日本野生動物医学会誌
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17 巻, 1 号
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特集論文
  • 豊嶋 省二
    2012 年 17 巻 1 号 p. 1-2
    発行日: 2012/03/30
    公開日: 2018/07/26
    ジャーナル フリー

     動物園獣医師の仕事といって真っ先にあげられるのは,動物園で飼育展示する動物がケガや病気になった際の治療行為=臨床業務である。飼育されてはいるが,動物園動物は外敵から身を守る本能を身につけた野生動物である。外的から襲われるおそれのない動物園動物だが,異常を隠す傾向が強く,病気であることを早期に発見することは難しい。それゆえに動物園動物の健康を守るためには,動物が病気になることを予防すること,動物が異常な状態になったこと(病気,ケガ)を早期に発見して治療することが大切となる。動物を病気から予防するためにワクチネーションや抗菌剤の予防的接種,飼育場所の衛生管理,動物の栄養管理なども行っている。動物園では,動物の移動に伴う外部からの病原体の侵入を防止するための取組みとして,外部から導入する全ての動物で自主的に検疫を行い,健康であると確認された動物が,飼育展示施設に移動し展示に供される。園内で死亡した飼育展示動物は全て病理解剖を実施し,死因を究明している。

  • 勝俣 悦子
    2012 年 17 巻 1 号 p. 3-4
    発行日: 2012/03/30
    公開日: 2018/07/26
    ジャーナル フリー

     日本における本格的なイルカ飼育は1957年に開始された。イルカ類を飼育する施設の増加によって,獣医師が水族館で働く機会も増加したが,その歴史はこの40年ほどと浅いが,そのほとんどで獣医師を常駐させており,人気のある職業の1つとなっている。講演では,北極海にすむ1頭のシロイルカの搬入から現在までの人との関わりを例として紹介した。搬入後の初期飼育では,「餌付け」,「人付け」,「環境付け」が重要で,飼育担当者による餌付けは活魚を使用し,次第に解凍した魚に切り替えられた。そして餌付けと同時に餌とホイッスルによる条件付けが開始された。トレーニングによって人との約束ごとが生まれ,環境にも慣れやすくなる。野生個体の搬入では,飼育環境に慣れるまで体調に変化が起きやすいので,少なくとも3年間は特にきめ細かい健康管理が必要である。23年目の現在ではイルカの能力を紹介する水中パフォーマンスで活躍するとともに,大学と共同研究では認知に関する実験に協力している。ベルーガの寿命は,歯による年齢査定によって約40年といわれていたが,近年の研究では80年まで生存する可能性が示唆された。現在25歳のナックは中年と思われていたが,まだまだ若者であるかも知れない。水族館で働く獣医師は「イルカ達がパフォーマンスで,研究で,繁殖で活躍できるようにアシストするシモベである」が持論である。

  • 和食 雄一
    2012 年 17 巻 1 号 p. 5-6
    発行日: 2012/03/30
    公開日: 2018/07/26
    ジャーナル フリー

     トキ(Nipponia nippon)は明治時代以降,乱獲や生息環境の悪化により生息数が激減し,1981年に日本の野生下から姿を消した。2003年には野生下から保護した最後の日本産の個体も死亡した。しかし,1999年に中国から1ペアのトキが贈呈され,この2羽を創始個体として佐渡トキ保護センターで繁殖,その後も中国から個体を導入しながら約200羽まで増加した。現在,多摩動物公園,いしかわ動物園,出雲市トキ分散飼育センターでも飼育しており,2008年以降,佐渡で野生下への再導入も開始している。希少野生動物の保護増殖施設で働く著者の仕事は飼育業務が大きなウエイトを占める。これには毎日の個体観察や給餌をはじめ,繁殖や野生復帰の訓練,放鳥も含まれる。獣医師としては診療や感染症の侵入防止のための衛生業務,解剖といった業務がある。トキは希少種であり,マスコミも注目している。その意味でプレッシャーが大きい仕事であるが,それ以上に1羽の命に対する責任を大きく感じる。誕生の瞬間から診療,死亡,そして解剖に至るまでその1羽の「生涯」全てをみることになるからである。著者は佐渡トキ保護センターから今年4月に新たに開設された長岡市トキ分散飼育センターに異動した。この施設では初めてトキを飼育する準備としてトキの近縁種を試験的に飼育し,ケージ環境や餌について検証してきた。10月11日にはトキが移送される予定である。

  • 加藤 千晴
    2012 年 17 巻 1 号 p. 7-8
    発行日: 2012/03/30
    公開日: 2018/07/26
    ジャーナル フリー

