2022年10月号の特集は,「統計データの活用」と題してお届けします。
世の中の変化を知り,今後の展開を予測するためにまず参照すべきデータとして公的統計データがあり,国内においては総務省の「国勢調査」や同省と経済産業省がまとめる「経済センサス」がよく知られています。これらのデータは公的統計の「総合窓口e-Stat」等で検索できるようになっており,ビジネス,行政政策,研究等の様々な分野で役立つ情報です。データの偏りが比較的少なく,継続性もある重要な情報源です。
その一方で,従来の公的統計データは集計・公表に時間がかかり即時性が必要とされる政策,例えば今起こっている新型コロナウイルス禍への対応等には適さないことが明らかとなっています。この即時性の観点から注目されているのがオルタナティブデータとも言われる民間データです。カード決済履歴やスマートフォン位置情報等のリアルタイムの民間ビッグデータが政策現場等に急速に普及しています。
本特集では統計データを用いた調査・研究や,レファレンス事例等に触れ,統計データの種類やアクセス先等をご案内するとともに,公的統計データ,民間データ両者の長所・短所と,統計データのより良い活用方法等をご紹介いたします。
まず山澤成康氏(跡見学園女子大学)から総論として,公的統計の概要とそれを活用するための統計学をご説明いただくと共に,新型コロナウイルス感染拡大以降,重要になっているオルタナティブデータ(民間データ)についてもご解説いただきました。つづいて倉家洋介氏(国立国会図書館)からは,公的統計のみではなく民間統計等の検索窓口としても活用できる,国立国会図書館が提供している「リサーチ・ナビ」を利用した統計データの調べ方をご解説いただきました。
さらに公的統計データ,オルタナティブデータの活用事例と海外統計データの調べ方について3名の方々にご解説いただきました。
伊藤伸介氏(中央大学)からは,公的統計データの利用方法やそれらを活用した調査研究の成果についてご解説いただきました。水門善之氏(野村證券株式会社)からは,オルタナティブデータを用いた経済活動分析についてご解説いただきました。最後に上野佳恵氏(有限会社インフォナビ)からは,海外統計データの効率的な調べ方についてご説明いただきました。
本特集が情報やデータを扱うインフォプロの業務の参考になれば幸いです。
(会誌編集担当委員:海老澤直美(主査),安達修介,今満亨崇,野村紀匡)
統計とは,合理的決定を支援する強力なツールである。公的統計は,国や地方自治体が国民に提供するために作っている統計で,GDP統計や国勢調査など重要な統計は基幹統計として適切な運用がされるように統計法で定められている。公的統計はe-Statによって入手することができる。統計の分析法としては,記述統計や推測統計といった統計学が基本となる。さらに,被説明変数と説明変数の間に一定の関係を想定する回帰分析が重要だ。機械学習による分析も増えており,分類やクラスター分析などで使われている。新型コロナウイルス感染拡大以降は,コンピューター上に記録されたログデータなどを利用したオルタナティブデータも脚光を浴びている。
リサーチ・ナビの統計関連コンテンツでは,公的統計だけでなく,業界団体や民間企業が作成する統計が掲載された資料及びWebサイトも紹介しているため,幅広く統計を探す際の入口として活用できる。近年の統計はインターネットで探すことができるものが多いが,過去の統計は紙媒体の資料のみに掲載されている場合も多く,リサーチ・ナビで紹介している統計索引などの情報が役に立つ。リサーチ・ナビを使った統計データの探し方のコツは,検索機能のみに頼らず,「産業情報ガイド」など,統計に関連するコンテンツが多く含まれているカテゴリをブラウジングして探すことである。
本稿は,世帯の社会人口的属性だけでなく,家計の消費,所得,資産といった経済的属性の捕捉を指向した,わが国の代表的な公的統計調査である家計調査と全国家計構造調査(旧全国消費実態調査)を例に,家計消費の十大費目の実態を明らかにしている。本稿では,第1に,近年における十大費目の変化の動向,さらには貯蓄現在高や年間収入との関連性を明らかにした。第2に,全国消費実態調査のミクロデータの特性を生かしつつ,世帯類型と配偶者の就業選択の違いが世帯の消費の構成に与える影響についての実証分析に関する成果について述べた。
昨今,経済分析において,従来の経済統計を補完する形で,様々なデータを活用する流れが進んでいる。これらはオルタナティブデータと呼ばれ,高頻度の売上データや物流データ,携帯電話のGPSデータやクレジットカードの決済データ,更にはインターネット上のテキストデータや経済活動を物理的に観測した画像等のような非構造化データまで多岐にわたる。オルタナティブデータを使用するメリットは,その情報の豊富さに加え,速報性の高さも挙げられる。本稿では,日本経済を対象として,これまで著者らが行ってきた,製造業の生産活動や家計部門の消費行動に関する各種オルタナティブデータを用いた研究を紹介する。
世界各国においても,日本と同様,各種の統計調査が行われ,そのデータが公表されている。しかしながら,日本との対比や複数国間での比較を行う際には,国ごとの統計サイトを参照するのでは非効率であり,さらに国による調査頻度や調査方法,言語,通貨単位などの違いによって単純な比較が難しいことも多い。各国の基本的社会・経済データの入手においては,あらかじめ比較可能なデータを提供している国際連合やOECDなどの国際機関の統計ウェブサイトや,それらのデータを元とした日本の総務省統計局やジェトロが提供しているウェブサイトを参照し活用していくことが欠かせない。