情報の科学と技術
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75 巻, 11 号
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特集:写真技術と情報の伝達
  • 尾城 友視
    2025 年75 巻11 号 p. 537
    発行日: 2025/11/01
    公開日: 2025/11/01
    ジャーナル フリー

    19世紀初頭に像を化学的に定着させる写真技術が発明されて以降,写真は情報の伝達および記録の手段として人類の歴史に大きな役割を果たしてきました。その技術の進展に伴い,20世紀後半には写真の撮影という行為が広く一般に普及し,21世紀にはデジタル技術によって膨大な写真画像が社会にあふれるようになりました。その使途や目的も多様化し,私たちは生活のあらゆる場面で写真に触れています。また,生成AI技術の目覚ましい発展は,写真にも大きな影響を与えつつあります。

    本特集では,写真技術の変遷を踏まえ,写真というメディアがどのように情報を伝えてきたのか,そして今後どのように伝えていくのか,また,情報の記録媒体としての写真をどのように保存し,そのイメージといかに向き合うべきかといった問いを軸に,最新の知見や実践をお伝えします。

    鳥原学氏には,写真技術の進展について,その黎明期からデジタル写真に至るまでを概説していただきました。アナログ写真とデジタル写真の連続性への指摘は,現在の写真をめぐる問題を捉えるうえで重要な示唆であると感じます。山口孝子氏には,東京都写真美術館における写真作品の保存について,実践の様子も含めて詳しく解説していただきました。写真の保存には,写真方式や年代ごとの特徴,保存環境が材料に与える影響といった多くの知見が求められることを認識させられます。また,写真が持つ画像の情報を保存し,新たな技術で利活用する試みとして,井上さやか氏らには,「みんなで古写真【渋沢栄一伝記資料】」の取組みを,そして河角直美氏らには,「京都の鉄道・バス 写真データベース」の構築事例を,それぞれご紹介いただきました。いずれもデジタル技術を活用し,市民参加型の仕組みを取り入れている点,さらに,写真が情報の伝達にとどまらず,人々の記憶を呼び起こし,次代へとつなげる役割を果たすことを示している点は,興味深い共通項です。最後に,生成AI技術が写真および写真家に与える影響を,著作権の観点から吉川信之氏に論じていただきました。本来豊かなイメージを表現し伝えるものである写真と,その担い手である写真家の創作活動を守ると同時に,私たちもまた適切に写真を活用・発信するための深い洞察が示されています。

    本特集の企画にあたり,改めて写真というものが,多面的で,様々な要素を含む魅力的な媒体であることに気づかされました。貴重な論考をお寄せいただいた執筆陣にあらためて感謝すると共に,読者の皆さんにも新たな発見があることを願っております。

    (会誌編集担当委員:尾城友視(主査),田嶋尚晴,松井涼真,森口歩)

  • 鳥原 学
    2025 年75 巻11 号 p. 538-543
    発行日: 2025/11/01
    公開日: 2025/11/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は,写真史をアナログとデジタルに分断されたものとしてではなく,連続した系譜として概観したうえで再考を試みる。具体的には,アナログ期においても,写真を離散的要素として扱うモンタージュ的手法が研究されてきた。例として,立体視やパノラマ撮影,写真測量,さらには映画技術の発展が挙げられる。これらの連続性を検証することで,現代のCGや生成AIといったデジタル表現の基盤が明らかになる。また,AI画像の著作権や操作に関する現代的課題も,過去の技術的・文化的実践に先例を持つことが示される。本稿は,過去と現在の繋がりを強調することで,現代の映像文化をより深く理解するための新たな視座を提示する。

  • 山口 孝子
    2025 年75 巻11 号 p. 544-552
    発行日: 2025/11/01
    公開日: 2025/11/01
    ジャーナル フリー

    本稿では,東京都写真美術館における写真作品の保存実務について,環境整備,額装処置,保存箱収納,カビや有害ガス対策など具体的事例を紹介する。さらに,写真作品の記録様式やカラーチェッカー出力と測色データの蓄積といった取組を取り上げ,作品の特性把握と将来の保存に資する方法を示す。これらは日常の保存管理に基づく実践であり,他館においても参考となり得る事例である。保存環境の管理,資材選択,作品記録,蓄積した色差データを組み合わせることは,写真作品の長期的保存を支える有効な方策となる。

  • 井上 さやか, 橋本 雄太, 金 甫榮
    2025 年75 巻11 号 p. 553-559
    発行日: 2025/11/01
    公開日: 2025/11/01
    ジャーナル オープンアクセス

    近年,写真資料のデジタル公開が進んでいるが,その活用を一層促進するためには,個々の写真が持つ多様な文脈情報(セマンティックな情報)を誰もが利用可能な形で可視化し,共有する仕組みが不可欠である。私達の研究ではこの課題に対し,教育学における協調学習の手法を応用した,市民参加型のアノテーションシステム「みんなで古写真【渋沢栄一伝記資料】」を開発した。本稿では,このシステムの構築手法と実践を報告し,公開後の市民参加の動向や地域学習ワークショップでの活用事例を分析する。そこから得られた知見をもとに,市民参加型アーカイブの課題を整理し,今後の展望を論じる。

  • 河角 直美, 矢野 桂司, 佐藤 弘隆, 高橋 彰, 山本 峻平
    2025 年75 巻11 号 p. 560-565
    発行日: 2025/11/01
    公開日: 2025/11/01
    ジャーナル フリー

    本稿では,「バーチャル京都」の視点にもとづき構築された「京都の鉄道・バス写真データベース」の特徴を紹介し,まち歩きといった一般社会へ向けたその利活用について検討した。写真の位置情報の提示にこだわったこのデータベースを利用したイベントでは,人々の記憶が想起されるとともに対話もうまれていた。また位置情報を介して,本データベースと他のデータベースや史資料とを照合させることで,京都の都市史研究の進展にもつながるであろう。引き続き写真データベースを介して記憶を未来へ伝承する方法を議論していきたい。

  • 吉川 信之
    2025 年75 巻11 号 p. 566-571
    発行日: 2025/11/01
    公開日: 2025/11/01
    ジャーナル フリー

    生成AI画像の急速な普及は,「写真とは何か」という根源的問いを突きつけ,著作権や肖像権を巡る新たな課題を生んでいる。被写体を必要としないAI生成物は写真と外見上区別が困難で,フェイク報道や炎上の温床となり得る。また,既存著作物を学習して出力される生成AI画像は翻案に該当する可能性があり,著作権者の利益を侵害する懸念がある。日本の著作権法は学習段階での利用を比較的自由に認めているが,生成・利用段階では不当な権利侵害の恐れが残る。さらに,SNS規約により利用者のコンテンツが無償でAI学習や二次利用に供される問題も深刻である。写真家にとっては,オリジナル作品の正当な評価と流通を守る仕組みづくりが不可欠であり,インターネット時代にふさわしい新たなルールの構築が急務である。

連載:続・オープンサイエンスのいま 第17回
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