福島第一原子力発電所の事故で放出された放射性物質による環境影響を評価する一環で,アカネズミの寄生虫相の時間的変化を評価した。事故前後に捕獲した合計30匹のアカネズミから寄生虫の分離を試み,5種の寄生虫を得た。線虫1種は事故前,条虫1種は事故後にのみ確認された。これは,事故による環境変化が待機宿主,中間宿主の個体数に影響を与えたことによる現象かもしれない。形態観察の結果,奇形は観察されなかった。
ツキノワグマにおいて,年輪構造の観察による年齢査定に選択すべき歯を検討する目的で,飼育下にある0歳のツキノワグマ(Ursus thibetanus japonicus)9頭を対象に,永久歯の萌出時期を観察した。その結果,歯の種類によって生え換わりの時期が異なることが明らかになった。最も早く萌出した永久歯は下顎第一前臼歯であった。最も遅く2月に萌出した犬歯を最後に,飼育下のツキノワグマでは生後約1年間ですべての永久歯が萌出することが確認された。これにより,生体からの年齢査定を目的とした抜歯には,最初の年輪(暗層)に先立って形成される明層が広く判読が容易な下顎第一前臼歯を第一選択肢とすべきであることが示唆された。
ゴマフアザラシ(Phoca largha),24歳齢,雌が慢性の吐出,嘔吐,食欲不振を示した。ミダゾラムとブトルファノールによる鎮静下で造影CT検査を行ったところ,食道と肝臓およびその周囲に多発する腫瘤が認められ,剖検と病理組織検査により,肝臓と膵臓への転移を伴う食道原発の扁平上皮癌(SCC)と診断した。鰭脚類の造影CT検査の報告は少なく,本症例は食道SCCの生前診断につなげるための貴重な報告である。
台湾の金門島に生息するユーラシアカワウソ(Lutra lutra chinensis以下,カワウソ)は,比較的長期間にわたり人為的影響を受けなかったことや豊富な人為的水環境の存在により幸運にも絶滅を免れてきた。2018年の糞便痕跡および赤外線カメラの映像に基づく調査から過去の文献同様金門島の西南部はカワウソの利用率が顕著に低いことが判明したが,その他の各エリアの利用頻度について論じるためにはより長期的なデータが必要である。さらに,2017年から2年間実施した赤外線カメラ映像に基づく行動観察から,繁殖や捕食に関する行動に加え,カワウソの人工物利用状況についても明らかになった。またカワウソに脅威を与える存在である野良猫および野良犬については未だ多くがカワウソの生息域内を行動していることが判明した。現在カワウソは台湾内の法律においても厳重に保護されており,人為的影響を殆ど受けることはない。また調査に加え様々な保全の取り組みも行われているが,その保全活動は地元自治体に委ねられており,常に楽観視することができない状態である。地元住民からは経済発展を望む声も多く聞かれ,食害も発生しているため,今後長期的に保全活動を持続するためには地域還元型のカワウソ保全システムを確立する必要がある。そして,将来的な日本の対馬におけるカワウソ保全においては,諸外国の同種の保全活動と課題を参考にし,より効果的な取り組みを行っていくことが肝要である。