情報の科学と技術
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74 巻, 8 号
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特集:今日の生成AI技術の動向について
  • 野村 周平
    2024 年 74 巻 8 号 p. 291
    発行日: 2024/08/01
    公開日: 2024/08/01
    ジャーナル フリー

    2024年8月号では,生成AI技術についての特集を企画しました。2022年11月30日に公開された“ChatGPT”を始めとした生成AIは社会において急速にその存在感を高め,日々大きな変化をしております。本特集記事を企画し,記事を執筆していただき,こうして出版に至るまでの間にもChatGTP-4oの無料公開やAppleが自社製品にオンデバイスAIを組み込むことを発表する等の大きな変化があり,皆様の前にこの前書きが公開されている時分には更なる技術革新が公開・発表されているかもしれません。

    そのため本特集は,めまぐるしい速度で進化する技術的な部分についてはあまり深く立ち入らず,生成AIという技術が2024年時点でどのように現場の実務において活用されたか,そして今後の社会でどのように取り入れられるのかを主な焦点としております。

    総論となる生成AI技術の概要については黒橋 禎夫氏にご執筆いただきました。生成AI技術とデータのオープン化の関係について論じていただいております。併せて,氏が主宰を務めるLLM-jpという勉強会の活動状況についても共有していただきました。

    現場における生成AIの活用状況については,大学教育・初等中等教育・図書館においての事例をそれぞれ取り上げております。大学教育現場における生成AIの利用について,原田 隆史氏にご執筆いただきました。大学生の生成AI利用の実態調査や大学側が定めた生成AI利用方針に基づいて,高等教育における生成AI活用の可能性と課題について論じられております。多くの調査において「レポートや論文を作成する際に生成AIを利用する」という学生の回答が見受けられる一方,教員側の支援として生成AIを利用することについても検討がなされております。初等中等教育現場における生成AIの活用状況については,鈴木 秀樹氏にご執筆いただきました。東京学芸大学附属小金井小学校の4年生・5年生を対象にした授業において,「教師が生成AIを操作し,その結果を児童に共有する形での実践」と,「児童自ら生成AIを操作させる実践」のそれぞれで得られた知見について共有していただいております。図書館現場における生成AIの活用状況については,2023年6月にChatGPT plusを導入した山中湖情報創造館において当時館長を勤められていた丸山 高弘氏にご執筆いただきました。本稿では,レファレンスサービスや広報,企画立案にあたって生成AIを利用した経験を語っていただいております。

    今後の社会にどのように生成AIが取り入れられるのかについて,鈴木 寛氏にご執筆いただきました。生成AI技術が政策ガバナンスに与える影響,生成AI技術が公のセクタに取り入れられた際の将来的な展望が論じられております。そして生成AI技術が社会に受容されていく中で,当該技術が抱える懸念事項に対する日本国の法的・社会的な課題については,出井 甫氏にご執筆いただきました。生成AIと著作権法を中心に,2024年上半期時点で明確となっている法解釈とこれから検討すべき課題について示していただきました。

    繰り返しになりますが,生成AI技術の進展は著しいものです。この技術によって,プラスにせよマイナスにせよ,人間社会が影響を受けることは避けられないでしょう。そこで本特集が読者の皆様に,これから生成AIという技術にどのように向き合うべきかを考えるための材料になれば幸いです。

    (会誌編集担当委員:野村周平(主査),青野正太,今満亨崇,水野澄子,村田祐菜)

  • 黒橋 禎夫
    2024 年 74 巻 8 号 p. 292-297
    発行日: 2024/08/01
    公開日: 2024/08/01
    ジャーナル 認証あり

    現代社会は環境問題,格差問題,地域紛争など,複雑かつ相互に関連する課題に直面している。このような状況を打開するためには,我々の根本的な考え方を競争から共創へ,クローズドからオープンへと変えていく必要がある。その具体的な第一歩はオープンデータの促進である。オープンな考え方は,昨今の進展著しい生成AIの学習において重要であり,また,オープンな取り組みによって生成AIの開発が健全化され,人間とAIの共存社会のよりよい設計が可能となる。本稿では,まず生成AI技術の現状と課題を概観し,続いて,オープンデータの重要性と生成AIとの関係を議論する。最後に,オープンな大規模言語モデルの構築を目指す活動LLM-jpを紹介する。

  • 原田 隆史
    2024 年 74 巻 8 号 p. 298-303
    発行日: 2024/08/01
    公開日: 2024/08/01
    ジャーナル 認証あり

