日本野生動物医学会誌
Online ISSN : 2185-744X
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26 巻, 2 号
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原著論文
  • 岩本 杏, 岡崎 弘幸, 山本 俊昭, 嶌本 樹
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 26 巻 2 号 p. 27-33
    発行日: 2021/06/14
    公開日: 2021/08/14
    ジャーナル フリー

     東京都に所在する高尾山薬王院は,登山者に加え多くのムササビ観察者が訪れる。そのため,日中の登山や日没後のムササビ観察といった人の活動がムササビにストレスを与える可能性が懸念されている。慢性的なストレスが生じると繁殖や免疫系に悪影響を与え,適応度の低下につながる可能性があるため,これら人の活動がムササビにどの程度影響を与えているのかを定量的に評価することが重要である。そこで本研究は,高尾山薬王院での人の活動がムササビにもたらす影響を糞中コルチゾール代謝産物測定によって検証した。人の活動が多い高尾山薬王院と人の活動が少ない青梅市のA神社においてムササビの糞を採取し,糞中コルチゾール代謝産物濃度を比較した。また,休日の利用者の増加が高尾山薬王院のムササビにより高いストレスを与えている可能性を考え,高尾山薬王院とA神社のゴールデンウィーク前後の糞中コルチゾール代謝産物濃度を比較した。統計解析の結果,高尾山薬王院とA神社のムササビの糞中コルチゾール代謝産物濃度に有意な違いはみられなかった。さらに,両調査地においてゴールデンウィークの後に糞中コルチゾール代謝産物濃度の有意な上昇がみられたが,調査地間で上昇傾向に違いが見られなかったため,休日の高尾山薬王院で特にストレスが増大したわけではなかった。以上の結果から,高尾山薬王院のムササビは人の活動により,大きなストレスを受けていないことが示唆された。しかし,ストレスに強く関与する繁殖などの他要因との関係が不明なことに加え,解析手法にも課題が残っているため,これらの課題に取り組み,本研究結果の確実性を高めることが重要である。

  • 松平 一成, 前田 洋一, 幣原 奈央子, 石田 貴文
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 26 巻 2 号 p. 35-42
    発行日: 2021/06/14
    公開日: 2021/08/14
    ジャーナル フリー

    東南アジアとその周辺に生息するテナガザルは,およそ20に及ぶ多くの種に分類されている。日本の動物園・研究機関で飼育されているテナガザルは,公益社団法人日本動物園水族館協会のテナガザル国内血統登録台帳に登録されているが,過去の外見のみに基づく種判定の曖昧さや,近年の分類体系の大きな変更に伴い,種登録情報の更新が待たれていた。本研究は,客観的に評価が可能な遺伝情報を用いて種を同定し,登録情報の更新を行うことを目的とした。具体的には,153個体を対象にミトコンドリアDNAのcytochrome b遺伝子の配列(1,140塩基対)を決定し,テナガザル各種の参照配列との類似度に基づき,種を判定した。また,配列決定ができなかった14個体については,上記153個体との血縁関係などから,種を判定した。その結果,特にボルネオ島・スマトラ島に生息するHylobates属の個体の種の登録情報に更新が行われた。また,Hylobates属の4個体については,参照配列に類似の配列がなく,他の遺伝マーカーの利用の必要性が示唆された。登録情報の更新に従い,フクロテナガザル,シロテテナガザル,ボウシテナガザルの飼育個体群は今後も維持が可能である一方,その他の種は,個体数が少なく,個体群を維持していくことが困難であると示唆された。更新された登録情報が,今後の飼育管理・繁殖計画に利用されていくことが期待される。

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症例報告
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