情報の科学と技術
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71 巻, 9 号
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特集:海外学術出版社の研究支援サービスの変化
  • 李 東真
    2021 年 71 巻 9 号 p. 385
    発行日: 2021/09/01
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー

    今月号の特集は,「海外学術出版社の研究支援サービスの変化」と題してお届けします。

    約20年の間,学術コミュニケーションは大きな変革を遂げました。近年でも,研究成果のドラスティックなオープンアクセス(以下,OA)化を求めるPlan Sの発表とcOAlition Sの発足は,学術界,出版業界に大きな衝撃を与えました。また,COVID-19パンデミックにより,研究成果(論文,研究データ,ソースコードなど)のオープン化,迅速な情報共有を目的としたプレプリントサービス,厳密かつ透明性の高い査読(ピアレビュー)などへの関心が以前にも増して高まったといえるでしょう。

    本特集では,学術コミュニケーションが絶え間なく発展する中で,学術出版社がそれらの動向をどのように捉え事業を展開してきたのかあるいは展開していくのか,当事者の視点からご解説いただきます。

    総論として,増田豊氏(ユサコ株式会社)に,国際STM出版社協会の活動から学術出版社の近年の動向をご説明いただきます。各論では,大手出版社の方々にOA,アナリティクス事業の拡大,新たな研究出版ソリューション,プレプリントサービスの動向についてご解説いただきます。

    Liz Ferguson氏およびBen Townsend氏(Wiley社)には,同社が新規OAジャーナルの創刊や既存ジャーナルのフルOA転換などを通じてOA出版へのニーズの高まりに対応してきたことをご紹介いただきつつ,コンソーシアムとの契約を事例に転換契約(Transformative Agreement)の仕組みやその影響力をご説明いただきます。

    高橋昭治氏(Elsevier社)には,同社がアナリティクス事業に注力することになったきっかけをご紹介いただいた後,研究力分析ツールを含めた同社の製品・技術面での進展,研究評価者などへの利用者の拡大,今後期待される研究支援のDX(デジタルトランスフォーメーション)への貢献の展望についてご解説いただきます。

    Taylor & Francis社傘下F1000 Research社のLiz Allen氏には,学術出版における最近の変化の要因とその影響,今後の動向をご考察いただいた後,研究・出版などに関わるステークホルダーの連携によって生まれる研究エコシステムおよびそのインパクトを最大化するF1000 Research社の研究出版ソリューションについてご説明いただきます。

    最後に,野村紀匡氏(Digital Science社)に,文献調査および動向分析によって得られたプレプリントサービスのビジネスモデル,プレプリント投稿数の推移,プレプリントサービス運営における課題などを示していただきます。

    読者のみなさまが,これからの学術コミュニケーションを展望するうえで,ご参考となれば幸いです。

    (会誌編集担当委員:李東真(主査),南雲修司,野村紀匡,光森奈美子)

  • 増田 豊
    2021 年 71 巻 9 号 p. 386-391
    発行日: 2021/09/01
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿では,学術コミュニケーションの中で信頼される学術成果を発信する役割を負っている学術出版社の近年の動向を,世界的な業界団体として存在感のある国際STM出版社協会の活動から考察する。具体的には,同機関が毎年発表する業界の動向予測「STM Trends」を現状俯瞰のための材料として取り上げ,利用認証のイニシアチブSeamlessAccessやフルテキストアクセスのGetFTR,AIなどへの取り組みも概説する。

  • Liz FERGUSON, Ben TOWNSEND
    2021 年 71 巻 9 号 p. 392-397
    発行日: 2021/09/01
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    現在,オープンアクセス(OA)は,全出版論文数のうち約30%を占め,STM(理工医学)出版全体を大きく上回る速度で成長している。その背景には,欧州を中心とするOA推進政策がある。その中で近年特に影響力を持ったのがcOAlition Sだが,そのポリシーには賛否がある。Wileyを含む各出版社は,新規OA誌の創刊,既存誌のフルOAへの転換(フリップ)などの方法を通じて,OA出版へのニーズの高まりに対応してきた。中でも近年普及が著しいtransitional agreement(転換契約・TA)について,Wileyが独Projekt DEALと結んだ契約などを例に,その仕組みや影響力を検討する。

  • 高橋 昭治
    2021 年 71 巻 9 号 p. 398-403
    発行日: 2021/09/01
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    エルゼビアは140年以上の歴史を持つ世界最大の学術出版社であるが,近年は情報分析企業の性格を強めてきている。その変化のきっかけは,2004年の抄録・引用文献データベースScopusの発表であった。当初Scopusは研究者と図書館員のための文献検索ツールとして設計されたが,高精度の著者・所属機関プロファイルの実装により,研究力分析のためにも使用されるようになった。本稿では,研究力分析ツールSciValをはじめとする製品・技術面での進展,研究評価者などへの利用者の拡大,そして今後期待される研究支援のデジタル・トランスフォーメーションへの貢献の展望について解説する。

  • Liz ALLEN
    2021 年 71 巻 9 号 p. 404-407
    発行日: 2021/09/01
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    学術出版システムは変革を遂げている。研究のオープンアクセス(OA)化を求めるポリシーや,研究を迅速に発見・アクセスでき,利用可能な形式やフォーマットで提供することへの需要が高まっていることを背景に,ほとんどの学術雑誌がデジタルソリューションを提供するために動いている。F1000などの多くの出版社は,単なるOAの提供に留まらず,知識へのアクセスと使用を民主化できる出版ソリューションの開発に取り組んでいる。本記事では,学術出版における最近の変化の要因とその影響を説明し,考えられる今後の動向について考察する。また,F1000を例として,出版社と研究システムにおけるその他の利害関係者(特に研究助成機関)との密接な連携がもたらすことができる,研究の使用,再利用,およびその影響の可能性を最大化する上で鍵となるイノベーションやカスタマイズされた研究出版ソリューションについて説明する。

  • 野村 紀匡
    2021 年 71 巻 9 号 p. 408-413
    発行日: 2021/09/01
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    J-STAGE Data

    昨今プレプリントへの関心が高まっており,その動向が注目されている。また様々なプレプリントサービスが開設され,そのビジネスモデルも多様である。本稿では文献データベースを用いてプレプリントの動向を分析する。またプレプリントサービスの運営母体別にそのビジネスモデルを調査する。分析の結果,プレプリント投稿数は年々増加しており,特に2016年以降,急激に増えていることが分かった。またプレプリントサービスの運営には相応のコストがかかり,持続的な運営基盤の確保が課題である。今後も増え続ける新規投稿を受け付け,安定したサービスを利用者に提供するために,より安定した運営基盤が求められる。

連載:情報科学技術に関する識別子 第17回
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