2018年2月の特集は「意匠権・商標権」です。
内閣の知的財産戦略本部が決定した「知的財産推進計画2017」によれば,知的財産は「企業・個人の経済活動や創造活動を支える礎」とされ,国際競争力の強化を図り,今後の繁栄を確保するための最重要課題,と謳われています。本協会の活動においても知的財産たる特許や著作権は非常に重要なトピックとなっており,本誌でも単独の記事のみならず特集テーマとしても度々取り上げてきました。しかしながら,私たちが知的財産として保護すべき権利はこれに留まらず,今回の特集テーマともなっています意匠権・商標権や,その他様々な法的権利が存在しています。今日におけるウェブの発展によって侵害の態様が複雑化している中,これらの様々な権利によって,何がどこまで法的に保護されるのか,の基礎を改めて確認しておくことは有益と思われます。
本特集では,上記のような特集趣旨のもと,6人の方々から論考をいただきました。
初めに,ユアサハラ法律特許事務所の青木博通様からは,意匠権・商標権の全体像として,法制度上の概要を詳細に解説いただきました。西村あさひ法律事務所の齊藤良平様からは,ブランドの意義やその活用戦略と,商標権・意匠権の活用による法的保護の具体的な手法についての論考をいただきました。独立行政法人工業所有権情報・研修館の宗裕一郎様からは,特許,実用新案,意匠及び商標等の産業財産権関連の工業所有権公報等を無料で検索・照会可能なデータベースである,J-PlatPatの使い方を詳述いただきました。株式会社マークアイの中村哲様,大井麻美様からは,商標調査の実態と,調査活動に資する商標データベースに関する詳細な紹介をいただきました。持田製薬株式会社の石川浩様からは,現場における豊富な知財教育の経験に基づいた論考をいただきました
いずれの方々からも,実務のご経験を背景にした極めて実践的な内容をご執筆いただいており,本特集記事を通読することによって,意匠権・商標権に馴染みがない方々にとっては学び始めのステップとして,既に担当されている方々にとっては,知的財産権の体系を様々な角度から多角的に捉えることができるものと考えています。
本特集が,知的財産の保護の重要性をより深く理解し,私たち一人一人が意識を高めていくための一助となることを期待します。
(会誌編集担当委員:南山泰之(主査),長屋俊,田口忠祐,小山信弥)
意匠権と商標権の知的財産権における位置づけ,意匠の定義,意匠の登録要件,意匠権の範囲,商標の定義,商標の登録要件,商標権の範囲について解説し,意匠権,商標権,著作権の交錯とその調整について言及している。
ブランドと商標の違いはあるのか,あるとすればどのような違いがあるのか。ブランドはそれを通じて消費者が特定の企業や商品を特定できる点からすると,「企業や商品の特徴や性質(パーソナリティ)を示すものの総体」であるのに対し,商標はそれを構成する一要素である。ブランドを保護し,強化する目的は消費者と企業や商品を結びつけるコネクションを作り,結びつきを強めることによって価格や規模,技術以外の点で市場の優位性を得ることにある。本稿の後半ではその具体的な企業の取り組みと知的財産の関係について解説する。
本稿では,「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」及び「画像意匠公報検索支援ツール(Graphic Image Park)」による意匠検索の方法を紹介する。J-PlatPatは,意匠公報の検索,経過情報の照会等の機能を有する特許情報提供サービスである。キーワードや日本意匠分類等を入力することにより意匠公報を検索することができる。Graphic Image Parkは,画像意匠を含む意匠公報を効率的に検索するための支援ツールである。このツールに自分の画像デザインをドラッグ&ドロップするだけで,イメージマッチング技術による機械的な評価に基づいて,既存の登録意匠を共通の特徴をもつものから順に表示させることができる。
日本国内の商標については様々な書籍等も出版され,また特許庁やその関連組織,または弁理士事務所,地方自治体などからも多くの情報が発信されている。web検索などでも比較的容易に情報を得ることができる。対して海外商標調査や海外商標及びデータベースについて必要な情報を収集することは,それほど容易とはいえない。本稿では当社が多く扱う海外商標調査の概要について説明し,その中でどのように海外庁商標データベースが使われ,何に留意すべきかを簡単に述べたい。また重要な海外庁商標データベース,特筆すべき機能,注意すべき点などについても触れる。
「国民一人ひとりが知財人材」を国は目指している。知財教育についての国の取り組みを最初に紹介し,次いで,知財教育をする側,受ける側に共通の考え方・心構えを紹介する。目指すべき知財専門人材は,知財の創造・保護・活用を推進できる者ということになるが,その入口は知財に興味を持ち続け,知財マインドを醸成することから始まる。その後に,企業の知財部門で行われている教育の一部状況を紹介する。そこで,特許出願業務,調査業務,知財経営について触れる。出願と調査は車の両輪業務であり,知財経営は知財情報の再構築から始まる。