日本野生動物医学会誌
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18 巻 , 3 号
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特集論文
  • 吉川 泰弘
    2013 年 18 巻 3 号 p. 75-82
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー

    国連の機関である国際保健機関(WHO),国連の食糧農業機関(FAO),やユニセフ(UNICEF)および国際獣疫事務局(OIE),世界銀行(WB)などが一堂に会して議論した結果が2004年に野生動物保護協会(WCS: Wildlife Conservation Society)からマンハッタン原則として提示された。この原則のキーワードが「One World, One Health」である。この原則では,以下のような認識を基本概念においている。すなわち「近年のウエストナイル熱,エボラ出血熱,SARS,サル痘,BSE,鳥インフルエンザの流行は人と動物の健康が密接に関連していることを想起させる。したがって,人,家畜,野生動物の健康(One Health)を追求する統合的アプローチが必要である。また,種の絶滅,生息域の劣化,汚染,外来種の侵入,温暖化などは地球の原生自然を根本から変えつつある。新興・再興感染症は人(食糧供給,経済活動を含む)のみならず世界の基底を支える生物多様性においても脅威となる。我々は1つの世界に生きている(One World) 。21世紀に感染症を克服するには,より広範な環境の保全活動と同時に,疾病の予防,サーベイランス,モニタリング,管理などに関して分野を超え,融合したアプローチが必要である」と述べている。WCSは,具体的な12項目のアクションプランを提示している。このシンポジウムでは,野生動物に由来するズーノーシス,野生動物と家畜の間で行き来する感染症,野生動物自身の感染症について議論する。我々は医獣連携を感染症統御の基本と認識している。国際的には,種々のプロジェクトがOne World One Health, One Medicine, Conservation MedicineあるいはOne Health Initiativeという名前で進行している。名称は異なるが基本的コンセプトは類似している。本シンポジウムでは国内におけるこのような概念の具現化を図るために進められている研究の実例を紹介する。また,海外における中核研究所,中核機関(OIE)の戦略などを紹介し,日本におけるこれからの展望について議論を行う考えである。

  • 髙井 伸二, 門平 睦代, 青木 博史, 村田 浩一, 前田 健, 小野 文子, 山本 茂貴
    2013 年 18 巻 3 号 p. 83-86
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー

    「野生鳥獣由来食肉の安全性確保」のために,野生動物の生態学者,各野生動物の専門家,行政経験者,疫学者,疾病診断の専門家を組織とし,現地調査やアンケート調査を通じて「野生鳥獣由来食肉」に関する全体像を把握し,さらに行政のネットワークを利用して野生動物の採材,病原体保有状況の調査,疫学的背景に基づく科学的な野生動物由来肉のリスク評価を行い,「安全性確保のためのガイドライン」を作成し,適正なリスク管理措置を提言することを目的として,本研究を展開している。実態調査を主目的として,7つの項目「野生動物サーベイランス方法の開発と行政調査および野生動物捕獲利用に関する調査研究(門平睦代)」,「シカの生態と捕獲に関する調査研究(青木博史)」,「野生鳥類の生態と捕獲利用に関する調査(村田浩一)」,「イノシシの生態と捕獲利用に関する調査(前田 健)」,「野生動物の病原体診断および抗体測定法の開発(小野文子)」,「食中毒,食品由来感染症に関する調査(山本茂貴)」,「野生鳥獣由来肉に関する基礎データ収集と解析(東レリサーチ)」について事業を展開しているので,本シンポジウムでは,初年度成績を含めて概要をご紹介する。

  • 村田 浩一
    2013 年 18 巻 3 号 p. 87-91
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー

    近年,野生動物と家畜と人の間で感染症が流行し,国際的に社会問題化している。野生動物と家畜との間を行き来する感染症を監視し制御するためには,監視すべき野生動物感染症の明確化,監視体制の構築,そして国際基準に応じた感染症対策が求められる。これらの目的を達成するには,地道で科学的なアプローチが重要となる。

  • 門平 睦代
    2013 年 18 巻 3 号 p. 93-97
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー

