日本野生動物医学会誌
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原著論文
  • 中山 侑, 大宜見 こずえ, 田名網 章人, 小針 大助
    原稿種別: 原著論文
    2023 年 28 巻 2 号 p. 65-72
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     本研究は飼育下のオオアリクイ(Myrmecophagga tridactyla)に対して新奇物(novel object)を3種提示し,行動に及ぼす影響と効果の持続期間の違いを明らかにすることを目的とした。2009~2010年に3園のオオアリクイ5頭を対象とした。新奇物3種(横木, 土山, ホース)を提示して5〜7日間の行動動観察を行った。新奇物に対する反応(行動様式・反応時間)を連続サンプリング,個体維持行動(移動・探査・休息・その他)を1分間隔の瞬間サンプリング,土山とホースは常同行動も1分間隔の1-0サンプリングにて記録した。その結果,新奇物に対する行動様式は,土山とホースにおいて特異的な行動(土山:擦り付け, 掘る, 警戒,威嚇,ホース:遊戯)がみられた。反応時間は新奇物間で長さが異なった(横木≧ホース≧土山)。また,新奇物への反応時間はどの新奇物も提示後1~3日目にピーク日を迎え,5~7日にピーク日の-70%以下となった。維持行動のうち,主たる行動の移動と探査行動は,新奇物の種類の影響がなかった。また,常同行動への影響は個体ごとに異なっていたが,コントロールよりも低い日数の割合の平均は,土山:78.8±0.3%,ホース:82.1±0.2%であった。以上のことから,オオアリクイへの新奇物提示は,新奇物の種類により反応行動の様式が異なるが,どの種類でも1-3日を過ぎると反応時間が低下する可能性が示唆された。一方で,反応時間が低下した後も少なくとも7日間は新奇物の存在自体が環境刺激となり常同行動が減少する可能性が考えられた。

  • 川瀬 啓祐, 紙野 瑞希, 所 亜美, 正藤 陽久, 飯田 伸弥, 生江 信孝, 金原 弘武, 楠田 哲士
    原稿種別: 原著論文
    2023 年 28 巻 2 号 p. 73-80
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     飼育下ハートマンヤマシマウマ(Equus zebra hartmannae)の雌1頭において,血中および糞中の性ステロイドホルモン濃度の測定,腟粘膜上皮細胞像の観察および直腸温測定を実施し,発情周期を調査した。血中エストラジオール-17β 濃度がピーク値を示した後,血中プロジェステロン濃度の上昇がみられた。糞中プロジェステロン代謝物濃度動態は血中での動態と類似しており,血中濃度と採血日から2 日後の糞中の濃度は有意な正の相関(r=0.80)を示した。糞中プロジェステロン代謝物濃度の動態はプロジェステロン分泌をよく反映していることが明らかになった。糞中プロジェステロン代謝物濃度の動態は年間を通して周期的な増減を示し,平均23.1±2.3日間の発情周期が確認された。無核角化上皮細胞の割合は,糞中プロジェステロン代謝物濃度が低い非黄体期に増加する傾向がみられたが,有意な変化ではなかった。直腸温については非黄体期に増減変化がみられ,ヒトなどで一般的に知られている黄体期の基礎体温上昇は確認できなかった。

総説
  • 大石 和恵, 丸山 正
    原稿種別: 総説
    2023 年 28 巻 2 号 p. 81-89
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     この数十年の間に鰭脚類において何回かの感染症による大量死が報告され,鰭脚類と海洋の保全について,世界的な関心がもたれている。日本沿岸ではそのような大量死は今のところ見られていないが,北海道沿岸に棲息する鰭脚類において,インフルエンザウイルス,モービリウイルス,ブルセラ菌,トキソプラズマ,ネオスポラの5つの病原体の血清疫学調査がなされ,全ての病原体に対して特異的抗体が検出されている。この総説では,これらの血清疫学の結果を,この分野の近年の重要な知見を交えながら概説する。これらの病原体は接触や摂餌を通して種を超えて伝播する可能性があり,鰭脚類の保全に加え,感染症のハブとしての鰭脚類にも着目して,陸と海を繋ぐ生態系に棲息する他の哺乳類や,それ以外の動物,例えば鳥類,餌となる小動物,寄生虫などを含む大きな枠組みの中で捉える必要がある。近年の環境の変化は,動物の棲息域や行動に影響を与え,種間伝播のリスクを高める可能性がある。鰭脚類のみならず,より広い動物群におけるモニタリングの継続が重要である。

