臨床倫理コンサルテーションは医療従事者から希求されているが,その普及は十分ではない.臨床倫理的なジレンマが存在するというコンセンサスはあるものの,どのように対応するのかのコンセンサスがないことが課題である.本稿では,臨床倫理コンサルテーションでの具体的な対応について考察していく.まず臨床倫理に関する過去の文献を振り返り,臨床倫理の具体的な作業について考察をし,その本質は価値の比較考量と選択であることを明らかにし,その手順を4段階に整理した.次に,臨床倫理コンサルテーションの手順を確認し,当事者への応答について考察を行い,自験例から典型的な臨床倫理的問題への確認事項の返答と価値判断を伴う返答における具体例を示し,円滑に活動できるための手順の提案を行った.これらにより,臨床倫理支援が病院機能として医療安全対策や感染防止対策と同じ様に,恒常的に機能するための一助となることを期待する.
子宮内膜の脱落膜化は,胚着床と妊娠の維持に必須の過程である.脱落膜化の障害は不育症,流産,および妊娠高血圧腎症などの周産期疾患をもたらす.排卵後の黄体から分泌されるプロゲステロン(P)によって,子宮内膜間質細胞は形態学的および機能的に分化する.子宮内膜間質細胞におけるHeart and neural crest derivatives-expressed transcript 2 (HAND2)はP受容体に直接制御される転写制御因子群の一つである.HAND2活性の促進が,子宮内膜間質細胞における血管新生因子やサイトカインの産生・分泌を制御する.間質細胞はこれらの因子を介して,血管内皮細胞や免疫細胞と相互作用することで血管構築および免疫寛容の成立に寄与する.我々は子宮内膜間質細胞におけるHAND2が,fibroblast growth factor (FGF) 9-FGF受容体シグナル伝達を抑制することによりangiopoietin 2 (ANGPT2)産生を減少させ,分泌期子宮内膜における血管構造に寄与している可能性を報告した.さらに,HAND2がIL15遺伝子発現を直接制御することにより,胚着床の過程における免疫寛容の成立にも重要な役割を果たしていることを明らかとした.
好酸球性副鼻腔炎(Eosinophilic chronic rhinosinusitis: ECRS)は,高頻度に喘息を合併する難治性の慢性副鼻腔炎であり,上下気道にわたる好酸球性気道炎症である.炎症局所に浸潤している組織好酸球は,活性化し病態形成に重要な役割を果たしている.好酸球の活性化マーカーとしてCD69分子が知られているが,CD69分子の機能的役割は,十分に解明されていない.そのため我々は,好酸球性副鼻腔炎患者の組織から好酸球を単離し,好酸球の活性化とCD69の発現の相関およびその機能的役割の解明をおこなった.結果,CD69分子がヒト末梢血好酸球に比較して組織好酸球に高く発現し,CD69の発現量が症状の重症度と相関していることを明らかにした.さらには,CD69の刺激により好酸球性特異的組織傷害性タンパク質の一種であるEPX(Eosinophilic Peroxidase)を放出することを明らかにした.このことより好酸球性副鼻腔炎に対して,CD69分子は新たな治療戦略のターゲットとなることが期待される.
血糖値を適切にコントロールすることは,周術期や集中治療における重要な治療目標である.膵β細胞からのインスリン分泌は,血中グルコース濃度の上昇に応じて惹起され血糖コントロールにおいて重要な役割を担う.これまでの研究で揮発性麻酔薬を含む周術期に使用する麻酔薬がグルコース刺激インスリン分泌に影響を与えることが報告されている.一方,麻酔・集中治療領域で広く使用されている静脈麻酔薬が,グルコース代謝やインスリン感受性に与える影響は,細胞生物学的にほとんど検討されていない.我々は電気生理学的手法を用いることでプロポフォールが臨床使用濃度においてストロマトキシン-1感受性の電位依存性K+チャネルを特異的に阻害し,MIN6細胞,INS-1細胞,マウス膵β細胞/膵島において,グルコース存在下でインスリン分泌を促進することを示した.麻酔薬がインスリン分泌に与える影響やその作用機序を解明することは,臨床使用における患者への影響を理解する上で重要である.
先天性水腎症(congenital hydronephrosis: CH)は最も多い先天性腎尿路異常であるが,統一された診断基準がないため,その正確な頻度は明らかでない.また軽症例は自然軽快するとされているが,ほとんどが後方視的研究で,軽症CHの長期予後を前方視的に検討した報告はない.そこで筆者らは,日本人新生児の生後1か月時におけるCHの頻度を調査するとともに,生後1か月時に発見された軽症CHの自然経過を明らかにする目的で前方視的に検討を行った.その結果,生後1か月児の1,009人を対象に,CHの頻度は100例118腎(9.9%)であった.そのうちSFU1度が87腎(74%),SFU2度が30腎(25%),SFU3度が1腎(1%)およびSFU4度が0腎であった.またSFU(society for fetal urology)分類で1度または2度の軽症CHのうち,1度のCHは1年で90%,2年で99%が自然軽快し,2度のCHは1年で32%,2年で60%が自然軽快した.したがってSFU1度は症状を認めなければ以降のフォローは必要なく,SFU2度は1年ごとに腹部超音波検査で再検し,方針を決定すれば良いと思われた.
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックは,様々な分野において半ば強制的に非対面のオンライン化を促すこととなったが,対面実習の完全な代替に至っているとは言い難い.これは医学教育においても例外ではなく,特に人体の三次元構造を学習する肉眼解剖学実習は,その特性上オンラインでの代替は困難である.本研究では,肉眼解剖学を履修する医学部生を対象に,オープンリソースの医用画像からの三次元像再構築を目的とする特別課題を実施し,学生自身による三次元像再構築の可能性と,人体の三次元構造に対する理解度の向上に効果があるかを検証した.本研究では,肺を題材として取扱い,DICOMデータの入手法やソフトウェアの利用法に関するオンデマンド動画を教材として提供することで,非対面自学自習形式の課題を課した.その結果,本課題に参加した学生の96.0%が三次元再構築像を提示し,うち17.2%の学生は肺区域や気管支,血管の立体構造を含む完全な三次元再構築像を提示するに至った.また,本課題の得点,および参加・不参加により学生を4グループに分け,人体の三次元構造を問う実習形式試験の平均点を解析した結果,人体の三次元構造を問う実習形式試験において,統計学的な有意差はみられなかったものの本課題の得点との一定程度の相関傾向がみられた.本研究により,適切な教材を提供することで学生自身による医用画像からの三次元像再構築は十分可能であることが明らかとなった.また,本研究で用いた非対面自学自習形式教材が人体の三次元構造理解促進に有効である可能性が示唆された.