日本野生動物医学会誌
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9 巻 , 1 号
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特集
  • 大沼 学
    2004 年 9 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2004年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    絶滅危惧種を飼育下で繁殖させることは,種の保全を行う上で重要な手法となっている。本研究では,現在マレイシア国サラワク州において飼育下にある21頭のマレーゲマ個体群が今後維持可能かどうかを個体群存続可能性分析(population viability analysis : PVA)により評価した。 PVAを行うためにはマレーゲマの繁殖学的情報と遺伝学的情報が不足していた。そのため,はじめにメスの繁殖周期を観察するとともに,ミトコンドリアDNAの塩基配列を指標とした系統の分析とマイクロサテライト座位の多型を指標とした遺伝的多様性評価を実施した。その結果マレーグマは生息地域では雨季に同調して繁殖している可能性が高いこと,この飼育個体群は飼育下繁殖を実施する場合の創設集団として利用できるほどの遺伝的多楡|生を保持していることが明らかとなった。これらの新知見を加えてPVAを実施した結果,メス1頭を5〜10年間隔で補充する必要はあるが,既存の施設や現地の飼育管理技術を利用して現在の個体数を維持しながら80%以上の確率で個体群を維持できるということが明らかとなった。したがって,飼育個体群を維持することは,マレイシア国サラワク州におけるマレーグマの保護策のひとつとして考慮するべきであると考えられた。
  • 山崎 亨
    2004 年 9 巻 1 号 p. 9-15
    発行日: 2004年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    1995年からインドネシアのジャワ島において,ジャワクマタカ(Spizaetus bartelsi)の調査と保護の推進に取り組んだ。ジャワクマタカは生態系の食物連鎖の上位に位置するアンブレラ種であるとともに,インドネシアの国鳥でもあり,その調査・保護体制の確立はインドネシアの野生生物や自然環境保護の推進に有効であると考えた。インドネシアをはじめとするアジア地域の自然は生物多様性に富み,生息する猛禽類の種類も多いが,その研究はほとんど行われていなかった。猛禽類の調査・保護体制を確立するためには,(1)地元住民や関係機関の連携による自主的な活動体制の構築,(2)海外からの支援に依存しない自立した活動を継続して実施できる経済的基盤の構築,(3)人材育成が不可欠であると考えた。インドネシアの政府機関,JICAのインドネシア生物多様性保全計画プロジェクト,NG0,学生,地元住民との9年間にわたる継続的な取り組みの結果,猛禽類の存在意義の定着のみならず,関係機関の連携による自発的な猛禽類の調査・保護活動が実施されるに至った。さらに,地元住民とNGOが一体となったエコツアーの開催,国立公園職員による調査結果に基づく国立公園の範囲拡大なども検討され始めた。
  • 小林 万里
    2004 年 9 巻 1 号 p. 17-30
    発行日: 2004年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    日本は,自然特性の異なる4つの海に囲まれ,列島が南北に長く広がって大陸棚が発達し,加えて海底環境が複雑であることも相まって,生物生産力が非常に高い。このことがこれまでの沿岸漁業に貢献しできたが,現在ではかつての好漁場が疲弊し,漁獲量も頭打ちになっている。そのため,沿岸域は著しく荒廃し,生物多楡|生の低下を招いている。一方,日本の国土の面積は世界で60番目であるが,200海里(370.4km)排他的経済水域(EEZ)の面積を含めると世界で第11位であり,EEZそのものは世界で第6位の海の大国である。NPO法人北の海の動物センターでは,1999年から北方四島海域一帯の鯨類と海獣類(トド・アザラシ類・ラッコ)・海鳥類および海洋環境について,「ビザなし専門家交流」の枠を用いて,四島側専門家と共に調査を行ってきた。 2002年は海上調査に陸上(択捉島)動植物相の調査を加えた結果,陸上には莫大な海の生物資源を自ら持ち込むサケ科魚類(河川の魚)が高密度に自然産卵しており,それを主な餌資源とするヒゲマは体サイズが大きく生息密度も高いことが明らかになった。海上と同様,陸上にも原生的生態系が維持されており,それは海と深い繋がりがあることがわかってきた。「北方四島」という生物多様性が保全されている地域の原生的生態系について,そこに生息する動物を例に挙げながら,海の国,日本のこれからの海の多様性保全のあり方を考えて行きたい。
