日本野生動物医学会誌
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29 巻, 2 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
特集論文
  • 川瀬 啓祐
    2024 年29 巻2 号 p. 25
    発行日: 2024/09/20
    公開日: 2024/11/20
    ジャーナル フリー
    自由集会「研究する動物園15」は2023年9月23日(土),第29回日本野生動物医学会大会(鹿児島大学)で開催された。「研究する動物園」はこれまで14回にわたり,動物園や水族館自身が取組んできた研究や,動物園・水族館の動物を対象に研究をおこなってきた研究者の方々の研究に焦点をあて,それらの研究内容をご紹介してきた。今回の「研究する動物園15」では,霊長類の臨床・研究に精通している先生方に,これまでの取組みについてご紹介頂いた。
     本特集は,各演者がその講演内容をまとめたものである。本特集が,動物園・水族館,および霊長類の飼育施設における臨床・研究活動の参考となり,今後の霊長類の臨床・研究活動がより活発化することを願う。なお,特集論文の題名と執筆者は下記のとおりである。
    1.「霊長類における性ホルモンおよびGnRHコントロールによる繁殖・闘争抑制の取り組み」
      對馬隆介(宇部市ときわ動物園)
    2.「すべては飼育下コモンマーモセットのQOL 向上のために-現場での気づきと悩みと願望を突き詰める-」
      三輪美樹(京都大学ヒト行動進化研究センター)
    3.「サル類臨床あれこれ~サルの病気と向き合って間もなく20年,それでもまだまだ悩んでいます~」
      兼子明久(京都大学ヒト行動進化研究センター)
  • 對馬 隆介
    2024 年29 巻2 号 p. 27-37
    発行日: 2024/09/20
    公開日: 2024/11/20
    ジャーナル フリー
    霊長類を飼育管理する際,希少種の生息域外保全および飼育下個体群の維持のために繁殖が重要である一方,限られ た飼育スペースおよび血統管理のための繁殖制限が必要な場合が少なくない。動物園における繁殖制限の手段として, 雌雄分離や外科的な去勢・避妊が挙げられる。しかし,霊長類においては,雌雄分離飼育は専有面積の狭小化による闘 争頻度の増加や単独飼育によるストレス増加の可能性があり,また外科的手法は高侵襲的かつ非可逆的であるために, 動物福祉の観点から問題となることがある。そのため,可逆的繁殖制限法として雌に合成プロジェステロン徐放剤の投 与を行い,疑似的な妊娠状態にする方法が行われてきたが,国内でのインプラント剤の販売中止や,プロジェステロン への長期的感作により生殖器疾患を誘発する可能性もあることから,新たな方法が必要となっている。近年,欧米の動 物園・水族館を中心に性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)コントロールによる繁殖および闘争抑制の試みが進め られている。しかし霊長類のみならず,動物種ごとの用法・用量については不明な点が多い。そこで,繁殖および闘争 抑制が必要な飼育動物にGnRH ワクチンおよびGnRH 作動薬を投与し,GnRH コントロールによる繁殖および闘争抑制 効果の検証を行っている。得られた情報をもとに動物種ごとの用法用量および効果を検証するとともに,複数園館で情 報を共有して,データベース化を進めている。
  • 三輪 美樹
    2024 年29 巻2 号 p. 39-45
    発行日: 2024/09/20
    公開日: 2024/11/20
    ジャーナル フリー
    近年,医科学および生命科学領域でコモンマーモセットCallithrix jacchus を用いる研究が増加してきている。しかし ながら,その飼育管理方法は未だ十分に確立されていないため,飼育現場では様々な問題が生じてくる。本稿では,こ れまで筆者が実験動物としてコモンマーモセットを飼育管理してきた中で,それらの問題点に気付き,悩み,解決のた めに取り組んだ結果,論文報告・学会発表・研究資金獲得につながった事例の一部を紹介する。これらは全て飼育下コ モンマーモセットの生活の質(QOL:Quality of life)を向上させたい一心で実施してきた。日常の飼育管理業務から研 究活動につながった例として参考になれば幸いである。
  • 兼子 明久
    2024 年29 巻2 号 p. 47-55
    発行日: 2024/09/20
    公開日: 2024/11/20
    ジャーナル フリー
