2018年4月から2019年3月までの間,北海道東部において,ハシブトガラス,ハシボソガラスが利用するねぐら,就塒前集合場所における落下糞及びペリットを用いて,サルモネラ感染状況と食性の季節変化を調査した。落下糞1158検体を用いた培養検査により,25検体(2.2%)からサルモネラが検出され,血清型はAgona,Braenderup,Derby,Kentucky,Muenster,O4:i:-およびTyphimuriumであった。Kentucky3株およびO4:i:-1株が複数の抗生物質に耐性を示した。ねぐらにおけるサルモネラ検出率は,4~6月(0/246,0.0%)より9~11月(8/300,2.7%)が高く,カラスにおけるサルモネラ保有状況に季節変化があることが示唆された。これは,免疫機能が幼弱で易感染性と思われる当歳個体が初夏に巣立ち,7月以降にねぐらに参加し始めたことが影響したと考えられた。また,9~11月に検出されたAgona13株のパルスフィールドゲル電気泳動パターンは全て同一であり,特定の株が今回調査したカラス群内で感染を拡大させていた可能性が示された。ペリットを用いた食性解析の結果,全ての季節で家畜飼料の摂食が認められたことから,年間を通じてカラスが畜産環境に侵入し,畜産農場間のサルモネラ伝播に関与しうることが示唆された。
イヌワシの一亜種であるニホンイヌワシ(Aquila chrysaetos japonica)は,個体数と繁殖状況の現状調査に基づいて,環境省版レッドリストの絶滅危惧種に指定されている。現在,国による保全活動が行われているものの,個体数減少の原因とその改善方法に関する知見は,十分とはいえない。この数十年の間に,日本を含む世界各地において,イヌワシの種の回復に関する多分野にわたる科学的な研究が行われ,本種の保全計画に必要な情報が集められつつある。しかしながら,これらの研究は個別に進められており,学際的なアプローチが充分になされていない。本稿では,生態学,遺伝学,獣医学的健康管理,生息地管理などの,ニホンイヌワシの保全に関する諸研究を総合して概観した。野生および飼育下個体群の現状と傾向を分析し,現在および将来の保全管理の活動を報告し,ニホンイヌワシの生息域内保全および生息域外保全に向けた対策について,統合的な見地から議論した。この総説では,イヌワシの生物学や健康科学に関する国内および海外の専門家グループが,学術的な情報と実用的な解決策の両方を提示した。本稿によって,ニホンイヌワシの数の減少をくいとめるのに必要な情報と技術を提供し,日本における長期的な本種の保全に応用するための枠組みを示すことを目指す。
飼育下キタオットセイのオスにおける糞中テストステロン代謝物濃度と血清中テストステロン濃度との関係を検証した。採血の約1日後に採取した糞を試料とした糞中テストステロン代謝物濃度は,血清中濃度とにおいて有意な傾向があった。糞中テストステロン代謝物濃度は,繁殖期に増加した。以上より,キタオットセイの糞中テストステロン代謝物濃度から血清中濃度の推定が可能となった。
動物展示施設で飼育されていたボールニシキヘビPython regiusが流涎および上顎の腫脹を呈し,その後死亡した。肉眼所見では,下顎,上顎,頸部の皮下,および肝臓の漿膜面に腫瘤が認められた。病理組織学的には全身性の肉芽腫性炎と診断され,細菌学的には腎臓組織,上顎および下顎の腫瘤からそれぞれMycobacterium gordonae,Mycobacteroides chelonae,Mycobacterium genavenseが分離・同定され,複数の非結核性抗酸菌による播種性感染症と診断された。