8月号の特集は「図書館の人材育成」 がテーマです。今回の特集では,国内における図書館の人材育成に絞った内容をお届けします。人材育成に関する話題は,近代化以降,現在に至るまで,永遠のテーマとなっているのは読者の皆様もご承知のことと思います。「グローバル人材育成 推進会議」が政府により設置され,検討がなされていたことは記憶に新しいのではないでしょうか。 その時代時代の要請にあわせて,人材を育てていく必要に迫られ,その要請にあった人材をどう育てていくのかということを日々検討し続けていかなければならない時代となっているように思います。翻って国内の図書館の人材育成については,各方面の団体や協会などにより新しい技術やその活用方法などの研修が行われ努力を続けてはいます。ただ職員の雇用形態の変化や財政的な問題で参加すること事態が難しくなっているという要素もあります。
このような問題意識から,今回は人材育成に関する特集を組むことにしました。
総論では,首都大学東京の理事の吉武氏に組織設計と人事管理の重要性をふまえ,大学において専門性の高い職員が一層求められるようになりつつある中で,図書館員の育成どうあるべきかについてご執筆をいただきました。慶應義塾大学の関氏には,慶應義塾大学で継続して実施されている図書館職員の海外研修について執筆いただきました。角田氏,長塚氏,原田氏には,鶴見大学で行われています図書館員のリカレント教育について,実際の例を交えながら,意義や課題についてご執筆をいただきました。株式会社エムエムツインズの田邊氏には,現在までの経験や活動をふまえて,インフォプロとして図書館員はどう立ち向かうべきか。どのようなスキルが必要とされるのかなど,人材育成に関する提言をいただきました。
最後に,コラムとして長年現場において目録,レファレンスを担当されたお二人から人材育成をテーマにご執筆をいただきました。目録についてはNPO法人大学図書館支援機構の高野氏,レファレンスを元関東学院大学図書館の高梨氏にお願いをしました。
本特集が,図書館の人材育成を考える上で参考になれば幸いです。
大学は改革を求められ続け,近年その圧力はさらに高まる傾向にあるが,それによって大学はより良い方向に向かっているのだろうか。このような問題意識に基づき,改革の実効性を高めるために,組織設計と人事管理の2つの要素が重要であることを指摘した上で,大学職員の育成の在り方を考える上での視点を提起する。さらに,大学において専門性の高い職員がより一層求められるようになりつつある中で,専門的職員の先駆けともいえる図書館職員の育成はどうあるべきか,その課題について検討する。
日本の大学図書館においては,図書館員を一定期間海外の図書館に派遣する滞在型の海外研修が人材育成の手段として一つとして実施されている。本稿では,図書館員の海外研修派遣の事例として,慶應義塾大学メディアセンターが長年に渡って実施している派遣の実績を紹介する。また,派遣を調整する立場からの視点で,海外研修の実施に当たって重視すべき要素として,研修者の人選,英語力の強化,研修先機関との互恵関係への配慮,経費補助のための財源確保に焦点を当て,慶應義塾大学の実状に触れながら,それぞれの重要性について述べる。
鶴見大学が2015年9月より開講している履修証明プログラム図書館員リカレント教育コースは,司書資格を有する現職の図書館員のために最新の知識や技術を学習するプログラムである。図書館員に対する研修は,国立国会図書館や日本図書館協会における研修があり,一部の大学でもリカレント教育が実施されているが十分とはいえない。本学では春季(4月~7月)と秋季(9月~2月)に各6科目ないし7科目を履修できるように開講している。6科目の単位取得が認められると計120時間になり,文部科学省が推奨する履修証明制度の条件を満たし,本学学長名の履修証明書(専門司書)を取得できる。授業は火・木曜日の夜間と土曜日の午後に行い,4名の教員が担当している。開講して2年が経過するが,現職の図書館員への教育プログラムをさらに浸透させてゆくためにはその内容をさらに見直し拡充することが必要と思われる。
“一億総キュレーター時代”とも呼ばれるこの人工知能時代に,インフォプロとして図書館員はどう立ち向かうべきか。どのようなスキルが必要とされるのか。上司はいかにリーダーシップを発揮し,部下はいかにフォロワーシップを発揮するか。「KY」か「忖度」か。ワクワクするような人材育成法はないものか。現状を一瞬で変える魔法の杖はないが,イノベーションを起こすきっかけなら作れる。イノベーションとは創造的破壊である。高速かつ並列なPDCAにより日々業務を改善し,時には大胆なスクラップ&ビルドも必要だ。これまでの人材育成の枠組みを創造的に破壊し,新たなフレームを創出しつつ日々実践しアップデートを繰り返して行くことが成功への近道である。