研究短報
  • 吉野 智生, 浅川 満彦
    原稿種別: 研究短報
    2023 年 28 巻 2 号 p. 91-94
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     2013年12月16日に北海道羅臼町で回収されたケアシノスリの剖検と寄生虫検査を実施した。当該個体は重度削痩し右趾爪の欠損と胸骨骨折、胸部に褥瘡が認められたため,餌が十分に捕れず衰弱死したと考えられた。また消化管から線虫Porrocaeucum sp.および毛細線虫科の1種、属種不明四葉目条虫、体表からハジラミDegeeriella fulvaが得られた。D. fulvaは道東から初めて記録され、また毛細線虫科線虫および四葉目条虫は日本でケアシノスリから初めて記録された。

  • Anne Marit VIK, 土田 さやか, 橋戸 南美, 小林 篤, 秋葉 由紀, 原藤 芽衣, 牛田 一成
    原稿種別: 研究短報
    2023 年 28 巻 2 号 p. 95-101
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     ニホンライチョウの飼育では,雛の高い死亡率がかねてより問題になっていたが,その原因として移行抗体が不十分である可能性が指摘されていた。2020年に中央アルプスで単独で暮らす飛来雌が産卵をしたためその未受精卵と動物園で得られた未受精卵の卵黄抗体(IgY)および卵白中のIgA抗体とIgM抗体の濃度を比較した。卵黄IgY濃度は,飼育下未受精卵が高値を示したが,統計的には有意でなかった。卵白IgA及び卵白IgMは,いずれも低値を示し,二群間に有意差はなかった。母鳥からの移行抗体量に野生と飼育下に差があるとはいえず,飼育下の雛の高い死亡率を説明する要因ではないと推測された。

症例報告
資料
  • 加藤 雅彦, 伴 和幸
    原稿種別: 資料
    2023 年 28 巻 2 号 p. 129-134
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     本調査は,ある動物園において給餌される7種の一般飼料の表面と肉食獣に給餌される野生のニホンイノシシ5頭および野生のヤクシカ5頭のと体の表面について,一般生菌数および大腸菌群数を明らかにし比較した。なお,と体給餌は,生物資源の活用,環境エンリッチメントおよびそれらに関する教育のために試行された。これらのと体は,と体処理施設において消毒されていた。一般飼料の一般生菌数は1.96 log cfu/cm2から5.72 log cfu/cm2までであり,大腸菌群は4種の飼料から検出された。ニホンイノシシと体の一般生菌数は,胸部が1.52 log cfu/cm2から4.70 log cfu/cm2までであり,肛門周囲部が1.79 log cfu/cm2から6.00 log cfu/cm2を超えるものまであった。大腸菌群は,胸部が3頭のと体から検出され,肛門周囲部が3頭のと体から検出された。ヤクシカと体の一般生菌数は,胸部が0.20 log cfu/cm2から2.08 log cfu/cm2までであり,肛門周囲部が1.41 log cfu/cm2から3.46 log cfu/cm2までであった。大腸菌群は,胸部が1頭のと体から検出され,肛門周囲部が3頭のと体から検出された。これらから,一般生菌数および大腸菌群数で比較すると,対象園において給餌される一般飼料と野生動物のと体とは大きな差がなかったと考えられる。

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