日本野生動物医学会誌
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4 巻 , 1 号
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特集
  • ロック L.N., トーマス N.J., ドアティー D., メティヤー C.
    1999 年 4 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 1999年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
    1970年以来, 野生動物保護管理において野生生物獣医師が果たすべき役割に対する認識が, 国や州のレベルで高まってきた。その役割には, 疾病の診断や制御, 法医学病理, 絶滅危惧種の増殖と臨床ケア, 野生生物の移植(translocation)がある。渡り鳥や絶滅危惧種の管理, および数種の海洋哺乳類の主要担当機関である米国内務省魚類・野生生物局(FWS)は, 1975年に米国野生生物保健研究センター(NWHC)を設立した。このセンターでは, (1)FWSの野外調査員による診断補助, (2)特定の野生生物疾病に関する研究, (3)FWS野外調査員に対する野生生物疾病の診断と制御の教育を行っている。診断に関しては, 家禽コレラ(avian cholera), C型ボツリヌス中毒, 水鳥の鉛中毒の鑑別, ウ類のニューカッスル病, 鉛中毒の鑑別, 殺虫剤中毒, ハクトウワシとイヌワシの死因, ラッコやオオカミ, キットギツネ, アメリカシロヅルの死因に関する調査を行っている。メリーランド州ローレルのバテューシェント野生生物研究センターでは, 野生生物獣医師が渡り鳥に対する環境汚染の影響を測る研究の病理学的サポートを行っている。一方, 飼育下にある絶滅危惧種の臨床的ケアを担当するものもいる。我々は, 米国野生生物保健研究センターの歴史と組織の状況, FWSの一部であった当時の業務(これには特定の伝染病の調査など, 現在の業務も含まれる), 米国地質調査局の生物資源部門に属する研究センターとして新しく加わった業務について論じる。
  • 石居 進
    1999 年 4 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 1999年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
    日本のトキの人工繁殖のため次のような計画を考えた。まず非侵襲的方法(我々は糞中の性ステロイドホルモンの測定した)で生殖腺の状態を推定する。雌の場合, 卵巣が発達しているにもかかわらず排卵がおこらないのならば, 生殖腺刺激ホルモン(黄体形成ホルモン)投与で排卵を誘起する。もしも卵巣が発達していない場合には浸透圧ポンプで生殖腺刺激ホルモンを連続的に投与して卵巣を発達させ, 続いて注射で生殖腺刺激ホルモンを与えて(人工的に黄体形成ホルモン・サージを起こす)排卵を誘起する。時既に遅く, この計画は日の目を見なかったが, ウズラをモデルとする実験では糞中ステロイド濃度から血漿中のステロイドホルモン濃度の推定が可能であることが分かった。また, 短日条件で卵巣を退化させたメスウズラの45%くらいにホルモン処理で産卵を誘起することに成功した。この方法の一部は野生の鳥類の繁殖状況を推定する研究にすでに用いられている。また, ニュージーランドでカカポの人工繁殖にこれらの方法を適用するための研究が行われている。
  • 村田 浩一
    1999 年 4 巻 1 号 p. 17-25
    発行日: 1999年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
    ニホンコウノトリ(Ciconia boyciana)の生息数がわずかとなった1950年〜60年代, 兵庫県但馬地方では官民一体となって, この稀少鳥種のための様々な保護対策を展開した。餌となるドジョウを全国から集める『ドジョウ一匹運動』や, 営巣中の個体を守るための『そっとする運動』などはその代表的なものである。野生動物のために講じられたこれらの保護活動は, 現在でも学ぶところの多い先駆的なものとして評価できる。江戸時代に出石藩が瑞鳥(兆)として手厚く保護してきたことが, この地域でとくに保護活動がさかんであった理由のひとつである。コウノトリ保護に対する地域住民の思いは現在も確実に受け継がれており, 兵庫県が主宰する野生復帰計画の励みともなっている。コウノトリが水田で採餌できるように, 完全無農薬を目的としたアイガモ農法が徐々に広がりつつある。餌生物を増やすためにビオトープづくりを行っているグループや, 生物観察会などの環境教育を行っているグループもある。その一方で, 開発による環境破壊はなおも進行中である。野生復帰したコウノトリが餌場とするであろう河川の護岸はコンクリートで固められ, 水田地帯を縦断する広域農道が建設されようとしている。圃場整備された水田は生物の生息に適さない環境となっている。コウノトリが絶滅した1970年当時よりもはるかに悪化している自然環境に, 果してこの鳥を野生復帰できるのかどうか疑問を感じずにはおれない。経済発展か野生動物保護かという2者対立の構図は, 過去においても現在においても大きな問題である。コウノトリの野生復帰を成功させるためには, 今すぐにでも現状の開発技術を自然環境復元のために転用し, 人間が野生動物と共生できる妥協点を模索する努力を始めなければならい。そのためには, 地元住民の協力を得ることが最重要課題である。望まれるのはライフスタイルの変革である。だがこれは, 地元住民だけではなく, 多くの環境問題を身近に抱えているすべての市民が目標としなければならない課題でもある。
