わが国では,2004年末に臭化メチルの使用が全廃されるまで,数十年間にわたって臭化メチルと酸化エチレンの混合ガスが図書館・文書館などでの書籍の殺虫・殺菌に使用されていた。しかし,そのような処理による青焼き文書などの異臭の問題や,酸化エチレンの発ガン性の問題などによって,書庫全体の大規模燻蒸という選択は現在では困難となってきている。一方,近年では資料保存の全般にわたり,Preventive conservation,予防的保存の考え方によって,さまざまな要因による資料の被害を事前に予測し,被害を未然に防ぐ方向へシフトしつつある。デジタルメディアの媒体の保存については他稿に譲り,本稿では,あくまでも「主に紙媒体の資料の生物被害の対策」という点に的を絞り,保存環境とIPM(総合的有害生物管理)について述べる。
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