    生成AIは大学教育において,学生自身の学習における情報の収集と集約,翻訳などにかかる時間の短縮,さらに教員が行う授業設計,教材作成,試験問題の生成,学生対応など,広範な用途に活用されはじめている。これにより学生の状況に応じた情報の提供や,迅速で的確な対応なども可能となり学習の効率化と質の向上が期待される。しかし,生成AIの利用には誤情報や幻覚の発生,著作権侵害,個人情報漏洩,学習評価の公平性の問題などの課題も存在する。このため,多くの大学が生成AIの利用に関するガイドラインを策定して倫理的な利用と適切な評価方法の確立を進めている。生成AIの教育への利用はまだ端緒についた段階であり,今後の発達と継続的な検討を期待したい。

  • 鈴木 秀樹
    2024 年 74 巻 8 号 p. 304-309
    発行日: 2024/08/01
    公開日: 2024/08/01
    ジャーナル 認証あり

    本稿は,初等中等教育における生成AI技術の活用についての最新動向を紹介する。小学校では,13歳未満の児童が直接生成AIを操作できないため,教師がAIを操作してその結果を共有する形式が一般的である。一方,中学・高校では保護者の同意があれば生徒が直接操作可能である。具体的な授業実践として,国語や図工の授業でのAI活用事例を挙げ,児童がAIの出力を評価し,改善するプロセスを通じて学習目標を達成する方法を探った。また,児童が自ら生成AIを操作する実践についても紹介し,その教育的意義と問題点を論じる。AI技術の進展に伴い,教育現場における生成AIの役割は増大しているが,学校や教師の役割も依然として重要である。

  • 丸山 高弘
    2024 年 74 巻 8 号 p. 310-314
    発行日: 2024/08/01
    公開日: 2024/08/01
    ジャーナル 認証あり

    2023年6月,山中湖情報創造館では,図書館サービス向上のためChatGPTの導入を開始しました。無料版の試験的利用を経て,有料版の契約を決定。レファレンスサービスやイベント台本作成,広報用画像生成などで活用しました。導入に際してはプライバシー保護,コンテンツの適切性,技術要件など多方面での注意が必要です。今後,アバターライブラリアンやメタバース図書館の登場など,AI技術の更なる発展が期待されます。

  • 鈴木 寛
    2024 年 74 巻 8 号 p. 315-320
    発行日: 2024/08/01
    公開日: 2024/08/01
    ジャーナル 認証あり

    本稿は,生成AI技術が政策ガバナンスに与える影響について論じている。特に,生成AIが政策形成プロセスをいかに変革し得るかを検討し,従来のリニアな政策形成から脱却し,ループ型の柔軟なプロセスへの移行の可能性を提案する。また,生成AIが市民や現場当事者とのインタラクティブな対話を促進し,感情を含む多様な意見を取り入れることで,政策の実効性と共感を高める可能性についても言及している。さらに,高齢者を含む多様な層へのリテラシー支援の重要性にも触れ,代行者や支援者といったリスク対処体制の必要性を強調している。

  • 出井 甫
    2024 年 74 巻 8 号 p. 321-326
    発行日: 2024/08/01
    公開日: 2024/08/01
    ジャーナル 認証あり

    2017年3月,内閣府知的財産戦略本部は,生成AIが著作権法等との関係で新たな問題を生じさせ得ることから,想定される論点とその考え方を整理した。もっとも,生成AIの実用例が乏しかったこともあり,当時は,具体的な検討は今後のAI技術の変化等を踏まえて行うこととされた。あれから約7年が経過し,事態は大きく変化している。生成AIが急速に浸透し,我々の生活にメリットをもたらす一方で,不安や懸念も生じさせている。そこで本稿では,改めて,生成AIと著作権法等に関する課題について分析し,対応の方向性について検討する。

連載:続・オープンサイエンスのいま 第2回
原著論文
  • 松野 広一
    2024 年 74 巻 8 号 p. 331-338
    発行日: 2024/08/01
    公開日: 2024/08/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では,開放特許情報データベースに登録された大学等の特許を対象に,その活用の実績と特許の革新性や重要性との関係について,実証的な分析を試みた。全体的な結果として,重要性の高さは,特許の活用に統計的に有意に正の影響を及ぼすことが示唆された一方,革新性の高さは,特許の活用に統計的に有意に負の影響を及ぼしているとまではいえないが,活用にうまく結び付かない可能性があることが示唆された。この結果は,大学等の革新性の高い特許が埋もれている状況を示唆しており,大学発のスタートアップ企業が少ない現状と整合的である。よって,大学等の革新性の高い特許を活用するための仕組み等を整備することが重要であると考えられる。

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