  • 早矢仕 有子
    1999 年 4 巻 1 号 p. 27-31
    発行日: 1999年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
    昭和初期には北海道全域に分布していたシマフクロウ(Ketupa blakistoni)は, 1950年代以降生息環境の悪化に伴い個体数が減少し, 現在では日本で最も絶滅が危惧される鳥類種のひとつである。1984年ら環境庁の保護事業により給〓や巣箱の設置などが実施され, 一部の生息地では毎年のように雛を生産するなど大きな効果をあげている。しかし, 包括的な生息地保全が立ち後れてきたため, 個体数の増加・生息地の拡大にはいっていない。新たな事業のひとつとして, 野生個体を飼育施設へ移し, 一定期間の飼育を経た後に再び野外へ復帰させようとする試みが実施されている。しかし, 飼育には高額の経費を要し, 年間1個体当たりで比較すると野外での保全より費用がかかること, また環境庁施設に収容した個体の方が野外個体より生存率が低いことから, 本種の保全に有効な手段となるにはまだ時間を要する。飼育下での事業が継続する間に, 種の減少を引き起こした要因から注意の目をそらし, 行政による野生個体群の保全への努力が低下することが強く危惧される。環境庁が設立したワーキンググループが目標と定めた, 今後10年〜15年でシマフクロウの生息地倍増を実現するためには, 現生息地の保全はもちろんのこと, 生息に適した新たな候補地を含めて生息環境の包括的な保全を実施していく必要に迫られている。
  • 白木 彩子
    1999 年 4 巻 1 号 p. 33-37
    発行日: 1999年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
    現在オジロワシ野生復帰プロジェクトが進行し, すでに放鳥も試みられているが, 飼育個体の野外放鳥は, 野生個体群に悪影響をもたらす可能性もあり, その適用は慎重に検討されるべきである。筆者は1991年より, 北海道で繁殖するオジロワシに関する生態学的な調査を行ってきた。その結果, 近年の繁殖状況は良好で, 巣立ち後の生存率も高かった。したがって個体群に対する種の供給量は十分であると推定され, 現時点で放鳥の必要性はないといえる。餌場となる水域の周囲の開発や, 営巣するために必要な大径木を保持する森林の減少によって, 新たなつがいが定着できる好適な営巣環境はほとんど残されていないと考えられる。現行の営巣地の周囲でさえ伐採や開発などが容認される場合もある。また, 多くの繁殖つがいや巣立ち後幼鳥は, 漁船から投棄される雑魚類や水産加工場から捨てられる廃棄物などの, 不安定で永続性の期待できない人為的な餌資源を利用していた。これらの餌の利用によって, 現在の良好な繁殖成績や生存状況が維持されていると考えられることから, この状況が将来にわたって維持される保証はない。将来的に健全な個体群を維持するためには, 繁殖力が旺盛な今, 現行の営巣環境の保護の徹底および餌場としての水域とその周囲林の回復に着手することが必要であるといえる。
研究短報
  • ルンカ グリシュダ, シリアロンラット ボリパット, カンワンポン ダオルン, 増田 隆一
    1999 年 4 巻 1 号 p. 39-43
    発行日: 1999年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
    約30年前, タイ農業組合省林産公団は子ゾウ訓練学校(YETS)を創立した。創立目的は, 森林伐採に使用する若い使役ゾウの訓練と子ゾウを保育することであった。最近, この訓練学校は拡張され, 名前もタイ国立ゾウ保護センターと改称された。このセンターの名称と役割は, タイにおけるゾウの保全のために再度検討されたのである。現在のゾウ保護センターの活動は, 保全対策, ゾウ使いとゾウの訓練, 治療活動, およびツーリズムを管理していくことである。その他, 移動式のゾウ病院, 学校生徒の見学会, ゾウに関する展示館など市民に向けた活動も行っている。さらに, 繁殖計画および家畜ゾウの野生復帰計画も最近の研究目的となっている。センターの年間経費は1, 300万タイバーツであり, そのうち約700万タイバーツが林産公団から支給されている。残りの経費は, NGO, 寄付, またはツーリズムによる収入によって支えられている。
原著
  • 小倉 剛, 松本 清司, 武藤 信一, 川島 由次
    1999 年 4 巻 1 号 p. 45-52
    発行日: 1999年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