    サル類は日本全国の動物園で飼育されている他,実験動物として様々な研究機関でも飼育されている動物である。サ ル類も他の動物と同様,様々な疾病に罹患する。しかし,疾病の治療や臨床検査などに関する知見や参考にする成書は 多くない。また,人獣共通感染症にも配慮した扱いが必要であり,臨床検査などの一般的な検査であっても麻酔が必要 になるなど慎重にならざるを得ないケースがある。そのため,経験を積んでいないと,躊躇することにより,見過ごし てしまう・対応が遅れてしまう疾患もある。本稿では,筆者が京都大学ヒト行動進化研究センターで約20 年間積んで きた臨床経験から『サル類の疾病』『健康診断』『チーム医療』『臨床と研究』という視点でサル類の臨床をあれこれと 述べていく。皆様のサル類の臨床や研究活動への一助になれば幸いである。
原著論文
  • 岡野 司, 石庭 寛子, 玉置 雅紀, 大沼 学
    2024 年29 巻2 号 p. 57-66
    発行日: 2024/09/20
    公開日: 2024/11/20
    ジャーナル フリー
    アカネズミ(Apodemus speciosus)は季節繁殖動物であり,その精子形成活性は年間を通して変化する。一部の哺乳類では, 精巣の退縮は雄性生殖細胞のアポトーシスの増加に起因することが知られている。しかしながら,季節繁殖動物の精子形成期を厳 密に分類して,アポトーシスと季節性の精巣退縮との関連を調査した研究はこれまでにない。そこで筆者らは,本種における雄性 生殖細胞アポトーシスと経時的精巣制御並びに活性化及び退縮の概年周期との関係をTUNEL 染色法を用いて免疫組織化学的に調 べた。さらに,精巣重量及び精子形成の組織学的観察結果を用いて,精子形成活性を9 期(pre-increase,early-increasing,midincreasing, late-increasing,peak,early-decreasing,mid-decreasing,late-decreasing 及びpost-decreasing)に分類し,精細管と 精巣上体の形態学的経時変化を調べた。その結果,生殖細胞アポトーシスの割合はpeak 期付近で低値を示したが,pre-increase, mid-decreasing,late-decreasing 及びpost-decreasing 期で高値を示した。Early increasing 及びmid-increasing 期においても比較 的多くのアポトーシス細胞が観察された。Mid-decreasing 期を除くすべての期間において,アポトーシス生殖細胞の主要なタイ プは精母細胞であった。アポトーシスが細胞消失の主要な原因であり,生細胞の落屑が精巣退縮を加速させると考えられる。本研 究における精細管と精巣上体の組織学的記述は,本種における将来的な精巣の組織学的評価の一助となり,また,他種においても 比較のためのガイドラインとなるだろう。
  • 安原 伶香, 木戸 伸英, 安齋 寛, 炭山 大輔
    2024 年29 巻2 号 p. 67-74
    発行日: 2024/09/20
    公開日: 2024/11/20
    ジャーナル フリー
    Eimeria 属はアピコンプレックス門(Apicomplexa)に属しコクシジウム症を引き起こす寄生性の原生生物の一属である。家畜 や家禽での研究報告が多いが,野生動物や動物園飼育動物のEimeria 属に関する報告も多数ある。ニホンカモシカ(Capricornis crispus)は偶蹄目の一種であり,国の特別天然記念物に指定されている。ニホンカモシカのEimeria 属に関する研究は,形態学的 特徴が報告されているが,遺伝的系統に関する報告はまだない。そこで,本研究では,動物園で飼育されるニホンカモシカにおけ るコクシジウムの形態,遺伝的系統を明らかにすることを目的とした。2021 年及び2022 年に対象の動物園で飼育されているニ ホンカモシカから採取された糞便を用いた。方法は顕微鏡による直接観察法での検出と形態観察,PCR による分子系統解析を行っ た。形態観察の結果71.4%(5/7)からEimeria 属のオーシストが確認された。遺伝子解析の結果,偶蹄目に寄生するコクシジウ ムと同じグループを形成し,98% 以上の高い相同性があることが分かった。また,ニホンカモシカに寄生するEimeria 属は他偶蹄 目に寄生するEimeria 属とは異なる種であることが示唆された。さらなる遺伝的系統を明らかにし,カモシカに寄生するEimeria 属の種同定に役立てられることを期待したい。
研究短報
症例報告
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