著作権法等の改正により,図書館等公衆送信補償金制度(以下「本制度」という)における特定図書館の登録等が令和7(2025)年1月から始まりました。これにより,図書館において,従来認められていた著作物の一部分の来館複写や郵送複写に加えて,メール添付等による公衆送信が可能となりました。あわせて,公衆送信によって著作権者や出版者が受ける不利益を補填するため,補償金制度が導入されています。しかし,公衆送信ができる「参加特定図書館」は29館にとどまり1),中には実際に図書館等公衆送信サービス(以下「サービス」という)を提供していない館もあるようです。
本特集では,本制度の概要や成立経緯,ガイドライン等の要点を解説していただくとともに,様々な立場から運用・利用についてご報告いただくことで,制度全体を俯瞰的に捉えられないかと考えました。
本多竜二氏には,著作権法改正に至った経緯,改正された条文の内容,本制度運用開始までの過程を概説していただきました。時系列に沿って,本制度の背景を把握することができます。小池信彦氏には,サービスの指針となる「図書館等における複製及び公衆送信ガイドライン」と「公立図書館における図書館資料のメール送信等のサービス事務処理手引書」の策定経緯と要点を解説していただきました。
村瀬拓男氏には「図書館等公衆送信補償金規程」,特定図書館等の登録や利用報告について解説していただくとともに,本制度の利用状況,指定管理団体(SARLIB)の事業運営を詳しくご紹介いただいています。また,上田奈緒美氏と川上尚恵氏からは,東京都立図書館でのサービス導入の検討から提供開始までの経緯,現場の運用フローや利用状況を踏まえた課題をお示しいただきました。そして山田奨治氏には,国立国会図書館のサービス利用によって感じた利便性と課題,将来的に期待する点を率直に述べていただきました。立場や考え方は異なりますが,いずれもより良いサービスに発展していくことを願われており,本制度の継続的な見直しに資する内容だと感じます。
最後に,鈴木康平氏には,本制度における法的論点のうち,著作物の全部の複製,図書館間相互貸借との関係,事前に複製された図書館資料の複製物の利用について論じていただきました。本制度の可能性を考えるうえで重要な示唆であり,さらなる検討が待たれます。
本特集が,皆様にとって本制度の理解を深める助けとなり,今後の検証やサービス実施及び利用のきっかけとなれば幸いです。
(会誌編集担当委員:森口歩(主査),松井涼真,吉村雄太)
1) “SARLIB参加特定図書館リスト(2026年5月25日現在)”.SARLIB.https://www.sarlib.or.jp/wp-content/uploads/2026/05/library-list20260525.pdf, (参照2026-07-01).
2021年の著作権法改正により,図書館に関する権利制限規定の対象が拡大された。これにより,図書館は従来,図書館資料の複製物を利用者に対して紙媒体に限って提供することが認められていたが,補償金の支払いを条件として,公衆送信による提供も可能となった。本稿では,本制度の運用が開始された2025年1月から約1年半が経過した現時点において,当該法改正の背景および経緯,改正条文の内容,並びに補償金額の認可から特定図書館の登録受付開始に至るまでの一連の動向について,時系列に沿って整理するとともに,今後の展望について概観する。
令和3年の著作権法改正により,国立国会図書館のデジタル化資料や特定図書館の資料を個人向けにデジタル送信することが可能となった。これに伴い策定されたガイドラインや手引書に基づき,各図書館は適切な運用を行う必要がある。利用者の厳格な本人確認や規約同意の取得,複製データ作成,ID等の不正拡散防止措置の実施が求められる。また,資料の発行日を基準に補償金の要否を判定し,特定図書館等は,提供から3か月以内に指定管理団体(SARLIB)へ実績報告とデータ送信を行い,補償金を支払う義務を負う。
令和3年の著作権法改正で新設された特定図書館等による公衆送信制度に関し,補償金の収受・分配を担う唯一の団体であるSARLIBの運用実態と課題を報告する。令和7年3月の業務開始から1年余りで約13,000件の利用があり,検索が容易で著作物全部の送信が可能である定期刊行物が圧倒的多数を占めた。収受した補償金総額は約1,725万円である。管理手数料控除後の分配事業においては,権利者の特定や,その最新の口座情報等の把握は必ずしも容易ではなく,利用1件あたりの平均分配額が少額なため,探索コストを抑えた効率的な分配方法の構築が急務となっている。
令和3年の著作権法改正により,図書館等における公衆送信が制度上可能となり,各地の図書館においてサービス導入の検討が進められている。本稿では,東京都立図書館が特定図書館として公衆送信サービスの検討を開始し,規程整備,職員研修,委託業者を含めた体制構築を経て運用に至るまでの実務を整理した。あわせて,サービス開始後の利用状況を踏まえ,判断が難しい事例への対応やキャンセル率の高さなど,運用を通じて明らかとなった課題について報告する。実務の現場で生じた判断や調整の過程を共有することで,今後同様のサービス導入を検討する図書館にとっての参考としたい。
図書館等公衆送信補償金制度の法的論点として,①著作物の全部の複製,②図書館間相互貸借との関係,③事前に複製された図書館資料の複製物の利用,についてそれぞれ検討した。検討結果は次の通り。①少なくとも入手困難な図書館資料については,全部の複製を認める余地がある。②図書館間での公衆送信を認めても,本制度と比して著作権者の不利益は大きくないと考えられるため,図書館間相互貸借にあたって公衆送信を認めても問題はないと考えられる。③他の権利制限規定により適法に複製された図書館資料を本制度において用いることは,条文の文言や補償金額の認可過程を考慮すると,可能であると考えられる。
研究データ管理(RDM)の重要性が高まる一方,機微情報を含む研究データでは,オープン化とセキュリティを両立した共有・探索・利活用が課題となっており,導入・運用には専門人材の不足やコスト増大も顕在化している。本稿では,研究データエコシステム構築事業における中国四国コンソーシアムの取組みを対象に,GakuNin RDMと文献調査システムIntellectraの連携により,閉域環境における研究データ探索基盤を構築するとともに,コミュニティ形成及び共同運用による効率化を組み合わせた運用モデルを検討する。そのうえで,技術基盤と運用体制を一体として設計するコンソーシアム型運用モデルの意義,課題,今後の展望について論じる。
生成AIの急速な進展は,知財インテリジェンスのあり方を大きく変えつつある。本稿では,AI関連発明の出願動向から技術進展を俯瞰するとともに,特許庁および出願人における生成AIの知財業務への活用状況を整理する。さらに,富士通の知財インテリジェンスの進化事例を通じて,業務効率化にとどまらず戦略的意思決定支援へと高度化するための課題と対応策を提示する。あわせて,ガバナンスと人材育成の重要性を指摘し,生成AI時代における知財インテリジェンス機能の方向性を考察する。
論文発表頻度は分野間で異なることから,多様な研究者の活動度を公平に比較するために正規化論文数の活用が考えられる。本研究では国内36大学のデータを用い,正規化の基準値となる分野毎の平均論文生産性を精度よく推定するうえで必要なサンプルサイズや,大学単位でのクラスター抽出の妥当性を検討した。その結果,学系間の比較的大きな差異を検出できる必要サンプルサイズは約600と推定された。対象大学の平均論文生産性は,研究レベルの偏りを調整して推定した国内平均より大きかったが,分野間の大小関係は類似していた。これにより,クラスター抽出が正規化論文数による分野を超えた活動度比較に及ぼす影響は小さいことが示唆された。