    奄美大島に棲息するジャワマングース(Herpestes javanicus auropunctatus)について, 生物学的な基礎資料を総合的に収集し, 野生動物の保護管理の一助とするために, 本種の血液および骨髄の一般臨床検査項目について測定を行い, 他の食肉目の動物と比較検討した。血液形態学的には, 本種の赤血球は食肉目の中で非常に小型で, 比較的数が多いことが特徴であった。白血球数は1.0〜3.9(平均2.2)×103/μlで, 同属のマングースや他の食肉目と比べて極めて低い値であった。また, 白血球の直径はリンパ球が約11.2μm, 好中球は12.5μm, 単球は14.2μmであった。大リンパ球はリンパ球の約20%を占めていた。これら3種の白血球と血小板の形態は, イヌやネコと大きな相違はなかった。血清生化学的検査値は, GOT, GPT, AIPおよびCPKの各活性値がイヌやネコと比べて高い傾向がみられた。またγ-GTPとT-Bilは活性値を示さない個体がみられた。骨髄細胞については, 有核細胞数が平均0.69×10^6μlで, 細胞分類では赤芽球系細胞の割合が高かった。形態学的には各系統の細胞ともイヌやネコと大きな相違はなかった。
  • 白水 博, 初鹿 了, 沖野 哲也
    原稿種別: 本文
    1999 年 4 巻 1 号 p. 53-60
    発行日: 1999年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
    和歌山県太地町立くじらの博物館自然プールで飼育中のシャチOrcinus orca(1985年10月に紀伊半島沖で捕獲)と, バンドウイルカTursiops truncatus(1982年8月に同博物館の自然プール内で出生)がそれぞれ自然排出した裂頭条虫のストロビラについて, その形態を観察した。上記の2宿主から得た虫体は, いずれも頭節を欠くが, 片節の主要部位および虫卵の特徴から同じ種類の条虫で, バンドウイルカ寄生の虫体はやや未熟型と思われた。この条虫は, 1)片節が最大幅16.0mmと大型で, 多くは縦径<幅径であるが, 後方片節では縦径>幅径を呈する。2)各片節には1組の生殖器が認められ, 生殖孔の周囲に著明な乳頭が存在する。3)子宮ループの数は片側13〜18である。4)精巣は髄層内に一層に配列する。5)陰茎嚢は洋梨形で大きく(833×290μm)斜位を呈する。6)貯精嚢はほぼ球形(540×460μm)で壁が厚く(平均108.9μm), 陰茎嚢の背後壁に接続する。7)虫卵は楕円形で, 長径平均65.0μm, 短径平均47.7μm, 卵殻の厚さ平均3.2μmで, 卵殻表面には微小な点刻(pits)が散在する等の形態的特徴から, Hsü(1935)あるは矢崎ら(1982)によるフールマン裂頭条虫(Diphyllobothrium fuhrmanni Hsü, 1935)と同定された。シャチとバンドウイルカは, D.fuhrmanniの新しい自然終宿主である。また, バンドウイルカ寄生の条虫は, 出生後に自然プール内で感染したと考えられるため, このイルカ飼育中に餌料として与えた魚介類(感染源)についても言及した。
研究短報
  • 釣賀 一二三, 合田 克巳, 間野 勉, 金川 弘司
    1999 年 4 巻 1 号 p. 61-64
    発行日: 1999年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
    飼育下20頭および野生9頭のエゾヒグマを対象に, 塩酸ゾラゼパムと塩酸チレタミンの混合薬の効果と有効量を検討した。その結果, 不動化に必要な薬用量は飼育個体で3.52±1.53, 野生個体では3.75±1.57mg/kgと十分に少量であった。また, 不動化されたクマは十分に脱力しており, 飼育個体については覚醒も速やかであった。エゾヒグマに対してこの薬物の組み合わせが有効であることが示唆された。
  • シリアロンラット ボリパット, アンカワニシュ タウィポケ, カンワンポン ダオルン, 増田 隆一
    1999 年 4 巻 1 号 p. 65-71
    発行日: 1999年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
    タイ北部のメーホンソン県ナムトクメースリン国立公園周辺に生息する野生ゾウについて, 予備的情報を収集した。この国立公園内および周辺における数多くの村落は, アジアゾウ(Elephas maximus)の生活に影響を及ぼしている可能性がある。そこで, 野生ゾウの痕跡に関する野外調査を行うと共に, カレン族の人々から聞き取り調査を行った。その結果, 2頭のメス成獣の足跡を認めた。前脚足跡は円周を測定した結果, これらの2頭のゾウの肩高さは各々2.9mおよび2.3mと推定された。ゾウの糞およびゾウによって木の幹につけられた泥が発見された。また, 体毛も採取されたが, これは将来の野生集団の遺伝分析のために用いることができるであろう。さらに, 少数民族の人々と自然との関係について紹介した。
  • 郡山 尚紀, 木曾 康郎, 牧田 登之
    1999 年 4 巻 1 号 p. 73-76
    発行日: 1999年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
