情報の科学と技術
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75 巻, 9 号
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特集:これからのオープンアクセス:即時オープンアクセス義務化に備えて
  • 野村 周平
    2025 年75 巻9 号 p. 415-416
    発行日: 2025/09/01
    公開日: 2025/09/01
    ジャーナル フリー

    2025年9月号では,2024年2月16日 内閣府 統合イノベーション戦略推進会議が発表した「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」にて言及された公的資金による研究成果の即時オープンアクセスの義務化(以下,即時OA義務化)を主題としています。今年度(2025年度)から公募を開始する科研費等競争的研究費の研究成果は原則オープンアクセス化(以下,OA化)することが義務付けられており,まさに今これから開始するという状況です。

    本方針を踏まえて,2024年度に実施された文部科学省「オープンアクセス加速化事業」を始めとして,全国的にOA化が推進されてきている状況があります。本特集では,OA化を積極的に推進してきた機関の事例共有や,国外での取り組み等を取り上げ,これから本格化していく研究成果の公開要請に応えるための情報を提供いたします。

    オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)の運営委員長/京都大学の杉田茂樹氏には,コラムとして今日のOA事情についてご執筆いただきました。即時OA義務化は,日本におけるこれまでのOA化の流れから,大きな質的転換を伴うものです。機関リポジトリ構築・運営に長年携わられてきたご経験に基づいて論じられた本コラムは,今までとこれからを考える上での大きな助けになるかと存じます。

    筑波大学の石津朋之氏には,学内でのOA推進の現状とこれからの取り組みについて報告していただきました。筑波大学は昨年度の「オープンアクセス加速化事業」採択機関であり,オープンリサーチ出版プラットフォームJapan Institutional Gatewayの運営など,先進的な取り組みをしている機関のモデルケースとして多くの知見が詰まっている内容です。

    同じく,九州大学からも機関内のOA推進のための取り組みについてご執筆いただいております。日本の多くの機関リポジトリはJAIRO Cloudというクラウド型の機関リポジトリサービスを利用していますが(2025年度1月31日時点で738機関利用)九州大学は独自開発のリポジトリを構築・運用している機関です。独自開発の機関リポジトリならではの特徴や,研究成果をリポジトリへと収載するための機関所属者向けインセンティブの導入とその効果について示されています。

    同志社大学の佐藤翔氏には,諸外国におけるOA推進の事例についてご執筆いただきました。即時OA義務化は米国OSTPをはじめとした国外のOA推進動向から影響を受けた政策です。こちらの記事では諸外国のOA政策の実効状況が整理・比較されており,これからの日本のOA推進を考える上での大変有益な内容となっております。

    国立情報学研究所の船守美穂氏には,権利保持戦略についてご執筆いただきました。権利保持戦略とは,論文の自由利用条件を出版社に著作権を譲渡するよりも以前に指定した上で投稿することにより,論文を自由に公開,再利用等をできる権利を保持しようとする戦略です。これは出版社が定める論文のエンバーゴ期間(刊行から一定程度の公開猶予期間)を乗り越えるための取り組みとして,研究助成機関が被助成者に対し,研究助成の条件として組み込むことや,大学等研究機関が権利保持ポリシーを策定し所属教員にポリシーに沿った形で論文を投稿することを指示するといった形で実施されております。即時公開を実効していくための理論である権利保持戦略を学ぶことは,日本のよりよいOA化政策の進路を検討することにも繋がると考えます。

    国立情報学研究所の谷藤幹子氏には,研究所内での取り組みについて詳述していただきました。先述JAIRO Cloudは国立情報学研究所が開発した機関リポジトリサービスであり,日本の多くの学術機関で利用されています。また,同研究所が構築・運用するNII研究データクラウドも日本の研究成果公開の根幹に位置付けられている大変重要なサービスです。当該記事においては,利便性を更に向上させるために行われた取り組みと今後の指針について,それぞれ解説されております。

    内閣府上山本府参与室の上山隆大氏には,総合科学技術・イノベーション会議の常任議員に就任されて以来のオープンサイエンスにまつわる政策動向について論じていただきました。上山氏は,2016年から本年3月まで常任議員を務められており,今回の公的資金による研究成果のOA化を実現するためにこれまでも検討を進められていました。即時OA義務化の理念は,オープンサイエンスの実現にあります。制度設計者と実務担当者との間で同じ理念を共有し,同じ方向へと伴走していくことで,オープンサイエンスを社会実装していくために。これまでの取り組みと,今後の学術流通の未来についての知見を共有していただいたことに,実務担当者の一員として非常に大きな価値を感じております。

    即時OA義務化に伴い,これまでのOA推進から大きく環境が変化します。本特集の主査も図書館員のひとりとして,その環境の変化に向き合い,そして理念を実現するために微力を尽くしていきたい。本特集が,この変化に図書館員が向き合うためのヒントを与えるものとなれば幸いです。

    なお,本特集の記事はいずれも刊行後,即時OA化します。弊誌は通常,雑誌運営上の都合から刊行後6カ月後にOA化するという方針を取っておりますが,本特集のテーマの内容や速報性を鑑みて,協会理事・協会長・執筆者各位に確認した上で今月号のみ特別対応を行いました。関係者の皆様に,この場を借りて,改めて深く御礼申し上げます。

    (会誌編集担当委員:野村周平(主査),尾鷲瑞穂,大澤紗都)

