2019年初の特集は「インフォプロのキャリアパス」です。
インフォプロの「働き方」や「人材育成」というテーマは,弊誌でも度々特集を組んできており,近年では2016年12月号に「インフォプロの仕事術」,2017年8月号には「図書館の人材育成」について取り上げました。INFOSTA界隈では日常的に使われる言葉であり,インフォプロとはどういう人か,何らかのイメージをお持ちの方も多いと思います。しかしながら,インフォプロは「情報専門家:Information Specialist」とどう違うのでしょうか。また,客観的には何をもって「インフォプロになった」と言えるのでしょうか。INFOSTAでも度々シンポジウム等で議論を重ねておりますが,未だに統一的な見解は生まれていない,と言わざるを得ないようです。
しかしながら,Googleの登場,AI技術の進展などを背景に,従来までの検索技術者や図書館員などの役割が変容せざるを得ない中,「インフォプロ」を再定義しその専門性をもって情報を発信することは,今後もインフォプロであり続けるために急務と言えるのではないでしょうか。
このような問題意識のもと,今回の特集では従来の「インフォプロのような人」の枠組みだけではなく,より広範な「様々な情報専門職のキャリアパス」という視点から現在の「インフォプロ」の全体像を外延的に素描することを試みています。具体的には,背景の異なる5名の方々:1)サーチャー(アズテック株式会社 橋間渉氏),2)アナリスト(旭化成株式会社 和田玲子氏),3)システムベンダー(あるいはシステム・ライブラリアン)(株式会社ブレインテック 関乃里子氏),4)サブジェクト・ライブラリアン(ミシガン大学 横田カーター啓子氏),5)アーキビスト(アーカイブズ工房 松崎裕子氏),にご執筆をお願いし,ご自身や有識者,あるいは職場でのバラエティに富んだ経験を寄せていただいております。
さらに,本特集に合わせた特別企画として,INFOSTA三役による特別座談会の記録を掲載しています。「インフォプロ」について自由に思うことを述べていただいた本座談会は,INFOSTAが推し進めてきた「インフォプロ」の歴史を振り返り,現在を見つめるための一つの材料を提供するものと考えています。
本特集が,情報を取り扱う専門職の方々の相互理解や交流を促進し,ポジティブな未来を描くための議論の一助となることを期待します。
(会誌編集担当委員:南山泰之(主査),長屋俊,寺島久美子,光森奈美子,稲垣理美)
独立系調査会社のサーチャーとして求められる能力は,基本となる特許の情報検索能力のみならず,ヒアリング力や提案力など多岐に渡る。サーチャー育成にあたっては,段階的に経験を積んでもらい,周囲のサーチャーとディスカッションを行い,互いの考えの共有を図っていく。サーチャーのキャリアパスは一義的に決まるものではないと著者は考える。キャリアパスはサーチャー自身の強みを活かせるものが好ましい。クライアントや業界に求められるものが何であるかを捉え,鍛錬し,サーチャー自身がどの様なサーチャーになるのかを思い描く事が,サーチャーのキャリアとなり,組織の総合力に繋がって行く。
経営層からの要望やビッグデータ解析ツールの高度化により,知財業界で「IPランドスケープ」が盛り上がりを見せている。IPランドスケープは,知財解析を経営判断に活かすものであり,知財解析を実行する人材としての知財アナリストの育成は急務である。本稿では,IPランドスケープ実施に際し,知財アナリストの育成に直面した筆者が,特許サーチャーのキャリアパスを参考にしながら検討した,知財アナリストのキャリアパスについて述べる。具体的には,見習い,一人前,熟達者の3段階にわけ,各レベルで必要となるスキル,その獲得時期や方法について言及する。
図書館システムの専門メーカーである株式会社ブレインテックでは,社員の4割が司書有資格者であり,30年以上にわたりシステム・ライブラリアンのいない多くの小規模図書館に対して「外付けシステム・ライブライアン」のような役割を果たしてきた。しかしそこに求められる専門性は,図書館を取り巻く情勢の変化に伴い変わってきている。我々が,「外付けシステム・ライブラリアン」としてこれからも図書館を支援し続けていくために必要とされるスキルや知識は,以前より多様で広範なものである。そうした力をもった人材を育成するための,当社における組織や役職制度,働き方,研修制度の改革を紹介する。
ITの発達によりあらゆる人が情報を発信することが容易になった。事実,フェイク,実物と識別が困難なディープフェイクが混在し,事実誤認も「違う形の事実alternative fact」とされ,また公文書の改竄が公然と行われる。自分の好む情報のみを取り入れる傾向が強まっている社会において,事実の記録・保存・提供という情報に携わる人々の仕事の重要性と社会責任はこれまでになく増しており,人文学司書の存在意義と役割は極めて重要になっている。
近現代の日本では官民を問わず,「活動の過程で作成あるいは受領した記録を管理する」という,固有の組織内機能,すなわちレコードキーピングに関わる機能の十分な発達が見られなかった。しかし,2009年に「公文書等の管理に関する法律」が制定されて以降,レコードキーピングに携わるアーキビストやレコード・マネージャーの職務に関する議論も進みつつある。本稿では公文書管理を専門とするアーキビスト,社会運動に関わる記録資料を管理するアーキビスト,レコード・マネジメントとアーカイブズ管理を対象とする独立コンサルタント,企業アーカイブズ振興に携わるアーキビストの4つの事例を紹介し,日本におけるアーキビストとレコード・マネージャーのキャリアパス形成の未来について展望する。
高齢化社会を迎えた日本においては,就労人口の減少や都市部と地方における地域格差など「人」を中心とした多くの課題がある。食料自給率の低い日本では一次産業は重要な産業であり従事する人の確保のために効率化や高収益化が求められている。近年の漁業においてはマグロなど養殖技術が検討され,高収益化を目指した新たな取り組みもされている。本稿では特許分析を中心とした情報分析を用いて今後の養殖において必要となる技術の推定を試みた。個体判別のための誘導や個体に傷をつけない捕獲技術なども必要であると推定された。