    As a model of phenotype of cartilage formation, the pattern and the number of tracheal cartilage rings were surveyed in three different groups of Macaca(macaque). They are easy to approach and to count or measure. For Japanese(J), Formosan(F)and Rhesus(R)monkeys, the length of trachea(from distal end of cricoid cartilage to tracheal carina)was J:4.6-8.5cm(average 6.86), F:7.0-9.1cm(averege 7.8)and R:5.6-7.7cm(average 6.76). The number of cartilage rings for J, F and R was 21.54±2.89, 23.63±3.46 and 22.55±2.43, respectively. The average number of fused rings in J, F and R was 2.8, 6.4 and 5.9. Practically all three groups of macaque had similar length of trachea and number of tracheal cartilage rings. Most of tracheal rings were complex type(J23/26, F8/8, R20/20)composed of two to four cartilage pieces. In cross section, the dorsal protion of C type ring was overlapped. Whether left or right half edge covers over the opposite half edge was not consistent. The number of cartilage rings was not always proportional to the length of trachea. The comparison of cartilage pattern of trachea to that of bronchus, the change of the pattern with age, the comparison of the pattern of parents with their offspring(genetical survey), and also the embryological survey of the tracheal cartilage pattern remained to be surveyed.
  • 中平 千佳子, 木曾 康郎, 牧田 登之
    1999 年 4 巻 1 号 p. 77-80
    発行日: 1999年
    公開日: 2018/05/05
    ジャーナル フリー
    To compare the structure of forepaw of monkeys to that of human, the composition of skeleton and some muscles of a total of 27 Japanese monkeys(Macaca fuscata), 6 Taiwan macaques(Macaca cyclopis)and 6 rhesus monkeys(Macaca mulatta)were surveyed with X-ray, Arizarin red skeletal staining, and gross anatomy. All macaques had a central carpus which is not independent in human carpal bones. The order of length of metacarpal bones of macaques was III>II>IV>V while that of human was II>III>IV>V. The order of length phalanges was III>IV>II>V in both macaques and human. There were four types of arrangement of sesamoidal bones. Japanese and rhesus monkeys had three types and Taiwan macaques had all four patterns. In general, muscles of forepaw of macaques were similar to those of human hand but M.extensor digiti IV were more prominent than in human. M.contrahentes digitorum manus was specific to monkeys. Those features of skeletal and muscular arrangement suggested that the main function of forepaw of macaques was more specific to grip, branches of tree, etc., rather than to walk on the ground.
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