実的には,被害軽減のための個体数調整,特定外来生物の防除,野生動物救護,調査・研究などにおいて,野生動物の殺処分が必要な場面は多い。野生動物の命を奪うにとの精神的ストレスや処分に対する社会的圧力に耐え,安楽殺処分に対する説明責任を果たすためには,動物への苦痛が最小限の方法を実施することが不可欠である。今後,野生動物の適切な安楽殺処分のためのガイドラインの整備や優れた人材の育成が望まれる。
  • 石川 創
    2010 年 15 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    野生動物の研究においては,致死的な捕獲を伴う研究が必要な場合がしばしばある。致死的な捕獲は,動物分類学,比較解剖学,疾病の評価,食物嗜好の研究,環境汚染物質の評価,その他多くの科学的必要性から行われる。現在行われている致死的な調査の対象種は,日本産哺乳類に限っても,小さなものはネズミ・モグラ類から大きなものはクマ,シカ,クジラ類までさまざまである。捕獲を伴う調査は,致死・非致死を問わず,通常は研究者が都道府県に申請して捕獲許可を得る必要がある(一部種類については環境大臣,農林水産大臣許可)。動物福祉の観点からは,致死的調査の計画作成にあたって,(1)標本から得られる科学データが過去の文献で得られる情報で代替できない,あるいは過去すでに採集され利用可能な標本が存在しないこと,(2)必要な情報が他の非致死的手法では得られないこと,(3)目的以外の種の捕獲可能性を最少にすること,(4)採集される標本の数,性別,年齢層などが目的の達成に適切であるにと,(5)捕獲によってその対象種,地域個体群,系統群などに影響を及ぼさないこと,(6)捕獲される標本は可能な限り早く殺されることなどが求められる。特に(6)に関しては,動物種に応じた野外における安楽殺法の選択が必要となる。野生動物の致死調査に関する動物福祉面の評価は,国内では法的根拠がないこともあり,研究者・研究機関によって対応に違いがある。今後客観的な評価を可能とするためには,国内の事情に応じたガイドラインの充実が必要である。
  • 福井 大祐
    2010 年 15 巻 1 号 p. 15-24
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    動物園内で「狭い檻に閉じ込められてストレス!」と聞こえてくる来園者の声。展示されている野生動物の多くは飼育下繁殖個体である。本当に生まれ育った環境によるストレスを受けているだろうか。一方,刺激のない単調な生活や不適切な栄養学的管理にさらされたり,予防可能な疾病に罹ったりした場合はどうか。動物福祉は,感情的に論議されるにとも多いが,日本野生動物医学会では科学的な評価を目指している。動物園では展示動物の肉体的かつ精神的な健康を保つため,「環境エンリッチメント」手法を活用し,動物の立場に立った飼育環境の向上努力を行っている。また,動物愛護的観点からは疑問に思えるかもしれない野生動物医学を応用した飼育管理,「予防医学」と「獣医学的健康管理」を実践している。例えば,ワクチン接種,麻酔を伴う健康診断や外科手術は動物にとって短期的にはストレス要因だが,結果として長生きさせ,種の保存に関わらせる。得られた科学的データは野生個体群の保全に役立つ貴重な情報にもなる。生活の質を維持できない動物の安楽殺技術も精錬させねばならない。さらに,家畜・ペット種とのふれあい体験や展示動物の死亡と死因の情報公開など動物福祉教育の場にもなる。生死を展示し,野生本来の行動生態を魅せ,同時に個体ごとに工夫した展示動物の福祉の実践は,野生動物の福祉,つまり生息環境の保全にも通じる。科学的な検証と評価基準の整備も必要である。
  • 横畑 泰志
    2010 年 15 巻 1 号 p. 25-29
