日本野生動物医学会誌
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9 巻, 2 号
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原著論文
  • 翁 強, 村瀬 哲磨, 淺野 玄, 坪田 敏男
    2004 年 9 巻 2 号 p. 65-70
    発行日: 2004年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    2001年11月〜2003年4月の間に,神奈川県において野生雌タヌキ5頭(11月,2月,3月および4月)の死体を収集した。死体より卵巣を摘出した後,一方を液体窒素で急速凍結するとともに,残りをホルマリン固定し,パラフィン切片を作製した。免疫組織化学を実施し,P450aromの局在を確定した。また,凍結保存した卵巣からmRNAを抽出した後,RT-PCR法にてcDNA断片を増幅した。増幅したDNAのうちP450aromをコードすると予想されるサイズのバンドを確認し,増幅DNA断片のクローニングを行った。プラスミドにインサートされたことを確認した後,シークエンスを行った。免疫組織化学の結果,P450aromは内卵胞膜細胞および卵胞上皮細胞(顆粒層細胞)に認められた。また,3月における黄体細胞および4月における妊娠黄体を構成するほとんどの細胞の細胞質に陽性反応が認められた。PCRによりP450arom cDNAバンドの大きさは289bpであった。また,シークエンスにより得られたP450aromの塩基配列はヒト,ウシおよびラットのそれと76.3%,78.2%および72.6%の相同性を示した。以上の結果より,野生タヌキにおいて卵胞上皮細胞(顆粒層細胞),内卵胞膜細胞および黄体細胞がP450aromを発現し,エストロジェン合成能を有することが示唆された。
  • 沖野 哲也, 後川 潤, 的場 久美子, 大山 文男
    2004 年 9 巻 2 号 p. 71-78
    発行日: 2004年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    中国から輸入された食用ドジョウに寄生する蠕虫類の調査を行った。その結果,線虫類の幼虫3種(Spiroxys japonica, Gnathostoma hispidum, Contracaecum sp.)と成虫1種(Pseudocapillaria tomentosa),吸虫類のメタセルカリア6種(Massaliatrema misgurni, Exorchis oviformis, Metacercaria hasegawai a, Metorchis orientalis, Encyclometra japonica, Echinostomatidae gen. sp.)と成虫1種(Allocreadium gotoi),条虫類の成虫1種(Paracaryophyllaeus gotoi),鉤頭虫類の成虫1種(Pallisentis sp.)の計13種を検出した。これらのうち,M. misgurniは国内に定着するおそれがあり注意を要する。
  • 里吉 亜也子, 蒲谷 肇, 萩原 光, 谷山 弘行, 吉澤 和徳, 辻 正義, 萩原 克郎, 村松 康和, 浅川 満彦
    2004 年 9 巻 2 号 p. 79-83
    発行日: 2004年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    千葉県房総半島にはアカゲザル(Macaca mulatta)と疑われるサル類が生息する。この外来種のサル類の存在により,在来種であるニホンザルへの新たな寄生体感染の危険性も指摘されている。そこで,この基礎情報として当該地域におけるニホンザルの寄生生物の保有状況を把握するため,有害駆除されたニホンザル50個体について,寄生虫(節足動物,蠕虫および原虫)全般および一部ウイルス・細菌の検査を実施した。その結果,Pedicinus obtusus, P.eurygaster, Streptopharagus pigmentatus, Storongyloides fulleborniおよびTrichuris trichiuraの5種の寄生虫が認められた。いずれもニホンザルにおいて既に報告のある種であった。シラミ類Pedicinus属2種の濃厚寄生が認められた個体については,両種の詳細な寄生部位の記録を行なった。今回の調査では,コクシジウム類とBabesia属の寄生は認められなかった。Rickettsia,Coxciellaおよびボルナウイルスの感染状況については,別に報告予定である。
  • 久田 裕子, 齊藤 慶輔, 浅川 満彦
    2004 年 9 巻 2 号 p. 85-89