    2010年2月から2013年1月までの約3年間,年1回か2回の頻度で,欧米など世界の主要な野生動物疾病センターを訪問し,各国がどのように野生動物の疾病に対応しているのか,法的な処置や実際のサーベイランス体制を中心に聞取り調査を行った。研究センターは,政府獣医疾病研究機関(米国,英国,フランス,スウェーデン)か大学(カナダ,オランダ,スイス,スペイン)に設置されていた。通常,1大学1センターであるが,カナダ協同野生動物ヘルスセンターだけは,サスカトゥーン大学獣医学部内に本部事務所を設置し,広大なカナダの国土を網羅する目的で他の4つの獣医系大学も含めて,計5大学に地域センターをもつ。一方,米国国立野生動物ヘルスセンターは獣医サービスではなく,内務省内にある地質調査局に属している。また,国家間で連携体制がとれているのは,欧州野生動物疾病協会だけである。

原著論文
  • 横畑 泰志, 北村 恵里, 鈴木 正嗣
    2013 年 18 巻 3 号 p. 99-105
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2013/12/12
    ジャーナル フリー
    北海道足寄町産ニホンジカCervus nippon の第4 胃内に寄生する線虫, Spiculopteragia houdemeriの雄における2型,ʻʻmorph houdemeriʼʼおよび ʻʻmorph andreevaeʼʼ の寄生虫体数と,宿主個体の因子(性,齢,体重)などとの関連を一般化線形モデルで分析し,AIC(赤池情報量基準)により最適モデルを選択した。ʻʻmorph houdemeriʼʼの虫体数に対して多くの因子の主効果,交互作用効果が有意に作用していた。主効果において,この線虫の虫体数は雄宿主で有意に少なく,宿主の生息地選択の性差が関係している可能性があるとともに,有意な齢差がみられ,1 歳子の宿主で他の齢群よりも少なく,当歳子での母子感染や,2 歳以上の成獣での体サイズの増大のような増加要因を欠くためと考えられた。他には宿主の体重,ʻʻmorph andreevaeʼʼの寄生の有無の主効果が有意に影響していた。ʻʻmorph andreevaeʼʼの虫体数は ʻʻmorph houdemeriʼʼの虫体数が多いほど多く,他には宿主の齢のみが有意に作用していた。優占しているʻʻmorph houdemeriʼʼの虫体数には宿主個体などの多様な因子が作用し,劣位なʻʻmorph andreevaeʼʼの虫体数には作用する因子が少なく,ʻʻmorph houdemeriʼʼの虫体数などが作用していた。いくつかの交互作用効果は解釈が難しく,今後は虫体数の季節的動態などに関する新たな因子を加えた分析が望まれる。
  • 竹中 亜紗実, 柏木 伸幸, 前園 優子, 中尾 建子, 上野 友香, 柿添 裕香, 木下 こづえ, 楠 比呂志, 星 信彦
    2013 年 18 巻 3 号 p. 107-114
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2013/12/12
    ジャーナル フリー
    本論文では,バンドウイルカ精液の一般性状を検査し,液状保存精液の比較を行った。精液は5 頭の雄から採取し,pH,精液量,精子濃度,総精子数,運動性,生存率および形態異常率を検査した。精液はBiladyl,EYC またはBF5F を用いて液状保存を行い,運動性および生存率を連日検査した。 新鮮精液一般性状において,精液量を除いて分画差はなかった。しかしながら,精子濃度と生存率との間に負の相関がみられた(r=-0.539, p<0.01)。十分に性成熟した雄または同一施設内で飼育されている高い妊孕歴をもつ雄は,精子濃度が高く,生存率は低かった。季節差はみられなかった。 運動性は,EYC およびBF5F で希釈した精液において2 日間保存された(p<0.05)。生存率は全ての希釈液において7 日間を通じて高い値を示した。加えて,精漿除去精子では,運動性は液状保存後から低下した(p<0.05)。これらの結果から,1)生存率は年齢または妊孕歴(社会的順位)に影響されること,2)飼育下バンドウイルカの精液は周年を通じて採取が可能であること,3)EYC およびBF5F がバンドウイルカ精液の短期保存に有用であること,4)精漿成分がバンドウイルカ精液の液状保存に有用であることが示唆された。
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