2020年11月号の特集は「DX時代の情報管理と法情報リテラシー」です。
近年,データの持つ価値が資産として強く認識されるにつれ,情報管理に関わる法制度の整備も急速に進みつつあります。それに伴い,情報管理業務もこれまで以上に複雑化しており,従来までの知的財産の保護という観点のみならず,データを積極的に利活用する視点が強調されるようになってきました。
しかしながら,従来インフォプロの業務とされてきた情報検索,情報管理業務を,どのように発展させていけばよいのか,どのような取り組みが求められるのか,については試行錯誤が繰り返されている段階と言えそうです。そこで,本特集では6名の専門家へご執筆をお願いし,具体例から関連する法制度を概観することで,今後のインフォプロ業務の方向性を考えるアプローチを企図しています。
まず初めに,インフォプロが法情報を調べ,読み解くために必要な知識と手法を振り返る観点から,岩隈道洋氏(中央大学国際情報学部)に法情報リテラシーに関する詳細なご解説をいただきました。続いて,市毛由美子氏,濱中利奈氏(のぞみ総合法律事務所)からは,令和2年4月より本格的に施行された民法改正の影響を踏まえ,アジャイル型ソフトウェア開発における契約の在り方について詳細な解説と実践事例をご紹介いただきました。佐藤有紀氏(創・佐藤法律事務所 丸の内オフィス),砂田有史氏(創・佐藤法律事務所)からは,昨今注目を集めている情報銀行の概要,及び導入に当たり事業者視点での注意点を詳細にまとめていただきました。中崎隆氏(中崎・佐藤法律事務所)からは,企業におけるデータ戦略の構築の重要性と,法務的観点から見た留意点や具体的事例をご紹介いただきました。
本特集が,情報管理における昨今の動向を把握し,今後インフォプロがどのように向き合っていくべきかを議論するための一助となることを期待します。
(会誌編集担当委員:南山泰之(主査),海老澤直美,今満亨崇,野村紀匡,水野澄子,中川紗央里)
法情報を的確に検索,収集するには,法制度の体系の概略と,法源(法学一次資料)という分野特有の情報源について知っておかないと,問題解決の方向性や根拠を見失ってしまう場合がある。しかし,法学を体系的に学習する機会がないとなかなかこの法体系や法源の仕組みを学ぶ機会というものは少ない。本項では,法学に親しんでいないが,法情報に触れることもあるインフォプロに向け,法体系と法情報の関係を掴むことができるような順序での導入解説と,アプローチしやすい法情報リソースの紹介に努めた。
本稿は,従来のウォーターフォール型ソフトウェア開発における契約の在り方と,これに対する平成29年改正後の民法(一部の規定を除き本年4月1日から施行)の影響,そしてそれを踏まえて,昨今注目されている非ウォーターフォール型の典型であるアジャイル型ソフトウェア開発における契約の在り方について報告するものである。2020年は,新型コロナ禍で変容する社会,その中で企業が持続的に存在価値を実現するためには,環境変化に強いこと,すなわち環境に応じて「変革し続ける」ことが求められ,DX(デジタルトランスフォーメーション)が競争力の源泉たる経営課題として求められている。そこでは,ソフトウェア開発手法のみならず,その契約のあり方も変革が求められている。
近年,企業にとって情報,データは重要な資産となり,特に消費者をターゲットとする企業にとっては,購買履歴をはじめとする個人に関するデータを蓄積,分析し,マーケティングや広告にいかに活かしていくかが重要なテーマとなっている。このような中,個人の関与の下でデータ流通・活用を進めることにより,個人に関するデータの利活用と個人の権利・利益保護のバランスを図ることができる,情報銀行という制度が注目を集めている。そこで本稿では,情報銀行の概要と情報銀行から個人情報等を取得することを検討する事業者における注意点について概説したい。
従来,日本においてデータ戦略が語られる中で,法務の重要性に焦点があてられることは少なかった。しかし,データ戦略の基礎である顧客・取引関係者との信頼関係を構築するためには,法令等遵守が必要であり,法務的観点が重要となる。組織的目標を達成するためにデータを有効・適切に活用するためにも,法制度の調査・対応が不可欠である。また,データ戦略策定の前提としてデータを適切に管理するために,企業グループ単位で事後検証のための内部統制システムを構築する必要がある。データプロ業務等に従事する方々にとっても,データ戦略構築において法務部門との連携を強化するために,法務的観点に関する土地勘を持つことをお勧めする。