    発行日: 2004年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    生息数が減少し,絶滅が危惧されている北海道産シマフクロウ(Ketupa blakistoni blakistoni)においてヘモプロテウス(Haemoprotes)属の感染状況を把握し,個体群の保護管理に役立てる目的で,1994年11月から1999年8月までに採取された野生または飼育下の70羽分,計98枚の血液塗末標本から本属原虫の検出を行った。その結果,野生の2ヶ月齢,7ヶ月齢の各1羽および1歳以上の5羽すべてに感染を認め,その赤血球内寄生率はいずれも1%未満と非常に低いものであった。シマフクロウの2ヶ月齢の個体は巣もしくはその周辺に行動圏が限られていること,また7ヶ月齢の個体では親が同時期に感染していたことから,親の行動圏内の極めて狭い範囲で家族内感染などが起こっていることが示唆された。若齢のシロフクロウ(Nyctea scandiaca)において本属原虫症による臨床症状や死亡例の報告があることから,体力や免疫能が十分に発達していない幼鳥においては健康状態を管理していく上で特に注意を要する。本属原虫はフクロウ科において種間感染を起こす可能性があり,本調査地付近のフクロウ(Strix uralensis)において本属原虫の感染率が高いことが飼育個体で確認されていることから,シマフクロウの個体群に及ぼす本属原虫の影響を明らかにするためにも,種の同定やフクロウ科全般を対象にした感染状況調査をシマフクロウ個体群の生息地別に実施することが望まれる。
  • 横畑 泰志, 神谷 正男
    2004 年 9 巻 2 号 p. 91-96
    発行日: 2004年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    北海道の各地で1985年から1990年にかけて捕獲されたアカギツネVulpes vulpesにおける多包条虫(タホウジョウチュウ)Echinococcus multilocularisの感染率と,地域ごとの環境因子の関係を単回帰および重回帰分析法を用いて分析した。8つのカテゴリーに属する15種類の説明変数のうちから,単回帰分析によってカテゴリーごとに1つ,計8つの変数を選択した。それらを用いたステップワイズ重回帰分析において,以下の重回帰モデルが得られた:Y=0.00979X_1-0.00037X_2+0.23833(Y:平方根-逆正弦変換を行ったキツネにおける多包条虫の感染率,X_1:9月におけるヤチネズミ類Clethrionomys spp.の捕獲数,X_2:50cm以上の積雪のあった日数,r=0.32180,P=0.0001)。ヤチネズミ類の密度が高いほど多包条虫の生活環が成立しやすくなり,積雪による本条虫の感染率への負の効果は,積雪がキツネの捕獲行動を妨げるためであると考えられた。
  • 白木 彩子, 増田 泰, 中川 元
    2004 年 9 巻 2 号 p. 97-102
    発行日: 2004年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    保護収容したオオワシの野外放鳥後の監視と,今後適切な放鳥を行うために必要な知見を得ることを主な目的として,4〜6週間飼育された3羽のオオワシの亜成鳥を放鳥し,ラジオトラッキング法による追跡調査を行った。1月に放鳥されたオオワシは,放鳥5日目には約40km離れた海岸部で,他の野生の海ワシ類とともにクジラの漂着死体に群がっていた。その後,東部地域の結氷した湖などで4月初旬まで確認され,漁師が氷上に投棄する雑魚類を餌としていた。他の2個体は7月に放鳥された。そのうちの1羽は,放鳥後8日間は放鳥地周辺に滞在し,その後放鳥地の北西方向にある湖に移動して4日間滞在した後,確認できなくなった。別の1羽は,放鳥地周辺に5日間滞在した後確認できなくなったが,約2年後の1998年4月に,北海道東部の阿寒町で死体として回収され,鉛中毒による死亡と診断された。今回の調査では,夏期に放鳥したオオワシが北海道から無事に渡去したかどうか確認することはできず,夏期放鳥の安全性や効果を検討することはできなかった。今後,夏期放鳥個体が正常に渡去するかどうかの確認を含め,放鳥後の行動や移動に関するデータの蓄積が求められる。また,放鳥後すべての個体が数日間以上放鳥地周辺に留まったことから,放鳥は好適な餌場に近接し,人為的な撹乱や事故の可能性がなく,ねぐら林やとまり木を備えた環境においてなされるべきである。
研究短報
  • 遠藤 秀紀, 酒井 健夫, 伊藤 琢也, 鯉江 洋, 木村 順平
    2004 年 9 巻 2 号 p. 103-107
