「情報の科学と技術」誌は毎年7月号で,私たちINFOSTAパテントドキュメンテーション(PD)委員会が中心となって特許情報検索に関する特集を企画しお届けしております。
過去5年間の特許情報検索の特集内容を振り返ってみましたところ,「AI」が2回,「調査技術の進展」,「知財DX」,「IPランドスケープ」が各1回と,特許情報検索の新しい技術の解説やその活用方法の提案に重点が置かれておりました。もちろん,新技術の理解も大切ではありますが,これらの技術を搭載した特許データベース,検索システムそのものについて,日常的に使っている特許調査担当者自身が特徴を正しく理解できているかと問われると,自信をもって「はい」と言える方は少ないのではないでしょうか。
今回の特集では,今一度最初に立ち返って特許データベース,検索システムに関して深く知ることをテーマといたしました。具体的にはPD委員会内,および特許調査担当者が集ういくつかの研究会で集めた声を基に,国内で利用者数が多いと判断した6つの特許データベース,検索システムを選択し,各ベンダー様に執筆をお願いいたしました。
(掲載順)
1.Shareresearch(日立製作所様)
2.PatentSQUARE(パナソニックソリューションテクノロジー様)
3.Derwent Innovation(クラリベイト・アナリティクス・ジャパン様)
4.Orbit Intelligence(Questel(サイバーパテント)様)
5.PatBase(RWSグループ様)
6.PatentSight(レクシスネクシス様)
各ベンダー様には以下の共通の章立てを提示させていただきました。同じ土俵で機能を紹介いただくことで,各特許データベース,検索システムの特徴がより浮き彫りになったと考えております。
a) 分析機能
b) マップ作成・描画機能
c) 特許価値評価機能
d) AI技術を用いた検索機能(キーワード提案や特許分類提案等の検索支援機能も含む)
e) 概念検索機能
f) 特許検索システムとメタバース(例:コミュニケーションの場としてなど)の将来的な連携についてのお考え
さらに今回の企画の目玉として,ユーザーの声を積極的に紹介していただくようにいたしました。それぞれの特許データベース,検索システムに対するユーザーの意見は,各ツールを使って検索されている読者の皆様にも必ずや参考になるものと考えております。
今回の特集が読者の皆様のお役に立つことを期待して巻頭言とさせていただきます。
最後になりましたが,お忙しい中,パテントドキュメンテーション委員会の難しい要求に応えていただいた各ベンダーの執筆者の皆様に御礼申し上げます。
INFOSTAパテントドキュメンテーション委員会
株式会社日立製作所が提供する特許情報提供サービス「Shareresearch」は,世界98の国と地域の高精度な特許情報をサポートし,精度の高い調査環境を提供する。Shareresearchでは,特許調査の効率化を支援するさまざまな機能を備えており,本稿では,概念検索,AI技術を用いた検索機能,特許価値評価機能,プロジェクト共有機能,分析機能,マップ作成・描画機能など代表的な機能を紹介する。また,難易度の高い特許分析を専門スキルがない方でも効率的に実施可能とする特許情報分析サービスについても紹介する。これらのサービスにより,昨今企業において重要性が高まっている知財戦略の策定を支援し,競争力強化に貢献する。
パナソニック ソリューションテクノロジーが提供する「PatentSQUARE」は,パナソニックの調査ノウハウをシステム化した,国内・外国特許情報の検索サービスである。特許情報の検索だけではなくユーザー間での情報共有や分析などの機能を有し,特許調査をワンストップで行うためサービスを提供している。本稿では特許情報の分析に有効なマップ描画・独自スコアによる分析機能や,AI技術を用いた検索機能・評価情報の自動分類機能の活用によって,知財/技術部門における特許調査業務の効率化・高度化に貢献するサービス内容について紹介する。
Clarivateは,60年を超える歴史を有する特許コンテンツDerwent World Patents Index™(DWPI™)等を擁しており,様々な角度でデータをキュレーションできるシステムを構築維持している。DWPIは,独自の特許ファミリー,構造化された抄録,幅広い化学索引等を有しており,付加価値特許コンテンツとしては世界最大級である。長年検索や分析に活用されており,今後AI技術との融合によりさらなる相乗効果が期待される。このDWPIを現在最も包括的に活用できる特許情報プラットフォームDerwent Innovation™(DI)を中心に,コンテンツを活かしたAI機能と検索・分析機能やClarivateの取り組みについて紹介していく。
グローバル特許データベースOrbit Intelligenceについて,特許の分析機能や評価機能とAI技術を使用した検索機能や概念検索機能,さらに情報共有機能についてもユーザーの声とともに紹介した。その他,Orbit Intelligenceに搭載されている自動レポート機能や他のツールとの連携機能についても併せて紹介した。特許情報が検索によって抽出されリストとしてのみ参照するのではなく,グラフィカルに確認することで新しい発見や共有の促進などが行われると考えられるので,ツールの機能としてグラフ化や共有機能が備わっていることが特許情報の利用促進につながり,結果として必要な情報の選択が効率よく行われる。
PatBaseは特許調査,知財翻訳会社であるRWSグループとソフトウェア開発をおこなっているMinesoft社の2社が全世界の知財情報を網羅的に検索できるファミリーデータベースとして共同開発したワールドワイドな海外特許データベースである。様々な機能を持ち合わせ検索,調査,分析ツールとして用途に応じた使い方ができるため世界各国で幅広い層に利用されている。英国発の海外特許データベースということを踏まえ,日本のユーザーの立場に立った時PatBaseはどのような振る舞いで日頃の業務に活用できるのか,またPatBaseの課題と期待することは何か日本ユーザーの声を交えながら紹介する。
本稿では,LexisNexis Intellectual Property Solutionsが提供する特許情報分析ソリューションPatentSightについて,その開発コンセプト,独自の価値指標,各種機能,分析事例などを紹介する。企業の経営戦略を技術的側面から検討する際に,特許情報は重要な役割を果たす。学術研究によって開発されたPatentSight の客観的な指標を用い,特許分析から得られた情報をどのように戦略的な意思決定に活用できるかを紹介する。また,PatentSightのユーザーによる分析結果と得られた知見についても紹介する。
本稿は,社会問題を明らかにする手法の一つである「探査報道の手法」を用いた調査と情報開示請求を報告する。少子化対策をテーマとして,過去の研究論文調査を行い,民間や国の少子化対策研究の現状と動向を把握した。そして国の施策は対策大綱を調査し,そこに明らかにされていない情報を想定して「情報開示請求権」を用いて行政文書の開示を請求した。ここで実践した探査報道の手法は,情報専門家の情報への眼力,緻密性,分析・解析力が必要とされる興味深い手法といえる。今後インフォプロにとって,社会問題をテーマとする探査報道の調査分野にも活躍の場が広がることを確信した。