     神奈川県では,野生動物(鳥類および哺乳類)の救護業務を自然環境保全センターの他,横浜市立の3動物園,川崎市立動物公園,神奈川県下の各獣医師会にも委託して行っている。県内で救護される野生動物は,毎年2,000点(頭・羽)前後(全国の総救護点数の約15%),種数は約120種にのぼり,希少な種の救護例もある。救護原因の多くは,建造物などへの衝突,猫による被害,交通事故,誤認保護など,人間生活に深く関わっている。野生復帰率は約3割で,復帰後の生息状況を探るため,東京農業大学と共同で行ったタヌキの調査では,安定した環境に落ち着くまでに,復帰後約3か月を要することなどが明らかになった。神奈川県では,野生動物救護に多くの市民が関わっている。センターには約250名のボランティアが登録され,年間延活動人数は千数百人に達している。学校などでの環境教育,普及啓発活動なども活発で,これら活動の中核を「NPO法人野生動物救護の会」が担っている。これからの野生動物救護(「救護」ではなく,むしろ「復帰」)は,個体の救命に留まらず,市民に向けた普及啓発,救護技術の集積や向上,救護データの蓄積と分析,環境モニタリングへの活用から保全医学へ向けたアプローチなど,自然環境保全や生物多様性の保全に貢献できる取組みが,より一層求められている。それらの実現のためにも,市民,NGO・NPO,行政,大学,研究機関などの連携が,一層欠かせないものになってくると考えられる。

原著論文
  • 尾形 光昭, 海老原 希予, 伊藤 咲良
    原稿種別: 原著論文「英文」
    専門分野: 動物遺伝学
    2012 年 17 巻 1 号 p. 9-12
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/23
    ジャーナル フリー
    よこはま動物園には,繁殖行動などにより父親推定が困難なアカカンガルーが7頭飼育されている。それらの父親候補は歴代の優位雄2頭のいずれかである。これら7頭の父親を明らかにするために,マイクロサテライトDNA多型に基づく父子鑑定を行った。その結果,7頭の父親を推定することができた。このことから,マイクロサテライトDNAを用いた父子鑑定は,繁殖行動などのデータが不足している場合には,飼育下カンガルーの父系推定法として有効であることが示唆された。
  • 中川 拓也, 井上 さゆり, 横畑 泰志, 佐々木 浩, 青井 俊樹, 織田 銑一
    原稿種別: 原著論文「英文」
    専門分野: 寄生虫学
    2012 年 17 巻 1 号 p. 13-20
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/23
    ジャーナル フリー
    日本の中央部および西部で1982~2002年に収集された70頭のニホンイタチ(Mustela itatsi)および12頭のタイリクイタチ(M. sibirica)の寄生蠕虫類を調査した。吸虫1種(浅田棘口吸虫Isthmiophora hortensis(Asada, 1926)),線虫3種(日本顎口虫Gnathostoma nipponicum Yamaguti, 1941,Sobolyphyme baturini Petrow, 1930および腎虫 Dioctophyme renale(Goeze 1782))がそれぞれ岐阜および愛知県,兵庫県,石川および福井県および京都府,兵庫県産のニホンイタチから得られた。 鉤頭虫の1種,イタチ鉤頭虫 Centrorhynchus itatsinis Fukui, 1929が東京都および静岡,石川,福井,岐阜,三重,滋賀および鹿児島の各県産のニホンイタチおよび三重および滋賀県産のタイリクイタチから検出された。今回のS. baturiniの検出は,本種のニホンイタチからの,また中部および西日本からの初記録となった。他の種については新しい産地の報告となった。
総説
研究短報
  • 伊藤 寛恵, 吉野 智生, 遠藤 大二, 藤巻 裕蔵, 中村 茂, 中田 達哉, 長 雄一, 浅川 満彦
    原稿種別: 研究短報「英文」
    専門分野: 寄生虫学
    2012 年 17 巻 1 号 p. 21-25
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/23
    ジャーナル フリー
    1995年から2009年の間に北海道内およびロシアで採集されたエゾライチョウ18個体の寄生蠕虫類保有状況を調査した。なお,北海道個体群では初めての調査となる。調べた9個体から線虫3種(Heterakis gallinarum, Aonchotheca (Avesaonchotheca) caudinflata, Subuluridae gen. sp.)および吸虫1種(Leucochliridium sp.)が検出された。スブルラ科線虫の寄生がこの鳥種で認められたのは今回初めてであった。また,検出された線虫類はミミズ類,吸虫類はモノアラガイ類がそれぞれ中間宿主であるため,これらを摂食することで感染したと考えられた。
技術短報
症例報告
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