電子書籍の登場と普及が,印刷技術と物流,物販を基本構造とした産業構造に変革を迫っていることは疑いもない。同時に出版物が担ってきた重要な役割である学術情報の流通や文化的蓄積にも影響を与え,ひいては図書館のあり方や制度設計も変わらざるを得ない。
本稿の目的は,普及が進まないと指摘される電子書籍の現状について解説し,さらに図書館サービスに及ぼす影響や求められる対応について検討することにある。
電子書籍がビジネス競争の単なる道具として利用されるのではなく,学術と文化の発展に寄与するためにどのような方策をとるべきか。現状分析により課題を明らかにし,その上で目指すべきあり方を検討する。
ICTが高い利便性を持つことは疑いない。しかし,学術サーキュレーションの電子化が,教育・研究に負の効果をもたらすという研究もあるように,必ずしも,ICTは,光明ばかりを与えてくれないことを,我々は意識すべきである。その上で,電子化の限界や問題点をどう補完するか,どんな性格のものであればICTが効果を発揮するのかという問題意識のもとに,研究内容や成果発表の目的に応じてメディアを仕分け,コスト/効果,採算性も見極めつつ,学術成果公開にICTを導入すべきである。
本稿では,京都大学学術出版会におけるリッチコンテンツ型電子書籍の実験的取り組み,特にiPadアプリ型電子書籍『わくわく理学』の経験をもとに,学術書籍の電子化の持つ問題点と当面の課題について,具体的に考える。
慶應義塾大学メディアセンターでは2016年2月にディスカバリーサービスである,Primo Centralを導入した。本稿では,ディスカバリーサービス導入までの過程と運用開始後の電子書籍検索への活用事例について述べる。本学の資料検索システムであるKOSMOSにて大規模電子書籍コレクションの収録タイトルを検索できるようにすることを目的にディスカバリーの導入を進めてきた。サービス開始後はディスカバリーを用いた資料検索により,DDA(Demand-Driven Acquisitions)による資料購入や試読のアクセス状況に基づいた選書などの新しい業務の流れも生まれている状況である。今後,業務面では新たな資料購入フローに伴う購入決定判断の変化,システム面ではディスカバリーに搭載されるメタデータの質や新刊タイトル搭載の即時性やソート順などが課題となる。
米国では電子資料の増加にともない大学図書館の役割が,蔵書構築から学習スペースの提供や更なる学習支援に転換してきている。私たちは電子書籍の増加が図書館サービスの転換を促し,利用者支援を向上させると期待してきた。しかしここ数年の電子書籍を取巻く環境は,私たちが予想していたものとは違うようだ。学生はいまだ紙書籍を好み,電子書籍の読み辛さは改善されず,大学図書館の電子書籍購入予算は減少している。本稿ではその問題と原因を2つの最新の全米調査報告書から探り,大学図書館で電子書籍サービスを支える職員たちの取り組みを報告する。最後に日本語電子書籍への要望を添える。
2011年に「図書館法」が改正された際,公共図書館が収集するべき資料の種別に電子的資料を含めることが明記された。しかしながら,平成27年度の文部科学省委託調査によれば,電子化資料を利用者に提供している図書館は日本全国で約16%であった。さらに,米国では90%以上の図書館が実施している電子書籍サービスについては,日本では,54自治体の図書館が提供するに止まっている。そこで本稿では,(1)出版界と図書館界との関係,(2)都道府県立図書館の役割という二つの観点から,公共図書館に電子書籍サービスを導入することの意義と効果について論じた。
Europeana Newspapersは欧州委員会のプロジェクトで,12ヵ国,17機関が参加した。1800万ページの新聞紙面をデジタル化,そのうち1000万ページは全文検索可能である。さらにそのうち200万ページは記事のレイアウトが解析済みで,中には名称要素が抽出されている記事もある。このデータベースの内容,用いられている技術,メタデータの構造,検索例などを示した。