図書館では,蔵書検索端末,インターネット等利用パソコン,RFIDタグによるセルフ貸出機や予約受取棚,メイカースペースの3Dプリンターなど,多様な機器を利用者に提供します。さらに,職員向けのOA機器,OPACやデジタルアーカイブなどのオンラインサービスを含め,安定的な運用のために,それらを支えるネットワーク基盤を構築し,セキュリティ対策を講じています。しかし,不特定多数が利用することから厳しいリスク管理が求められ,その結果,利用者にとっては制約が多く不便な施設になっているかもしれません。
また,職員が複雑化・高度化するITインフラについて理解を深め,時代の変化に合わせて制度や運用を変えていくことが理想的ですが,専任職員を配置する図書館は少なく,関係部署やベンダーと協力しながら,限られたリソースの中で手探りの対応を進めている現状もあります。
そこで,本特集では,安全性と利便性のバランスをどのように考えて,図書館のITインフラを整備・提供していくのか,事例を踏まえながら検討していただきました。
まず,八洲学園大学の原田隆史氏には,ITインフラを利用者向け,職員向け,基盤構造に分類し,セキュリティ上のジレンマと対応策を整理していただきました。セキュリティインシデントの要因やその対応を踏まえ,信頼される情報空間であり続けるための未来の図書館像を提示されています。東邦大学の金岡晃氏には,ユーザブルセキュリティ/ユーザブルプライバシの観点から,来館利用に焦点を当てた機器の設計原則・実装・評価を論じていただきました。
次に,実践報告として,白河市立図書館~りぶらん~の鹿内祐樹氏に,ベンダー変更を伴うシステム更新やDX事業によって,利用者向けITインフラの課題を解決してきた経緯と,現在の構成及び運用をご紹介いただいています。日本貿易振興機構アジア経済研究所図書館の今満亨崇氏には,WebサイトCMS基盤のパブリッククラウド移行,デジタルアーカイブの静的Webサイト化,ゼロトラスト環境下での電子ジャーナル提供,利用者用パソコンの設定の強化などの取り組みをご報告いただきました。
また,図書館システムベンダーとして運用・保守を支援する立場から,NECソリューションイノベータ株式会社の斎藤圭氏には,利便性及び安全性の向上と図書館職員の業務効率化を実現するためのRFIDを活用した機器や図書館アプリによるサービスのセルフ化推進の取り組みをご紹介いただきました。株式会社ブレインテックの赤枝幸子氏には,セキュリティリスクを抑えるための小規模図書館におけるシステム運用の創意工夫の事例をご紹介いただきました。
最後に,慶應義塾大学メディアセンター本部の五十嵐健一氏には,1980年代以降の論文の比較分析から,システムライブラリアンに求められる本質的スキルと時代に応じて変化してきたスキルを明らかにしたうえで,それらの獲得及び育成方法を示していただきました。
図書館におけるITインフラの構築・運用を検討するうえで,本特集がその一助となれば幸いです。
(会誌編集担当委員:森口歩(主査),田嶋尚晴,田野倉知士,渡辺麻子)
本稿は,図書館のITインフラを「利用者向け」「職員向け」「基盤的ITインフラ」の三層で捉え,安全性と利便性の両立という観点からセキュリティを再定義する。公共性・匿名性・多様性を併せ持つ図書館は,クラウドや生成AIの活用が進む一方,情報漏洩・不正アクセスのリスクが増大し,従来の設計では対応が難しい。各層のジレンマと対応策を整理し,人的要因・判断体制・責任分界の不備が技術以上に信頼を損なうことを指摘するとともに,履歴情報管理とアクセス制御,クラウド/生成AIの運用において,セキュリティを制限ではなく説明可能性と信頼性に基づく制度として位置づけ,社会的期待と技術変化に応じて継続的に更新すべきことを提案する。
図書館のITは,利用者の知る自由とプライバシを守りつつ利便性を提供する必要がある。本稿は,セキュリティとプライバシの論点を整理し,「誰にとってのユーザブルか」を明確化した上で,一般利用者に焦点を当てた設計原則と具体的な対策を示す。OPAC,セルフ貸出,一般利用PC,印刷・通知,来館者用無線LAN,メーカーズスペース等の各利用場面で,必要となる前提知識がゼロでも安全に使える実装パターンと運用・評価の要点を提示する。
白河市立図書館~りぶらん~では2011年のリニューアル開館時の図書館システム導入後,2018年度,2023年度のシステム更新を経て,セキュリティの確保と利用者の利便性向上の両立を追求してきた。本稿では,これまでのシステム更新や現場での運用による実践を中心に報告する。主要な取り組みとして,館内の各ネットワークの物理的分離によりシステムの安定稼働を実現した。利用者向けPC環境では,環境復元ソフトの導入により個人情報を保護しつつ,オフィスソフトの利用と印刷も可能な多機能PCや,インターネット閲覧PC,データベース検索PCを用途別に提供している。あわせて,2024年度に実施した併設会議室のDX事業で導入した機器についても紹介する。
図書館職員は図書館を時代に合った情報拠点たらしめるために日々奮闘している。情報技術の進展に合わせて,アジア経済研究所図書館のサービスも変化してきた。本稿では,研究所webサイトのパブリッククラウド移行,デジタルアーカイブの静的webサイト化,ゼロトラスト環境下での電子ジャーナル提供,統合図書館システムのSaaS型への移行,利用者用PCの設定の強化について,安全性と利便性の変化の観点から紹介する。
図書館の運用保守においては,「職員の業務効率化」と「利用者の利便性向上」の両立が重要であり,利用者のセルフ化推進が今後の図書館運営に不可欠であると考える。RFID(Radio Frequency Identification)関連機器や予約受取ロッカーなどの導入によりセルフ化は進展する。さらにセルフ化を進めるにあたっては,図書館内に機器を増やすだけではなく利用者自身のスマートフォンを活用する図書館アプリの導入・普及することが重要であると考えた。本稿ではRFIDを中心とした図書館のトレンドと今後につながるセルフ化の取り組みやその導入効果や今後の展望について紹介する。

研究データ管理とは,研究活動で得られる情報を適切に取り扱うことである。近年,研究者や研究グループに委ねられてきた研究データ管理を,大学が提供する研究データ基盤の下で組織的に推進することが課題となっている。研究データ基盤には,ストレージや認証などの情報基盤に加え,データ取扱いに関するルールやガイドラインが含まれる。大学の研究データガバナンスとは,こうした基盤を大学が整備し,構成員がこれを活用・遵守する仕組みを指し,その確立は研究の安全性・効率の向上や研究力強化に直結する。本稿では,推進体制の整備,データポリシーの策定,ガイドラインの運用といった具体的取組を,名古屋大学の事例を中心に紹介する。
本稿は,2026年7月に開館を目指すセオドア・ローズヴェルト大統領図書館に着目し,以下3つの問いについて考察したものである。すなわち,なぜ大統領の退任から100年以上経た現在に開館準備が進められているのか,なぜノースダコタ州メドゥーラの地が選ばれたのか,そして同館の特徴とは何かである。そこで第2章では,ローズヴェルトとノースダコタ州との浅からぬ関係を示した上で,大統領図書館の設立構想が同州ディキンソン市にて誕生したものの,現在のメドゥーラの地へ変更された要因とその経緯を明らかにした。第3章では,同館が国立公文書記録管理局(NARA)の管轄外の施設であること,アーカイブ機能を有しないといった特徴を明らかにした。