今日の乳歯の歯内療法において、よく次のような事態に遭遇し困惑することはないで
しょうか。生切治療後に発現した内部吸収に因る歯周炎の急速な進行・悪化、抜髄や感染
根管治療に際し出血の止まらない外部吸収等を伴う歯周炎への進行・悪化、あるいは歯内
療法が困難とされている著しく拡大した根尖病巣を有する、歯根安定期ないし生理的歯根
吸収期の根尖性歯周炎等で、抜歯に直面する時です。現在これらに対して適切な対応策は
なく、乳歯歯内療法の限界と見倣されています。
そこで問題は何か?最終的に吸収されて永久歯と交換する宿命をもつ乳歯には、なんら
かの刺激により、歯質や周辺歯槽骨の劇的吸収が顕著に発現し無制限に進行し、自己崩懐
に至らしめるというある種の防禦機構が内在しているようです。その乳歯特有の激しい病
的硬組織吸収こそその限界を生み出している共通の要因と考えられます。そうだとすると
その吸収の進行を制御し得る歯内療法が是非とも望まれます。ところが本来乳歯と永久歯
には、歯それ自身のみならずその他の生理的諸条件にも明白な差異があるにもかかわら
ず、それを承知の上でこれまで乳歯歯内療法の拠り所を一般の歯内療法の原則に求め続け
てきたし、依然としてそれに執着している向きが窺われます。当然そこからは乳歯のその
問題を解決し得る歯内療法は生じ得ません。むしろその様な背景もその限界を越えること
を一層難しくしている様に思います。永久歯サイドからではなく乳歯サイドから練り上げ
られた乳歯固有の歯内療法を今こそ再構築すべき時に来ているのではないでしょうか。
さて望まれる歯内療法として何が?演者は20数年前からFC-CV法という方法を実践し
てきました。7オ女児の厄の重度の内部吸収性歯周炎の応急処置に端を発します。即ち
FC綿球の髄腔内への一定期間の貼薬と、その間の臨床症状消失を経た後の根管口と髄床
底全体へのCV(CalvitalR)の貼付という頗る簡単な術式により、吸収された歯質の一部や
広汎な歯槽骨全域がほぼ完全に再生され硬組織性搬痕治癒に至るという驚愕の事実の発見
が出発点です。まず本法を乳臼歯の内部吸収性歯髄炎20例と歯周炎80例に行い、好成績
(前者:すべて成功、後者:完全な骨再生69%、部分的再生22%)が得られました。その
応用として、乳切歯の単純性歯髄炎、乳臼歯の生活根部歯髄を有する重度根尖性歯周炎に
対して、数回法の生切法で両薬剤を用いても類似の好成績が得られました。さらにその
EBMを感染根管治療法の術式に活かすことによって、前述の抜歯適応症の根尖性歯周炎
においても完璧な硬組織性搬痕治癒が齋され、長期に安定した予後も得られました。これ
らを修復硬組織再生能を高める共通の効果を生む歯内療法群と考え、順にFC-CV法I型、
I型、m型と規定しました。今回、乳歯歯内療法の限界領域を拓くにあたり、望まれる歯
内療法のモデルケースとして、本法を俎上に載せてみたいと思います。
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