今月はDXについて考えてみたいと思います。
皆様もご存じのように,いろいろな分野に広くDXが進められてきています。世の中の変革がコロナ渦の影響もあり急速に求められている現在,最近よく目にするDX(Digital Transformation)について何故求められているのか学術分野の状況を紹介しながら検証してみたいと思います。
Transformationは「変容」,DXを直訳すると「デジタルによる変容」とのことからデジタル技術を用いることで,生活やビジネスが変容して行くことを一般的に示します。DXに関する厳密な定義があるわけでないですが,経済産業省では,「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」を作成しています。
DXが広まっている分野は多岐にわたり,提供企業,利用企業,大学,教育機関,種々のご案内を頂戴する表題にも各種利用されています。例えば,営業DX,ファションDX,現場DX,製造DX,ペーパーレスからはじめるDX,経理DX,教育DX,DXの教科書,経営DX推進,計算物質科学とマテリアル(DX)などの表現がみられます。
これほど多くの分野を網羅して,急速に動きが見られるのも,珍しい事とも感じられます。コロナの影響もあり,早い速度で,ある意味全分野において急速に進められています。
今回は,その中から学術分野に特化して事例を集めてみました。
この記事のまとめ開始の頃からも速度が急速に増している事もご理解下さいませ。
これらを紹介し,さらに,これらを統合し,よりよい社会の実現に際し,将来の在り方を考察したい。
まずは森本康彦氏(東京学芸大学)に「教育DXによる学修者本位の教育の実現と学びの質向上の取組~eポートフォリオとラーニングアナリティクスによる学びの支援~」という標題で教育DXにより,高等教育における学修者の学びがどのようにチェンジし,機関はどう支援しようとしているかについて整理し,明らかにして下さいました。
つぎに竹内比呂也氏(千葉大学)「大学図書館のデジタル・トランスフォーメーションに向けて」という標題で大学図書館におけるこれまでのデジタル化,学術コミュニケーションの動向や教育研究のデジタル化の動向など踏まえながら,DXに向かう道筋を述べて下さいました。
さらに関口兼司氏(神戸大学)「大学医学部におけるDX」という標題にて,大学医学部では,大学病院として診療面で,大学院医学研究科として研究面で,医学部医学科として教育面で,それぞれコロナ禍の影響を著しく受け少なからずデジタル化の変化について述べて下さいました。
最後に山口滋氏(理化学研究所環境資源科学研究センター)「有機合成分野のDXは必要か?」という標題にて,医農薬品やプラスチック等,私たちの身の回りの化学品の多くは有機分子から作られている。目的の有機分子を作るために不可欠な手段として,有機合成がある。「DX」の潮流における触媒反応開発分野の変化と今後について概観して下さいました。
最近考えてしまいます。情報技術も発達し,また,人の知識,知恵の発見もDXという高度な概念まで至る状況ではありますが,一方で世界情勢に目を向ければ,武力や暴力で主義・主張を通そうとする,知性や論理,道徳を軽んじる動きが依然として存在しています。
研究や社会変容が進み,DXによりこの流れを何とか止められないかと思ってしまいます。人間の高い知識や叡智を駆使したいものです。
本特集が皆様のお役に立てましたら大変嬉しく存じます。
(会誌編集担当委員:水野澄子(主査),今満亨崇,青野正太,海老澤直美)
2020年,COVID-19の流行に伴い,多くの大学等でオンライン授業が実施され,文部科学省は翌年に,教育DXを推し進める一環として「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン(Plus-DX)」を打ち出した。本論文では,教育DXにより,高等教育における学修者の学びがどのようにチェンジしたのか,機関はどう支援しようとしているかについて整理し明らかにした。その結果,学修者の学びの記録であるeポートフォリオ/学習データをエビデンスとし,そのデータを教育AIで分析して可視化するラーニングアナリティクスを駆使することで,学修者の学びの支援を行い,そのための環境づくりを行っていることがわかった。
デジタル・トランスフォーメーション(DX)とは,単に既存の業務をデジタル技術によって実行するものに置き換えるのではなく,デジタル技術を用いることで,これまでの業務にかかる制度,組織,ビジネスモデル,文化等の変革を誘導するものと考えられている。本稿では,大学図書館におけるこれまでのデジタル化,学術コミュニケーションの動向や教育研究のデジタル化の動向など踏まえながら,DXに向かう道筋を,大学図書館機能を構成するコンテンツ,空間,人的支援の領域に分けて,デジタイゼーション,デジタライゼーション,DXという段階を踏まえて提示する。
大学医学部は,大学病院として診療面で,大学院医学研究科として研究面で,医学部医学科として教育面でそれぞれコロナ禍の影響を著しく受け,少なからずデジタル化が後押しされた。診療に関してはオンライン診療体制の導入の遅れが露呈されたが,ようやく素地が整った。研究面での遅れは少なかったものの,オンライン会議を除き研究環境のDXは進んでいない。医学部教育では公的な支援(Plus DX)をきっかけに,ハイブリッド講義室の整備や,VRやメタバースの活用など新しい教育手法の開発が進められた。今後医学教育はDXを進めて,増え続ける医学関連知識の習得を効率化し,直接対話による臨床教育の価値を再認識し実践していく必要がある。
医農薬品やプラスチック等,私たちの身の回りの化学品の多くは有機分子から作られている。目的の有機分子を作るために不可欠な手段として,有機合成がある。とくに分子と分子をつなげるための「触媒」の開発は有機合成のなかでも中心的な課題のひとつである。触媒開発をはじめとする有機合成分野の研究は人間の経験知に基づく試行錯誤で行われている。この試行錯誤をDXにより効率化しようという研究が近年盛んに行われている。しかし有機合成分野の「DX」は本当に必要であろうか?「DX」の潮流における触媒反応開発分野の変化と今後について概観する。
新たな発明と思われる発明についての明細書を書くためには,あるいは従来にない最先の技術であることの確認のためには,従来の発明についての調査をしてその技術分野の既存の特許の有無及びその内容について確かめることが有効な方法である。日本特許の調査の手法及び留意点については,多くの関係組織・部署からその関連の本が出版され,また講習会が開かれており,検索式作成の考え方,分類・キーワードの選定等について述べられている。しかしながら,どの項目を対象に調査を行ったらよいかについては,著者あるいは講師の経験に基づくものが多く,エビデンスに基づく説明はなされていないと思われる。本稿では,高分子の素材関連分野の特許約3.4万件について,非必須項目の出現頻度を公報種別別及び出願年別(2013年,2016年及び2019年)に調査した結果を示す。本稿のデータが,関連技術分野の特許調査を実施する方々の検索式を作成する上でのヒントとなれば幸いである。