  • 杉田 茂樹
    2025 年75 巻9 号 p. 417-418
    発行日: 2025/09/01
    公開日: 2025/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
  • 石津 朋之
    2025 年75 巻9 号 p. 419-425
    発行日: 2025/09/01
    公開日: 2025/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿では,筑波大学におけるOA推進の現状と即時OA義務化に向けた課題,具体的な取り組みについて事例を報告する。2025年初頭に実施した意識調査では,研究者のOAに対する認識の実情と,直接的な支援の必要性が明らかになった。全学的な意思決定の場を設けることで,実際の支援の開始,更には,部局の枠を超えた体制の整備と意識の醸成を進めている。本学独自の取り組みであるJIGでは,他にはない強みを生かして学内外への普及と利用促進を図っている。つくばリポジトリでは,即時OA義務化への対応と教員の負担軽減の両立に向け,登録支援ツールを開発した。本稿で紹介するこれらの取り組みは,各機関でのOA推進にもぜひ活用いただきたい。

  • 芦北 卓也, 平野 かおる, 大澤 紗都, 兵藤 健志, 堀 優子
    2025 年75 巻9 号 p. 426-431
    発行日: 2025/09/01
    公開日: 2025/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    九州大学では,2016年のオープンアクセス方針策定以降,その推進において様々な取り組みを行ってきた。特に,九州大学学術情報リポジトリ(QIR)は,図書館業務システム「E-CatsLibrary」を用いて構築しており,その特長を生かしメタデータの流通や学内システムとの連携などオープンアクセス推進のための機能面の充実を図ってきた。また,オープンアクセスを実質化するための「リポジトリ登録インセンティブ」の導入や,リポジトリ登録を効率化するための「リポジトリ登録支援システム」の開発など,オープンアクセスを加速するため制度面やシステム面の整備も進めている。本稿では,リポジトリに焦点をあてつつ,本学のオープンアクセス推進の取り組みを紹介する。

  • 佐藤 翔
    2025 年75 巻9 号 p. 432-436
    発行日: 2025/09/01
    公開日: 2025/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    日本の即時オープンアクセス義務化方針はG7をはじめとする諸外国のオープンアクセス推進動向の影響を受けたものである。本稿ではそれら諸外国におけるオープンアクセス推進政策,特にオープンアクセス義務化方針について,対象となる論文,エンバーゴの有無,実施手段(いわゆるGoldとGreenのいずれを要求しているか)などの特徴をまとめるとともに,各国のオープンアクセス実現状況についても手段ごとにまとめ,比較する。オープンアクセス義務化方針のあり方が実現にどう寄与しているかの関係を見ることで,日本の義務化方針の成否を占うことを試みる。

  • 船守 美穂
    2025 年75 巻9 号 p. 437-446
    発行日: 2025/09/01
    公開日: 2025/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    日本においても,即時オープンアクセス(OA)を2025年度競争的研究費公募分から推進することになった。日本の即時OAは,競争的研究費から生み出された研究成果である論文とその根拠データを即時OAとするにあたり,機関リポジトリ等への掲載を義務づけたところに特徴がある。一方,これは,論文が購読誌に掲載され,論文出版契約を通じて著作権譲渡がなされている場合,出版社への権利侵害となる可能性が高いため,なんらかの措置が必要である。先行して即時OAを推進する欧州は,研究助成機関や一部の国の大学が「権利保持」戦略を適用している。本稿は,この「権利保持」の仕組みを詳説するとともに,日本の即時OAにおける「権利保持」の仕組み導入の意義を説明する。

  • 谷藤 幹子
    2025 年75 巻9 号 p. 447-452
    発行日: 2025/09/01
    公開日: 2025/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    オープンアクセス(OA)は科学技術の成果を社会と共有する手段として広く浸透し,近年では研究の過程やデータの利活用を含む「オープンサイエンス」へと発展している。国立情報学研究所(NII)は,FAIR原則に基づく研究基盤「NII研究データクラウド(NII RDC)」を構築・運用し,2024年度のオープンアクセス加速化事業を通じて,機能の改善・高度化を図った。本稿では,NII RDCの利便性向上に向けた取り組みを報告する。

  • 上山 隆大
    2025 年75 巻9 号 p. 453-459
    発行日: 2025/09/01
    公開日: 2025/09/01
    ジャーナル フリー

    本論文は,筆者が2016年から2024年にかけて推進してきたオープンサイエンスならびにオープンアクセス(OA)の政策形成過程を,オープンサイエンスに関する国際的な文脈と各国の取り組みとの比較を交えて,いくつかのフェーズごとに論じている。我が国におけるオープンサイエンスは,いわゆるOA政策と研究データの公開に関わる政策から構成される。この論文では,内閣府が主導したオープンサイエンスはまず後者への取り組みから始まり,2022年8月から文部科学省とも一緒に本格的なOAプラットフォームを作り上げていったプロセスを論じている。

連載:続・オープンサイエンスのいま 第15回
事例報告
  • 笠原 禎也, 長井 圭治, 高田 良宏
    2025 年75 巻9 号 p. 465-470
    発行日: 2025/09/01
    公開日: 2025/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    研究データポリシーの策定や,研究成果の即時オープンアクセス(OA)の義務化など,各大学が研究データ管理体制の確立を迫られる中,金沢大学が全国に先駆けて進めてきた研究データ管理体制整備の取り組みを紹介する。特に,コアファシリティ事業を契機に制定したデータポリシーを,制定3年後に改訂するに至った経緯とその骨子,さらに研究推進部,学術メディア創成センター,附属図書館による「三位一体」の連携体制と,それを支えるオープンサイエンスシステム(OSS)について詳述する。さらに,北陸地域を中心に研究データ管理体制の普及と発展を目的に設立した「北陸研究データ基盤コンソーシアム」の活動についても報告する。

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