2025年3月号では,海外資料についての特集を企画しました。さて,今日の情報環境を概観しますと,インターネットおよび検索エンジンの登場によって,国内外の多くの資料が一般市民という立場でも簡単に閲覧可能になって久しい状況となっております。しかしながら,言語や文化の違い,情報アクセスの格差など,海外資料調査には様々な課題が依然存在している状況があります。本特集は,2025年現在の海外資料の取扱について,さまざまな図書館における実際の取り組みを共有することによって皆様の知見を深めることをねらいとしています。
総論として,パスファインダー概説を昭和女子大学の中崎倫子氏にご執筆いただきました。パスファインダーとは,特定のテーマを調査する際,役に立つ資料や調べ方の手順をまとめたガイドです。図書館において資料調査をどのように行っているのかを踏まえた上で,続く各論をお読みいただければ幸いです。
海外資料調査の実際について,より利用者からの質問が多いと思われる英語・中国語のレファレンス事例を,BICライブラリの結城智里氏,日本貿易振興機構アジア経済研究所の村田遼平氏にそれぞれご執筆いただきました。レファレンスで問われることの多い内容についても併せて執筆していただいており,各図書館での特色を感じられる内容となっております。
資料調査に加えて,日本語以外の資料をどのように収集しているかについて,東京大学附属図書館 アジア研究図書館の河原弥生氏にご執筆いただきました。多言語資料の受け入れにあたって,書誌データの作成にあたり各言語・研究分野の専門性を持つ院生アルバイトを採用することなど,大学の中にある専門図書館ならではの取り組みをご共有いただいております。
海外の情報をキャッチアップする取り組みと並行して,日本の情報を海外へと発信することについても同様に重要であると考えます。それを積極的に行っている図書館として,国際交流基金関西国際センター図書館の今西加奈氏,河田隆氏に執筆していただきました。こちらの図書館では,世界各国から集まってきた研修生に対して研修活動を行っています。専門図書館における取り組み事例について,細やかに報告していただいております。
併せて,3ページのコラムとして,大阪府立図書館にて現役でレファレンスを担当している松井涼真氏に現場担当者としてレファレンスの実際についてご執筆いただきました。「調査実務で困った経験」ということで,レファレンスを担当したことのない方には「こんなことを日々悩んでいるのか」,レファレンスデスクに就いた経験のある方にとっては「あるある」と頷いて読んでいただける内容だと思います。
市民の情報活動を支えるという図書館の役割は,情報が氾濫する今日ではより一層重要性を増していると考えております。本特集が,それぞれの図書館における創造的な取り組みを知るきっかけとなり,読者の皆様の情報活動をさらに力強く支える一助となれば幸いです。
(会誌編集担当委員:野村周平(主査),赤山みほ,田嶋尚晴,水野澄子,村田祐菜)
本稿は,情報過多の現代社会において,パスファインダーが果たす役割と意義の考察を目的としている。はじめに,紙媒体の目録や索引,インターネット検索,生成AIによる情報収集の特徴を比較し,検索行動の歴史的変遷を振り返る。次に,パスファインダーの定義と図書館での具体的な作成例を紹介し,その機能と特性を概観する。さらに,検索エンジンや生成AI,国立国会図書館のリサーチ・ナビ,レファレンス協同データベースとの比較を通じて,パスファインダーの有用性を論じる。パスファインダーが利用者にとって膨大な情報の中から信頼性の高い情報に効率的にアクセスするためのガイドとして重要な役割を果たすことを示す。
BICライブラリの前身である機械工業図書館は60年以上前の創立当時から海外産業情報の収集と提供に力をいれてきた。海外文献の抄録誌も刊行し,統計,有価証券報告書,ダイレクトリといった資料も提供してきた。洋雑誌の所蔵数がかつてから比べ激減した現在,インターネット上では入手できないレポートなどで海外産業情報を提供している。
開発途上国・地域における社会科学分野の現地語資料を中心に収集・公開する専門図書館であるアジア経済研究所図書館では,統計データや旧「満洲国」等の中国語資料関連レファレンスを受けることが多い。本稿では,中華圏担当者によるレファレンス事例を通じて,中国語資料に関するレファレンス対応実施時の留意点を述べる。中国語資料のレファレンスであっても,まずは日本語や英語で調査し,そのうえで中国語資料の特性を考慮しつつ,中国語を用いた調査を行う。技術の進展により言語的な障壁は低くなっていることから,レファレンス対応においても対象とする社会への理解が重要になってくると考えられる。
2020年10月に開館した東京大学アジア研究図書館は,蔵書構築の重要な柱の一つとして,アジア資料の寄贈を受け入れている。本稿では,まず当館における寄贈資料の重要性と,受入と整理の基本体制について概観する。次に,ユネスコ・アジア文化センター識字教育資料コレクションと本学退職教員の旧蔵資料の二つの具体例を挙げ,寄贈資料が利用者に提供されるまでの実質的なサイクルとそれを改善するための課題と試みについて述べる。最後に,アジア資料の受入促進のために取り組んでいる学生との協働,アジア資料目録作成ワークショップ,ライブラリアンのための東南アジア諸語の用語集の刊行について紹介する。
世界各国から集まってきた研修生に対して,蔵書57,000冊の小さな専門図書館が,どのようにサービスしているか,研修活動のサポートを行っているかについて述べる。日本語研修施設で行われている研修活動での図書館の役割に関する実践報告である。
本稿では,2023年度に九州大学統合新領域学府ライブラリーサイエンス専攻に設置された研究データ管理(RDM)支援人材に関する履修証明プログラムの概要と,その評価および今後の課題について述べる。本履修証明プログラムは,大学等の研究機関における研究者の研究データ管理を支援する人材の育成を目指したものである。本稿の前半では,本プログラムの概要や各科目の内容について紹介する。後半では,第1期の修了者を対象に実施した事後評価アンケートの結果から,プログラムの満足度,得られた知識やスキル,良い点,改善点などを紹介し,最後に,本プログラムに関する今後の課題について述べる。