    発行日: 2004年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    オランウータンの遺体を用いて,肝臓の肉眼解剖学的特徴を検討した。同種の肝臓は左葉,尾状葉,方形葉,外側右葉,内側右葉に分けられ,発達した胆嚢を伴っていた。各葉は,四足獣と異なって,腹側へ突起を伸ばすことはなく,臓側面から見て正方形に近い形態を示した。また,CTスキャンを利用して肝臓の20枚の水平断面を得て,その各面積を算出した。その結果,肝臓の体積と重量の大半は背腹方向で見て中央付近に集中し,極端な背側や腹側部に体積や重量をもたないことが明らかとなった。このような特徴は,直立二足歩行前段階として体幹を垂直に立てる姿勢を示す類人猿において,頭尾方向に重力が生じる条件下で肝臓を負担し固定するために進化した,適応的な機能形態学的機構であることが推察された。
  • 遠藤 秀紀, 酒井 健夫, 伊藤 琢也, 鯉江 洋, 木村 順平
    2004 年 9 巻 2 号 p. 109-114
    発行日: 2004年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    山梨県の民家に保存されてきたイヌ属と思われる頭蓋を鑑定し,ニホンオオカミ(Canis hodophilax)の頭蓋であると断定した。大きさは頬骨弓最大幅が126.3mm,硬口蓋最大長が107,9mm,両眼窩間最小距離が38.2mmだった。背腹方向に小さな前頭骨,外側後方に広がった頬骨弓全体が確認された。前翼孔は吻尾方向に二分され,また口蓋骨後縁の正中部分に窪みが確認された。また頬骨弓の最背側領域は側頭骨頬骨突起から構成されていた。計測形質も非計測形質も本資料が絶滅したニホンオオカミの頭蓋であることを示していた。加えて,CTスキャンによる画像解析の結果,鼻甲介の,背,中,腹の3つの部位が確認され,イヌと同様に鼻甲介が鼻腔内で複雑な構造を備えていることが明らかとなった。また,CT画像上で,明瞭な鼻中隔軟骨や背腹方向に狭い前頭洞が観察された。これらのCTの画像データは,ニホンオオカミの嗅覚機能の議論に貢献するものと思われる。
  • 斉藤 理恵子, 川上 茂久, 浅川 満彦
    2004 年 9 巻 2 号 p. 115-118
    発行日: 2004年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    南アフリカから搬入された5頭のケープハイラックスProcavia capensisから検出された内部寄生虫を検討したところ,Inermicapsifer hyracis, I.cf. beveridgei, Grassenema procaviaeおよびEimeria dendrohyracisが検出された。I.hyracis以外は日本の飼育下ハイラックス類では初めての記録であった。
  • 遠藤 秀紀, 吉原 耕一郎, 加世多 美怜, 酒井 健夫, 伊藤 琢也, 鯉江 洋, 木村 順平
    2004 年 9 巻 2 号 p. 119-123
    発行日: 2004年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    オランウータンの成獣と分娩直前の胎子の死体を用いて,股関節の構造をCT断層像で非破壊的に観察し,さらに成獣では肉眼解剖を行った。CT画像から,胎子も成獣同様,大腿骨頭靭帯を備えていないことが明らかになった。オランウータンの大腿骨頭靭帯は少なくとも分娩直前の胎子で完全に消失していると結論づけることができた。肉眼解剖の結果,成獣において腸骨大腿靭帯の2つの部位,貧弱な恥骨大腿靭帯,そしてよく発達した坐骨大腿靭帯が確認されたが,これまでの報告と合致して大腿骨頭靭帯は存在しなかった。CT像は非破壊的に股関節の構造を確認する上で,有効な方法であると結論できる。
技術短報
症例報告
  • 植田 美弥, 高増 哲也, 中澤 正年, 今野 雄一, 山本 裕彦, 松井 桐人, 松本 令以, 水谷 苗子, 草村 弘子
    2004 年 9 巻 2 号 p. 135-138
    発行日: 2004年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    5歳の雌のメガネグマが全身に掻痒を伴う湿疹を発症した。主な症状は全身の掻痒,湿疹,脱毛で,流涙,眼瞼腫脹,くしゃみも認められた。血液検査では白血球,好酸球,LDHの上昇がみられた。抗ヒスタミン薬の投与で改善されず,プレドニゾロンの内服により,症状はほぼ消失した。季節性の変動,著しい掻痒,好酸球数の増加,副腎皮質ステロイド剤の奏効,転地による症状の消失が見られたことから,この皮膚炎はアトピー性皮膚炎と思われた。
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