原著
  • 大塚 浩子, 大沼 学, 福本 真一郎, 向井 猛, 白水 彩, 千葉 司, 浅川 満彦
    2004 年 9 巻 1 号 p. 31-37
    発行日: 2004年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    マラッカ動物園(マレーシア)より札幌市円山動物園に搬入された一頭のマレーバク(Tapirus indicus)の糞便検査を行ったところ,線虫卵と多数の条虫卵を検出した。プラジクアンテル投与後,糞中より条虫片節が採取されたが老熟片節であった。そこで,糞便中の虫卵および駆虫後排泄された片節からDNAを抽出し,ミトコンドリアのcytochrome c oxidase subunit 1(COX1)遺伝子および核ゲノム中に存在するInternal transcrbed spacer領域(ITS)を対象にPCRを行った。このとき,条虫類と線虫類に共通して使用できるプライマーを用いた。その後PCR産物の塩基配列を決定し,BLASTによるホモロジー検索を行った。その結果,ITS領域用プライマーによって得られた,虫卵および片節由来のPCR産物はすべて真菌類ITSの配列と類似していた。一方,COX1用プライマーによって得られた虫卵由来のPCR産物からは2種類の配列が得られ,一つは裸頭条虫科(Anoplocephalidae)のParanoploaephala属に,もう一つは鈎虫科(Ancylostomidae)のAncylostoma属に近縁の配列であった。このことから本研究において応用された方法は,寄生嬬虫相の情報が少ない野生動物の寄生嬬虫症診断法として有用である可能性が示唆された。
  • 伊藤 英之, 須藤-山地 明子, 阿部 素子, 村瀬 哲麿, 坪田 敏男
    2004 年 9 巻 1 号 p. 39-43
    発行日: 2004年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    近年,イヌワシ(Aquila chrysaetos)やクマタカ(Spizaetus nipalensis)のような猛禽類は生息地の破壊等により減少しており,生息地や遺伝的多楡院の保全が重要となっている。しかしながら,猛禽類に開する遺伝的な情報はまだ少ない。本研究では,ハヤブサ(Falco peregrinus)とシロハヤブサ(Falco rusticalus)において開発された8つのマイクロサテライトマーカーを6種の猛禽類,トビ(Milvus migrans),オオタカ(Accipiter gentiles),チョウゲンボウ(Falco tinnunculus),イヌワシ,チュウヒ(Circus spilonotus),クマタカヘの応用を試みた。今回用いたマイクロサテライトマーカーは,1つのマイクロサテライトマーカーを除き,少なくとも1種以上の種において遺伝的多型を検出し,猛禽類における有用性を示した。我々は猛禽類間におけるマイクロサテライトマーカーの種間増幅の有用性を示した。この結果は今後猛禽類の保全や研究に有用であると考えられる。
  • 遠藤 秀紀, 成島 悦雄, 小宮 輝之, 佐々木 基樹
    2004 年 9 巻 1 号 p. 45-49
    発行日: 2004年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    アジアゾウ(Elephas maximus)の大腿骨頭靭帯を肉眼解剖学的および組織学的に検討した。膠原線維が厚い大腿骨頭靭帯を形成していた。靭帯は寛骨臼窩に長さ約60mm,幅20mm,厚さ10-15mmの範囲で密着していた。靭帯の近位端は寛骨臼窩の深い溝に埋まり,月状面の辺縁が靭帯の起始部を囲んでいた。靭帯は背外側に位置する寛骨臼の中央から起始し,寛骨臼の内面を腹内側方向に走行,寛骨臼切痕を経て大腿骨頭に達していた。これらの所見から,厚い靭帯とその広い付着面が,ヒトで見られるのと同様に,大腿骨の内転を制限する機構として働いているという機能的モデルを提唱することができた。一方で,ヒトと異なり,大腿骨の伸展と屈曲には直接の機能的関連がないことが示唆された。
研究短報
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