環境省対馬野生生物保護センターにおける過去の収容記録をもとに,絶滅が危惧されるツシマヤマネコの肢くくり罠による錯誤捕獲の特徴について調査した。調査には,ツシマヤマネコモニタリング用の自動撮影カメラによるデータも活用した。肢くくり罠による錯誤捕獲及び疑わしい事例は2017年より16件を認め, 2022年と2023年にはツシマヤマネコの主要な減少要因とされる交通事故件数を上回った。うち14件は雄の成獣であった。ツシマヤマネコが罠にかかりやすい冬~春の時期と野外でのツシマヤマネコの撮影頻度が増加する時期に重複を認めた。交尾期における活動性増加と肢くくり罠による錯誤捕獲の発生時期に関連性があると推察され,この時期の保全対策がツシマヤマネコの錯誤捕獲減少に有効であると考えられた。また,罠にかかったツシマヤマネコでは中等度以上の傷を負いやすく,罠からの解放後も患部や全身状態が悪化するため,すぐに野生に戻すのは危険である。そのため,肢くくり罠にかかったツシマヤマネコの生存率を上げるためには,締付け防止金具の適切な使用,こまめな見回りの実施,安易な放獣の禁止,及び罠にかかったツシマヤマネコを発見した場合の通報といったツシマヤマネコの錯誤捕獲の防止,及び錯誤捕獲個体の取り扱いのためのルールを狩猟者・捕獲従事者に徹底してもらうことが欠かせない。
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