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    学校教育の現場では,さまざまな形で野生動物を用いた教育活動が行われている。著者は大学の理学部などにおいて継続的にアカネズミの採集と剥製作り,頭骨計測と齢構成の分析を一連の過程として行う学生実験を行ってきた。また,小中学校などでも小型哺乳類の生体や標本,中・大型動物の骨格などを用いた教育活動を行ってきた。こうした教育の中での動物の致死的使用は,知識の伝授だけではなく,被教育者に死について少しでもリアルに考える場を与えるという重要な意義を持っているであろう。著者は実習の場で動物の安楽殺を学生の目の前で実施し,剥製も学生1人当たり1点ずつ作らせるようにしてきたが,それにより使用動物数の削減などが困難になる。大学においてこうした教育活動には動物実験委員会の了承が必要な場合があるが,著者はそのために教育の機会を制限されたことはない。著者はこうした教育の過程を研究活動にも関連づけ,各個体から得られるさまざまな機会を最大限に活用している。こうした動物の多面的な有効利用は,最終的に犠牲になる動物を減らすことにつながるため倫理的である。また,研究上の必要性や動物の生態を考慮して使用後の動物の放逐を行っていない。野生動物の教育使用の可否において最も重要な点は,関係者や社会全般に説明責任を果たせることであろう。
原著
  • 和田 新平, 倉田 修, 畑井 喜司雄, 山本 桂子, 高橋 亮太, 小林 利充
    2010 年 15 巻 1 号 p. 31-36
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    エイ類はその興味深い形態学的特徴と行動から日本国内の水族館で多く展示されている。しかしながら,大型となることと尾部背側に鋭い棘を有することから,彼らの飼育および健康管理には危険が伴う場合が多い。したがって,このような作業を実施するには鎮静・麻酔を施す必要がある。本研究はウシバナトビエイ(Rhinoptera javanica)に対する2-phenoxyethanolの鎮静および麻酔効果について検討することを目的とした。オキナワマリンリサーチセンターで飼育されていたウシバナトビエイ合計12尾を供試し,それぞれ200,400,600ppmとなるように濾過海水で希釈した2-phenoxyethanolに浸漬した。特徴的行動と呼吸回数を5分ごとに観察し,実験終了後には供試薬剤を含まない海水中に移して覚醒までの時間を計測した。それぞれの実験は高水温時および低水温時に2回ずつ実施した。結果より,2-phenoxyethanolを用いてウシバナトビエイを安全に鎮静・麻酔するには,高水温時および低水温時ともに400ppmが最適濃度であると判断された。
  • 釜谷 大輔, 石井 里恵, 今井 由美子, 橋本 渉, 河合 成直, 小田 伸一, 倉持 好, 岡田 幸助
    2010 年 15 巻 1 号 p. 37-44
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    仙台市八木山動物公園で飼育していた15歳の雌のグラントシマウマ(Equus burchelli bohmi)が軟便と食欲不振を呈し,治療により一時回復したが,その後再び食欲不振となり死亡した。病理解剖では結腸内に大きさ14×12×11cm,重量1,400gの球状の結石が認められ,結腸は破裂していた。また,子宮内には胎子が認められた。病理組織学的検査では胃と十二指腸における粘膜上皮の剥離,消失ならびに炎症細胞の浸潤が認められた。結石の割面は肉眼的に層状を呈し,車軸構造で硬・軟部位が存在する核の部分と均質な外殻の部分に大きく分けられた。それぞれの部位から材料を採取して,元素分析を実施したところ,マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),リン(P)はどの部位も高い数値を示した。部位別でみると,カリウム(K),Mg,Pは外殻の一番内側の層で最も高い割合を示し,その一方でナトリウム(Na),Ca,鉄(Fe),マンガン(Mn),亜鉛(Zn),銅(Cu)は核の最外層にある軟らかい部分で高い割合を示した。今回の症例では,15歳と高齢であったにとから腸結石は結腸糞便内の異物周囲に沈着しやすいリン酸Caやリン酸Mgなどの結晶が長期にわたって徐々に沈着して形成されたと考えられた。その結石が腸の管腔を部分的あるいは一時的に閉塞した結果,食欲減退,糞便の性状変化・減少,腹部膨満の臨床所見を呈したと考えられた。
症例報告
feedback
Top